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JDIに買収提案の中台連合が取締役過半数派遣で狙う「実効支配」

文● 週刊ダイヤモンド編集部,村井令二(ダイヤモンド・オンライン

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経営再建中の液晶大手ジャパンディスプレイ(JDI)が、中国・台湾企業のコンソーシアム(連合)から買収提案を受けている。このまま「日の丸ディスプレー」は、中台連合の軍門に下るのか。本誌が入手した資料で、全貌が明らかになった。(「週刊ダイヤモンド」委嘱記者 村井令二)

JDIとINCJの幹部の中国浙江省を訪問時の集合写真
2018年12月、JDIとINCJの幹部が中国浙江省を訪問。本誌が入手した集合写真には、左から6人目にINCJの勝又社長、7人目にJDIの東入來会長、8人目に浙江省の袁省長が写る

「日中合作でやっていきましょう」。2018年12月初旬、中国浙江省。日本から訪問した企業の一団は、同省の袁家軍省長が開いた会合で、ある極秘プロジェクトについて話し合っていた。

 日中で総勢20人近くが一堂に会したこの場に日本側から参加したのは、ジャパンディスプレイ(JDI)の東入來信博会長兼最高経営責任者(CEO)と、福井功常務執行役員らJDI幹部だ。さらに、JDIの筆頭株主(出資比率25.3%)の官民ファンドであるINCJから、勝又幹英社長と東伸之執行役員も同行した。

 会合は、終始和やかなムードで進んだ。ホスト役の袁省長に続いて東入來会長と勝又社長も「日中合作」の意義を交えてスピーチし、そのたびに拍手喝采と「乾杯」が繰り返された。

 手厚いもてなしを受けた日本側の参加者は皆、中国側の熱意を感じて「(極秘プロジェクトが)絵空事ではなく、現実味のある話だと確信した」という。

 果たして極秘プロジェクトとは何か。すでにJDIは、経営再建に向けて、中国と台湾の企業連合に支援を要請しており、出資の受け入れについて交渉していることが明らかになっている。

 関係者によると、この中で中台連合が提案した、JDIの技術を活用して浙江省に有機ELパネル工場を建設する計画こそがJDI再建策の目玉だという。それが極秘プロジェクトの正体であり、東入來会長らは、その計画の最初の協議のため、浙江省を訪問していたのだった。

中台連合が引き出す中国補助金

 中台連合には、中国シルクロード・インベストメントキャピタル(CSIC)と、中国最大の資産運用会社の嘉実基金管理(ハーベスト・ファンドマネジメント)、台湾のタッチパネルメーカーの宸鴻集団(TPKホールディング)、中国の自動車部品メーカーの敏実集団(ミンス・グループ)が参加している。

 中台連合によるJDIの再建策のタイトルは「フェニックス(不死鳥)計画」。文字通りにJDIを死のふちからよみがえらせる案が詳細に記されている。

 浙江省の有機ELパネル工場の計画は、投資額が約5000億円で、資金は中国政府の補助金を活用する。早ければ19年中に建設を開始し、21年の量産開始を見込む。

 狙いは、米アップルのiPhone用の有機ELパネルの生産能力を確保することだ。6インチサイズのスマートフォンなら月に400万台分の有機ELパネルを生産できる規模を目指す。

 アップルの計画に詳しい関係者によると、20年以降に発売するiPhoneは、全モデルで有機ELパネルを採用する方向で動いている。

 このままいけば、液晶工場しか保有していないJDIはアップルとの取引を全て失うことになるため、もともと有機ELパネル工場の建設を急ぐ必要があったが、経営危機を繰り返してきたJDIには、その資金がない。このため、中国政府の補助金を活用するのが肝。

 JDIのある幹部は「うちやINCJのネットワークだけでは中国から補助金を引き出して現地に工場を建設するなど不可能だ」と認めており、中台連合の仲介で初めて実現する計画だ。だが、無論、それもタダではない。その裏には厳しい現実が待ち構えている。

600億~800億円で実質買収

 現状、JDIは中台連合から600億~800億円の出資を受け入れる方向で交渉中だ。JDIの新株発行に当たっては、中台連合から1株当たり47円での買い付けが提案されたという。

 もっとも47円で800億円規模の普通株を買い付けられれば7割近くの議決権を握られる。JDIは、議決権は50%未満に抑えたい考えで、残りは優先株の発行を検討している。1株当たりの価格についても引き上げを求める考えで、厳しい交渉が続いている。

 一方の中台連合側は、議決権を50%未満に抑えることは了承しているが、30%以上は確保する考えで、INCJに代わって筆頭株主になるのは確実だ。

 さらに関係者によると、中台連合は5人の取締役を派遣する要請もしている。現在、JDIの取締役は、東入來会長と月﨑義幸社長に加え、社外取締役を合わせて計6人。今年6月の株主総会で2人の社外取締役が退任する予定で、ここに中台連合の5人が加われば、計9人の取締役の過半数を押さえられる。

 中台連合が筆頭株主の座とともに取締役会の過半数を握れば、JDIを実効支配する力は十分だ。事実上の買収提案でJDIに揺さぶりを掛けている。

 だが、瀬戸際に追い詰められたJDIには中台連合の買収提案を拒否できる力は残されていないようだ。そもそも、JDIが増資交渉を急ぐのは、アップルの「iPhoneXR」の販売が低迷しているためだ。今期のXR向け液晶の出荷量は、計画比で半減する見込みで、2月に入って主力の白山工場(石川県白山市)の稼働率は50%前後まで落ちている。

 これにより、昨年9月末に600億円あった現預金が1月に入って急激に減り始めたもようだ。同社は、INCJの債務保証で銀行から1070億円の融資枠を得ているが、それでも足りず、3月末までに中台連合との交渉がまとまらなければ資金繰り危機に陥る可能性が高まっている。

 つまり、現在JDIが進めている出資受け入れ交渉は、成長資金ではなく、運転資金の確保が目的だ。3月末を期限とする交渉は圧倒的に不利な立場に置かれる。

 JDIが1月23日に開いた取締役会では、ある社外取締役から「1株47円では安過ぎる。対抗できる提案がないので足元を見られるのではないか」との指摘が出たが、他に交渉相手もいない。

 このまま中台連合に経営の主導権を奪われる可能性が高まっているが、筆頭株主のINCJはJDI株のエグジット(株式売却)の第一歩として「早期にディールを成立させてもらいたい」(幹部)として強行する姿勢だ。

 JDIは19年3月期は5期連続の最終赤字に陥るのが確実な情勢。複数の関係者によると、東入來会長は昨年4月に経営幹部50人に向けて開いた経営説明会で「18年度に当期黒字を達成できなければ退任する」と宣言したという。日の丸ディスプレーの命運とともに同会長の進退を問う声が日に日に高まっている。


※本記事はダイヤモンド・オンラインからの転載です。転載元はこちら

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