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小池発言を“新旧対照表”で検証、「築地は守る」の変質とごまかし

文● 週刊ダイヤモンド編集部,岡田 悟(ダイヤモンド・オンライン

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小池百合子都知事
Photo by Takahisa Suzuki

消えた「食のテーマパーク」構想。築地での市場機能の確保という構想も霧散。中央卸売市場が豊洲に移転してからの築地再開発計画をめぐる変質について、小池百合子東京都知事の発言内容の「新旧対照表」と共に検証する。(「週刊ダイヤモンド」編集部 岡田 悟)

「食のテーマパークというのは、いろいろ捉え方にもよることだと思いますけれども」――。

 上の表は、小池百合子東京都知事の人気が絶頂にあり「築地は守る、豊洲を活かす」を掲げて、直後の都議選で圧勝した2017年6月20日と、今年1月23日に都が新たに公表した「築地まちづくり方針(素案)」を受けての小池知事の記者会見での発言を、テーマ別に比較した新旧対照表である。

 今年の素案公表後は、実際には方針を大転換しているにもかかわらず「変えた」とも「変えていない」とも取れる、ごまかしを意図したかのような玉虫色の発言のオンパレードだ。

 1年半前に「食のテーマパーク」などと記された資料を報道陣に配布した上で、「これから、日本一の世界に誇る築地ブランドからの食に魂を込めまして、この築地を再開発するという基本方針を判断するに至ったところでございます」と熱弁をふるった。

 さらに、築地を東京オリンピック・パラリンピックの輸送拠点(デポ)として利用し、その後の再開発を経た地での営業継続を望む仲卸業者に対しては「やはり築地だからこそ経営が可能だと考える方々もおられるわけでございまして、そういった方々に対しては、築地へまた復帰される際のお手伝いはさせていただくということでございます」と明言。当時の配布資料にも「新たな築地の姿」の項目に「仲卸の目利きを生かしたセリ・市場内取引を確保・発展」と記載されていた。

 だが新たな素案にはもはや、市場機能や「食のテーマパーク」は跡形もない。冒頭のように、「捉え方にもよる」と述べるなど言い訳がましい限りだ。

「不実な政治姿勢」と批判した朝日社説

 その代わりに素案に出てきたのは、「国際会議場等の機能を中核としながら、文化・芸術、テクノロジー・デザイン、スポーツ・ウェルネス(健康増進)などの機能が融合して相乗効果を発揮し、東京の成長に大きく寄与する交流拠点として発展していく」などという文言。具体的には、国際会議場や展示施設、高級ホテルや広場、舟着き場などを整備するそうだ。

 これに噛みついたのが、築地市場跡地の真正面に本社を構える朝日新聞。「築地市場跡地 小池都知事に問いたい」と題した1月28日付社説で「築地を支持する人たちに、新旧の市場が両立できるかのような期待を抱かせたのは間違いない」とした上で「方針を変えたのであれば『変えた』とはっきり認め、理由をていねいに説明し、理解を得るのが筋だ」と指摘した。東京新聞も2月4日付社説で同様の批判を展開している。

 小池知事はまた、豊洲市場の建設や運営による卸売市場会計の赤字圧縮のために都民に負担を求めるかどうかについて、17年6月には「これから税金をドーンと投入することなどあってはならない」と明言している。

 にもかかわらず、今回の素案の実現のため、築地跡地を所有している卸売市場会計から、まさに都民の税金などからなる一般会計への「有償所管換え」といわれる手続きのために、約5600億円の税金を文字通り“ドーンと”投入することを決定した。

 朝日社説は「不実な政治姿勢は、跡地開発の行方だけでなく、都政運営全般に影を落とすと肝に銘じるべきだ」と戒めて結んでいるが、小池知事の心にはどの程度響いたのだろうか。

 本誌は2月1日の定例記者会見で、(1)仲卸業者が再開発後に築地に戻ることができる可能性が現時点でも残っているのか否か、(2)一般会計からの5600億円の投入が当初からの方針変更に当たるのか否か――の2点を質問した。

 ところが小池知事は、記者が(1)を言い終えたところで「その質問だけお答えいたます」と質問を妨害。2点に対して答えるよう求めたところ同意したが、(1)については「先週もお答えいたしましたように、関係局長会議においても、築地にお戻りになりたいという方々のご意見はしっかりと聞いてまいりますということを発言し、また、その点については同じだとお答えしております。ただ、まだ移転をして2ヵ月というところで、それぞれが定着するようにご努力をいただいているところでございますので、まずは中核的な市場としての豊洲市場、これの定着を図ると。まさに現時点、We are here.でございます。それに取り組んでいくということであります」となぜか英語を交え、前週の会見と全く同じ文言を繰り返した。

