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拳銃を狙い続発する交番襲撃、大惨事を防ぐ対策は進んでいるのか

文● 戸田一法(ダイヤモンド・オンライン

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交番などで警察官を襲撃する事件は、動機のほとんどが拳銃を奪うのが目的とされる
交番などで警察官を襲撃する事件は、動機のほとんどが拳銃目的とされる Photo: PIXTA

昨年、富山市と仙台市で交番襲撃が相次ぎ、警察官2人と民間人の計3人が殺害された。今年になって再び、富山市の駐在所と東京・歌舞伎町の交番で警察官が襲われる事件が続発した。交番などで警察官を襲撃する事件は、動機のほとんどが拳銃目的とされる。ひとたび拳銃が奪われ、自暴自棄になった襲撃犯が通り魔となれば、無差別大量殺人事件につながりかねない。また今回、駐在所には警察官の家族が居住しており、警察官が巡回などで外出していて家族だけが在宅だった場合、家族が襲われていた可能性もあった。一方で全国の警察本部は襲撃犯対策を強化しており、今年の2件も制圧・撃退に成功。対策に効果が出ていると指摘もある。(事件ジャーナリスト 戸田一法)

拳銃狙った大学生の犯行

 富山市の事件は警察発表などによると、1月24日午後3時頃、富山市池多の富山西署池多駐在所で発生。山本宏樹巡査部長(30)が長さ30センチ、重さ1.3キロのハンマーや長さ13センチのナイフを持った富山大生の前田将輝容疑者(22)に襲われた。

 山本巡査部長が巡回に出掛けようとしていたところ、前田容疑者が「携帯電話を拾った」と届けに来たように装い、書類を作成していた山本巡査部長の頭をハンマーで殴り、さらにナイフで切りつけたとされる。

 山本巡査部長は頭や顔に打撲、左手に切り傷を負いながら前田容疑者を殺人未遂容疑で現行犯逮捕。通行人に110番を依頼し、富山西署員が駆け付けた。山本巡査部長は顔面を血だらけにしながら、前田容疑者を必死に取り押さえていた。

 山本巡査部長が着用していた耐刃防護服や制服にはナイフで切られた痕が複数あり、前田容疑者に強い殺意があったことが認められる。しかし、山本巡査部長は逮捕術の特別訓練員で、負傷しながらも複数回、投げ飛ばすなどして制圧していた。

 前田容疑者は「拳銃を奪って自殺するつもりだった」と供述。駐在所近くに乗り付けた自転車のかごにバッグがあり、中にはロープが入っていた。拳銃強奪に失敗しても、ロープで首つり自殺するつもりだったとみられる。

 前田容疑者は大学近くの富山市五福に住んでおり、近くには複数の警察官が24時間体制で勤務する五福交番がある。交番ではなく約7キロ離れた駐在所を狙ったのは、1人で勤務しているほうが手薄で拳銃を奪いやすいと考えたと想像できる。

 山本巡査部長は駐在所で妻、子どもの3人暮らし。事件当時、妻と子どもは外出していたという。

 富山県警は1月26日、前田容疑者を強盗殺人未遂と公務執行妨害の疑いで送検した。

歌舞伎町の襲撃も狙いは拳銃

 富山市の事件の翌日にも、交番で警察官が襲撃される事件が起きた。

 1月25日午前11時頃、東京・歌舞伎町交番で男性巡査(23)に刃渡り約7センチのはさみを突き付けて脅したとして、警視庁新宿署が公務執行妨害の疑いで住所不定、無職、富施正男容疑者(46)を現行犯逮捕した。

 こちらも狙いは拳銃で「コンビニで強盗しようと思い、拳銃が必要だった。刃物で脅し、無理やり奪うつもりだった」と供述しているという。新宿署は容疑を強盗未遂に切り替えて捜査している。

 この事件では、巡査が小型の盾を使って防御し、即座に富施容疑者を取り押さえていた。歌舞伎町交番は日本一の歓楽街「歌舞伎町」のほぼ全域を管轄する地上4階、地下1階と国内最大規模で、陣容も地方の警察署並みだ。そこに押し入って警察官から拳銃を奪うなど正気の沙汰とは思えないが、そういう方もいるのだろうとあきれるしかない。

