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さくらの熱量チャレンジ 第30回

産学医がタッグを組んだ医療電源の開発プロジェクトを追う

大震災を経験した東北の医療現場を救うワンダーパワーステーション誕生の舞台裏

2019年02月19日 09時00分更新

文● 大谷イビサ/TECH.ASCII.jp 写真●曽根田元

提供: さくらインターネット

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医師会と大学からスタートし、オール東北で取り組む

 20年に渡って培ってきた技術とノウハウを注ぎ込んだフルインターカレーションリチウム電池。白方氏も「商品化しなければ、この電池の真価は理解されない」とのことで、長年勤めていた大手メーカーでも安価な家庭用蓄電池にこだわってきたが、実現までには至らなかった。「容量を稼ぐために安全性の低い電池を作り、それをカバーする過剰な安全性を追求するためにさまざまな制御回路を取り付けて、結果コスト高になってしまっていた。でも、僕はそんなものは作りたくなかった」と白方特任教授は振り返る。大手メーカーを辞め、東北大学に移って積み重ねた実績と反骨精神が生み出したフルインターカレーション電池と視点を変える発想が、地元東北で動き出したワンダーパワーステーションに引き継がれることになった。

 「あの東日本大震災を経験した東北から発信!」を謳うワンダーパワーステーションは、東日本大震災を経験し、防災システムの必要性を痛感していた仙台医師会と電池の技術を持つ東北大学から企画が生まれ、東北大学未来技術共同研究センター(NICHe)と地元ベンチャーの未来エナジーラボ、石巻のI・D・Fがフルインターカレーションリチウムイオン電池の開発と製造を担当する。その上、ワンダーパワーステーション自体の製造は配電盤・分電盤メーカーの古川電気工業、販売はレジスターやLEDサイネージを手がける東和プロネッツが手がけ、東北大学と仙台医師会で実証実験を進めた。技術開発、製造、販売まですべて地元東北にこだわり、3年の歳月を経てようやく製品化にこぎ着けた。「企画段階から、こういう商品はやはり東日本大震災で大きな被害を受けた東北で作るべきだというコンセプトでした」と東和プロネッツの杉山孝二氏は語る。

東和プロネッツ 統括本部長 常務取締役 杉山孝二氏

 もちろん、商品化までは一筋縄ではいかなかった。3年前、蓄電システムの技術的なコアにあたるフルインターカレーションリチウムイオン電池は量産段階までには至ってなかったし、さまざまな関係者が関わってきたことで、意志決定にも時間がかかっていたという。最終的に関係者をまとめ、製品化までこぎつけたのは、販売会社である東和プロネッツ社長の目黒一夫氏の力が大きかった。

 長らくレジスターやLEDサイネージを手がけてきた東和プロネッツは、顧客にあたる小規模店舗に向けた商材として、蓄電池の事業に未来を見いだしていた。「蓄電池の事業を始めたのもやはり社会意義を感じたからです。日本は国土が火山の上にある災害大国ですし、なにより安全な電池だから飛びついた。中小企業にとっては安全という要件はとても大事なんです」と目黒氏は語る。

東和プロネッツ 代表取締役 社長 目黒一夫氏

 安全で抵抗が低い優れた電池に加え、それを量産する工場、ニーズにあった最終商品に作り上げるためのメーカー、地元の医師会と連携する販売体制まで揃った。そして、最後に欠けていたのは障害対策や製品開発に必要な「データ収集」というピースだ。これを実現したのが、さくらインターネットの「sakura.io」。IoTに最適化されたsakura.ioによって蓄電池の電圧や電力をモニタすることで、リアルタイムに稼働状態を把握できるようになった。

最後のピース「データ収集」を実現するsakura.io

 東和プロネッツからsakura.ioに関して相談を受けたのが、同社の元営業マンで、現在はIT系の会社を運営するアイティプロジェクトの荒木義彦氏だ。荒木氏は、さくらインターネットも協賛しているKids Ventureのプログラムとして、地元の子どもたちにIchigo Jamなどを使った電子工作を教えており、電子工作やsakura.ioについて知見を持っていた。「目黒社長から『ソーラーの監視をしたい』という話をいただいて、最初は怪訝に思ったのですが、話を聞いたところ面白そうだったので、sakura.ioをご紹介しました。東日本震災を体験した者として、地元の医療に寄与できると思いました」(荒木氏)。

アイティプロジェクト 代表取締役 荒木義彦氏

 荒木氏がsakura.ioを提案した理由としては、「月額60円という低廉な料金」「WiFiを導入しにくい医療現場でも使える」「閉域網なのでセキュリティが高い」「クラウド側の仕組みが作り込まれている」の大きく4つ。加えて、sakura.ioを使ったシステムを構築したかったという理由も大きい。「子どもたちがプログラミング教室で使っているIchigo Jamを発展させたら、こんなすごいシステムが実現できるし、もしかしたら君にもできるということを伝えたかったんです」(荒木氏)。

 面白かったのは、白方特任教授もsakura.ioが念頭にあったという点だ。「当初は地産にこだわってたので、地元の方々とも連絡とってみたのですが、こちらのやりたいことをイマイチ理解してもらえなかった。大手のクラウドはちょっと面倒くさそうだったので、とにかくシンプルなsakura.ioを選びました」(白方特任教授)とのことで、選定はきわめてスムーズだったという。

 sakura.io導入背景は障害に対する予防保守だ。白方特任教授のフルインターカレーションリチウムイオン電池は、その設計思想として「安全性」にフォーカスしているが、100%安全を謳うには実績がない。そのため、ワンダーパワーステーションに搭載したセンサーモジュールでは電流や電圧を測定し、定期的にさくらのセキュアなデータセンターに送り続ける。試作機では電圧や電流など一定間隔で値を採取し、サーバー側で算出した平均値を元に異常かどうかを判断。しきい値をベースに障害を察知し、東和プロネッツが予防的な保守に活かすわけだ。「そもそも安全な電池なので、障害はないと思っていますが、こうした仕組みが用意されていれば、お客様もより安全です」(杉山氏)。

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