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野村のオリオンビール買収で気になる「ハウステンボス再建失敗」の古傷

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かつてのハウステンボスの投資では大失敗した
かつてのハウステンボスの投資では大失敗した

「地域の中核企業へ投資し、企業価値を飛躍的に増大させて地域を元気にしていく」(前川雅彦・野村キャピタル・パートナーズ(NCAP社長)。

 野村ホールディングス(HD)傘下のNCAPと投資ファンドの米カーライル・グループは1月23日、オリオンビールを買収することを明らかにした。

 買収総額は570億円。NCAPが51%出資する特別目的会社(SPC)を通じて、株式公開買い付け(TOB)を行い、3月下旬までに発行済み株式総数の約91.5%を取得する。また、残り8.5%を保有する第二位株主とは相対で買い取り、完全子会社化した後、5年後の株式公開を目指す。

 オリオンビールといえば、沖縄県出身の人気バンドBEGIN(ビギン)が「オジー自慢のオリオンビール」を歌うなど、沖縄県民にとっては「ソウルドリンク」。実際、沖縄県内での認知度は98%と高く、オリオンビールの売上数量の約8割が沖縄県内である。

 年間売上高は300億円に満たない企業ではあるが、沖縄を代表する企業の一つであるだけに、世間の注目度は高い。

 そもそもオリオンビールの足元の業績は、身売りするほどの悪い状況ではない。18年3月期の売上高は前年同期比1%増の283億円。純利益は同17%減の23億円。バランスシートを見ると、純資産は500億円超、自己資本比率80%と財務は健全だ。

 しかし、同社は大きく2つの課題を抱えている。

 一つ目は株主の高齢化である。オリオンビールは沖縄が本土復帰する前の1957年5月、地元の有志ら個人株主が中心となって資金を出し合い設立された経緯がある。その後、相続などを経て、現在の株主数は約600人に膨れ上がった。さらにその多くが高齢化し、相続の問題に直面しているのだ。

 二つ目は経営環境の激化だ。国内ビール需要が低迷する中、他社との競争はますます厳しくなっている。アサヒ、キリン、サッポロ、サントリーに次ぐ、業界5位のオリオンビールのシェアはわずか1%。「営業やマーケティングで大きな課題を抱え、シェアで負けていく姿がはっきりしてきた」(前川社長)。

 今回のスキームにより株主を集約化するとともに、営業・マーケティングの強化、ガバナンスと執行の分離、海外展開の積極化で事業基盤の強化を図る考えだ。

リーマンショックから10年ぶりに自己資金投資を再開

 野村HDが国内で自己資金による投資事業を行なうのは今回が初めてではない。

 かつて2000年には野村プリンシパル・ファイナンス(NPF)を設立し、百貨店のミレニアムリテイリング、切削工具メーカーのタンガロイ(旧東芝タンガロイ)、精密ベアリングボールメーカーのツバキ・ナカシマなど、計18件に約2800億円を投資し、約5000億円を回収した実績がある。

 だが、リーマンショック後、自己資本規制の強化等を受け、08年以降は新規投資を停止して事実上撤退した。当時の世界的な金融市場の混乱により、野村HDは09年3月期に7000億円超の最終赤字に転落。その後、12年3月には米格付け会社ムーディーズ・インベスターズ・サービスが、長期債務格付けをジャンク債の一つ手前のBaa3に格下げした。自己資本の拡充が喫緊の課題だった野村にとって、自己資金による投資事業には乗り出しづらい事情があった。

 そしてNPFの新規投資を止めてから10年後の18年1月、野村HDの100%子会社としてNCAPを設立。その第一号案件が今回のオリオンビールとなった。

 前川社長によると、NPFは大企業が対象だったが、NCAPは地方の有力企業が対象であり、「地方創生にどう資するかという使命感でやっていく」という。

300億円を投じたハウステンボス再建は失敗

 だが、野村HDには、地方の有力企業への投資事業で大失敗した古傷がある。

 長崎県佐世保市のテーマパーク、ハウステンボスだ。

 03年2月に会社更生法の適用を申請し、約2300億円の負債を抱えて経営破綻。多くの会社が支援に名乗りを上げたが、NPFは最終的にリップルウッドとのビッドに競り勝った。その後、野村証券の幹部をCEOとして送り込んで再生に取り組んだが、証券マンにテーマパーク事業は難しかった。

 オランダの街並みを再現したテーマパークであるにもかかわらず、多額のカネを投じて温泉を掘るなど、コンセプトは迷走。経営陣の突然の退任もあり、社内のモラルは著しく低下した。経常赤字が続き、再建の目途が立たない中、09年に撤退を決定。6年間で投資した約300億円を失っている。

 その後、NPFから経営を引き継いだ格安旅行のエイチ・アイ・エスは、わずか1年で初の単年度黒字化を達成した。

 無論、経営破綻したハウステンボスと、オリオンビールでは、置かれている状況は大きく異なるが、企業価値を向上してバイアウトするという点はどちらも同じ。

「NPFでの教訓は、(投資先)事業は外部のプロフェッショナルを巻き込んでいくべきということ。我を捨てて、野村のプラットフォームの上に、様々な人の知恵をのせる」と前川社長は意気込むが、果たして過去の失敗を教訓として、沖縄経済を元気づけることができるだろうか。

(「週刊ダイヤモンド」編集部 松本裕樹)


※本記事はダイヤモンド・オンラインからの転載です。転載元はこちら

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