 富山、歌舞伎町では失敗したとはいえ、万が一、拳銃強奪に成功し、世をはかなんで自暴自棄になった襲撃犯が、無関係の人を道連れにしようと無差別大量殺人を企てたらどうなるか。

 交番や駐在所に勤務する制服警察官が使用しているのは3種類あるが、いずれも5連発の回転式(リボルバー)拳銃だ。以前は「ニューナンブM60」限定だったが、後に米S&W(スミス・アンド・ウェッソン)社製の「M37」を導入。現在は同社製で日本警察の要請に応じたカスタマイズモデル「M360J SAKURA」が主流だ。

 ドラマや映画では「1発目は落ち着かせるために空砲」などと表現されることもあるが、そのようなことはなく、常に5発を装填(そうてん)している。

 つまり、拳銃強奪に成功した襲撃犯が通り魔に豹変(ひょうへん)すれば、5人を道連れにする可能性があるということだ。

進むセキュリティー対策

 昨年は6月26日に富山市で、9月19日に仙台市で交番の警察官が襲撃される事件が相次いだ。

 富山市の事件では、元自衛官の島津慧太容疑者(事件当時22)が富山中央署奥田交番の所長、稲泉健一警部補(同46、警視に昇進)を刺殺し、拳銃を強奪。約20分後に近くの小学校前にいた警備員中村信一さん(当時68)を射殺したとして、強盗殺人容疑などで逮捕された。

 仙台市の事件では、殺人容疑で書類送検された元東北学院大3年の相沢悠太容疑者(同21)が、仙台東署東仙台交番で当直中の清野裕彰巡査長(同33、警部補に昇進)を刺殺。別の警察官に射殺されたため犯行動機は解明されていないが、相沢容疑者の自宅からは銃器の取り扱いに関する書籍2冊が押収されていた。

 警察庁は両事件を受けて、全国の警察本部に耐刃防護服の常時着用や、警察官の複数配置など安全確保の強化を通達。カウンター設置や侵入防止対策も指示した。また新型ホルスター(拳銃入れ)の配備も進めていた。

 今年に入ってから発生した2件は、いずれも対刃防護服が警察官の身を守り、装備品が襲撃犯の制圧で役に立ったといえる。全国紙社会部デスクは「警察庁の通達・指示が効果を発揮したといえる」と評価していた。

 ほか、具体的に警察はどんな対策を取っているのだろうか。

 刑法犯認知件数と人口総数の割合で犯罪発生率が都道府県別で1位の大阪府。平たく言えば、全国で一番治安が悪いということだが、府警は600ヵ所ある交番すべてに防犯カメラを設置する準備を進めている。

 現在は交番内を写すカメラは置いていないが、来年度中に主要駅にある鉄道警察隊4分駐所を含む604ヵ所に設置する方針だ。訪問者に対応する事務室の天井に取り付け、24時間体制で撮影する。これまでは警察官が家族と住む駐在所だけに設置されていた。

 また、警察官に対する指導用動画で「訪問者より先に座らない」「対応する机にははさみなどを置かない」などと教示。拾得物を届けに来た訪問者や道を尋ねられた場合、訪問者が複数だった時など、いろいろなケースに即した対応方法を府警内部のオンラインで閲覧できるようにしている。

 さらに昨年6月の富山市の事件では交番裏口のドアをノックした島津容疑者が、対応した警察官を間髪入れず襲撃していることから、府警は各署に交番裏口の訪問者対応を禁止。交番の入り口と執務場所をカウンターで仕切るようレイアウトの変更を進めているという。

 交番の対策は進んでおり効果も出ているが、もし駐在所で警察官が拳銃を強奪され、強奪犯が通り魔となった時、最初に狙われるのは一緒に住む家族だろう。もちろん家族は丸腰で、特殊な訓練は受けていない。

 前田容疑者は今回、事件でその危険性を具現化し、ある意味で教訓として示した。交番だけでなく、駐在所の安全対策の見直し・強化も急がれる。


※本記事はダイヤモンド・オンラインからの転載です。転載元はこちら

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