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まつもとあつしの「メディア維新を行く」 第64回

プロデューサー 柳川あかり氏インタビュー

原点に立ち返りつつ多様性を描く――スター☆トゥインクルプリキュアが届けたいもの

2019年05月11日 16時00分更新

文● まつもとあつし 編集●村山剛史

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ステレオタイプな人物像を避けつつ、王道も否定しない

―― それは外国人と接したり暮らしたりすることが増えてきた現実を引き写すことにもなりそうですね。

柳川 よく話題にあがるように、テレビ放送にあたってのレギュレーションは国によって大きく異なります。コスチュームの露出やアクションでの殴る、蹴るといった表現がNGだったりとか。ですからプリキュアを未就学児童向けの作品としてそのまま海外、特に欧米でテレビ放送するのはハードルもあるのですが、国内の視聴者に支持されているプリキュアのアイデンティティは残しつつ、国境を越えて多くの子どもたちに受け入れてもらえるように作りたいと考えています。

 そのためにもキッズ向けビジネスでグローバルに展開する映像制作会社や玩具会社がどのようなコンセプトで商品を作り、発信しているのか、どんな表現に気を使っているいるのかアンテナを張るようにしています。

 アメリカで生活しているときに、「自国の文化ではない表現をするときは、気を付けなければいけない」ということが刻み込まれています。ですから海外の言葉や風習をどのように描くかも気を遣う部分です。

 例えば、えれなの口癖はメキシコ人のお父さんの影響で「チャオ」なんですが、この挨拶も国によっては挨拶として会話の始めに言う場合と、終わりに言う場合があります。綴りも違ったりするんです。英語も国によって多様な表現が生まれていますが、それと似ています。クリスマスやハロウィンのような宗教的な行事もそうですよね。

―― よくアニメなどで見かける「日本人が思い描くステレオタイプな外国・外国人像」にならないように、ということでしょうか?

柳川 そこが難しいところでもあります。娯楽作品としてのお子さんへのわかりやすさも大事だと思うので。でも実在する人間として想定することが大事で、単純な記号の集合体にはしないということですね。自分がよく知らない文化を扱うときの危険性をよく認識する、映像を見た人がイヤな思いをしないというのは多様性を描く上でとても気を遣うところです。毎回立ち止まって、ひたすら調べてますね。

 「女の子はこれが好きなはず」というステレオタイプも同様ですが、やはりそこは「王道」、つまり多くの女の子から支持されているであろう要素というのも現実にはあり、否定することはできないので、「こういうのもカッコイイよ」「こういうのも可愛くない?」といったこちらの提案とのせめぎ合いというか、バランスが難しく、スタッフと相談を重ねています。

 例えば今回、主人公と対になるキュアミルキーはプリキュアシリーズでは珍しいパンツスタイルの衣装で、色彩も「青と緑の中間色」を採用しています。データを取ると「女の子はやっぱりスカートが好き」「何色か判別しやすいはっきりとした色が好き」という結果になるのですが、衣装はチャレンジしたかったので、かなり議論しましたね。プリキュアチーム全体でのバランスを取りつつ、最後はシリーズディレクターや私の直感で決めました。

意外にもキュアミルキー(左から2番目)の色使いはチャレンジなのだとか。(C)ABC-A・東映アニメーション

少子化が進むなかでのプリキュア

―― 少子化=子どもが減っていくなかで、プリキュアは今後ビジネスとしてはどのような展開を考えているのでしょうか?

柳川 作品の内容が国内の女の子向けということもあって、市場の中心もそこに据えています。そこはこれからも大きく変えることはないと思います。ディテールの部分ではチューニングを続けますが、次の20周年に向けて、子どもに楽しんでもらうということを丁寧に着実にやっていこうと。

 たしかに少子化は進んでいるのですが、プリキュアシリーズとしてはここ最近は売上が伸びています。ライバルの女児向け作品も増えていて「戦国時代」になっているにもかかわらず、です。

 ビジネスとしてプリキュアを考える際にも、やはり「あこがれ」「なりきり」はキーワードになります。プリキュアの世界を追体験したい、プリキュアになりたいという思いを叶えることが大切だと考えています。具体的には、核となるおもちゃ、そこを軸としたキャラクターグッズへの波及を大事にしたいなと。

東映アニメーションにおける国内版権売上 上位4作品(通期)。プリキュアシリーズはここ3年連続で上昇している(東映アニメーション2019年第3四半期決算資料[計数資料]より)

―― 「変身バンク」へのこだわりも、まさにそういった狙いがあるわけですね。「あこがれ」「なりきり」という面では、このところネット上でも「プリキュアとしての生き様」を自分に重ねるような言及も見かけます。

柳川 そうですね。そうなるような仕掛けをイベントなども通じて様々展開していきます。スタプリでも新しい取り組みを用意していますので、楽しみにしていてください。

―― 先ほど仰っていた通り、レギュレーションという壁はありますが、海外展開についてはどうでしょうか?

柳川 アジア・北米へはすでに展開しています。アジアでは、テレビ放送やサイマル配信をしている国もありますし、北米では「Glitter FORCE」というタイトルで展開してます(Netflixにて配信)。より多くの人に見ていただきたいと思っていますが、乗り越えるべきハードルは沢山ありますね。

 私自身、海外の女児向けアニメが大好きなんです。数年前から欧米でヒットしていたサプライズトイという玩具のジャンルが日本でも流行りはじめたり、北米のディズニープリンセスシリーズ『ちいさなプリンセス ソフィア』が国内でも支持を広げたりなど状況はウォッチしており、色彩感覚は近づいてきているのかなとも感じています。

区切りの「次」を担うスタプリに期待

 15周年記念作品として、大人にも話題を提供したハグプリはいわば特別な存在だった。スタプリはプリキュアシリーズの原点を改めて見つめ直すことになるが、同時に多様性という現在進行形のテーマと正面から向き合おうと様々なチャレンジが行なわれている。

 スタプリはハグプリとは異なるマイルストーン的な作品として記憶されることになるかもしれない。社会にどのように受け止められるか注目しておきたい作品の1つだと言えるだろう。

「スター☆トゥインクルプリキュア」
ABCテレビ・テレビ朝日系列にて毎週日曜あさ8:30より放送中!

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