側近から紙を渡されないと答えられない小池知事

 そして(2)については、(1)への発言を終えてから、いつも会見に陪席している都政策企画局の河内豊・報道総括兼知事補佐担当理事から急遽受け取った紙を見て「2番目の有償所管換えにつきましては、これは、あの、都民にとりましての有効な資産をどのようにして活用していくかということで、都の会計間における適正な価格で移し換えるということでございます。これによって、築地市場の跡地を将来の東京全体としての価値の最大化を目指す、再開発につなげていくということでございまして、これについては有効な財産をともに生かしていくという方向性で、この今回の結論に至ったということでございます」と朗々と読み上げた。なんのことはない。手元に紙がないから、(1)しか答えたくなかったのである。

 記者が「答えになっていない。回答は2択だ」と改めて明確な回答を求めたが「はい、お答えした通りです。ありがとうございました」とこわばった笑みを浮かべて会見を打ち切ろうとした。

 これらの言動からすれば、小池知事の政治姿勢が不実かどうかは、もはや詳しく述べるまでもあるまい。

 さて、新たに決まった5600億円の税金をかけて取得した土地を再開発して貸し出し、賃料を得ることで、将来この金額を回収することができるのだろうか。

 17年6月のプランでは、都税を支出することなく卸売市場会計の赤字を縮小して大幅な資金ショートを避けるためには、年間160億円の賃料収入を得る必要があるとの試算を都財務局が作成していた。

貸出面積が大幅減でも収入見通しは微減の謎

 160億円を毎年稼ぎ続ける前提条件について都財務局はかつて、本誌の取材に「跡地の北側に高層オフィスビルを4棟、南側にタワーマンションを3棟建設するなど最大限の開発をした場合」と説明していた。

 だが「築地は確かに一等地だが、交通の便が悪く、大手町や八重洲に比べればオフィスには向かない」(不動産大手のオフィスビル開発担当幹部)と言われる。

 マンション市況についても、不動産経済研究所がまとめた首都圏の2018年の統計では、販売開始月に契約に至った戸数の割合を示す「初月契約率」は前年比6.0ポイント減の62.1%という低水準だったと発表。

 加えて築地に隣り合う晴海では、東京五輪の選手村が大会終了後に4000戸超、マンションとして分譲される計画で、付近の相場を大きく押し下げると懸念されている。一時は大人気だった“湾岸タワマン”の冬の時代がひたひたと近づいているとも言えるのだ。

 さすれば、年間160億円はあまりに現実感がないと言わざるを得ないが、こちらについて都財務局は「いくつかの極端な試算パターンのうちの一つで、卸売市場会計の負債を圧縮し、大幅な資金ショートを回避できる数字として弾いた賃料額だった」と認める。

 では、新たな試算はどうか。

 市場跡地を卸売市場会計で保有したまま、新たな計画で民間に貸し出した場合、跡地を段階的に再開発して2029年度以降毎年154億円の賃料収入を得られるとの条件を置いている。それでも、全体の開発が終わるまで時間がかかるといった理由から暦年の賃料収入の総額が減り、25年度と早期に資金ショートが発生するとした。

 だが、少し待ってほしい。新たな素案では跡地に広場を整備するなど、160億円を弾いた試算の前提と比べて、外部に貸し出せる延べ床面積が大幅に縮小する。にもかかわらず、賃料収入はわずか6億円のマイナスにしかなっていない。

 また、小池知事が採用するとした有償所管替えにより、跡地を一般会計に移せば、入れ替わりで5600億円もの税金を卸売市場会計に流し込むことになるのだから、卸売市場会計は約50年間、資金ショートを回避できるとしている。だが、一般会計への年間の賃料収入の見通しはそもそも明記されていない。

 都財務局は「154億円という数字を無視するわけではないが、段階的に開発されるので賃料収入の見通しを示すのは難しい。都への実入りだけではなく周辺への波及効果も勘案している」と説明するが、いずれにせよ「税金をドーンと投入することなどあってはならない」と1年半前に言い切った小池知事の発言との整合性は問われるべきだろう。

やっぱり浮上するカジノ計画

 ただし、素案で示された国際会議場などとセットになりがちなカジノが併設されれば、収益力は一気に向上する。

 小池知事は、新旧対照表にあるように「カジノという言葉は素案に出て来ないので、その方向性で行きたいと思う」と、何とも言えない言い回しでカジノを計画に盛り込まない考えをにじませたが、明確に反対を表明したわけでもない。

 カジノは、わずかな面積でも多大な収益を稼ぎ出せる。しかも築地再開発は、これから長期間、段階的に進められるものであり、現時点ではまだ素案の段階だ。小池氏が知事をとっくに退いてから、カジノが計画に盛り込まれる可能性は大いに残る。


※本記事はダイヤモンド・オンラインからの転載です。転載元はこちら

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