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西伊豆の老舗旅館「ときわや」が大広間を使ってドローンレースを開催した理由

宿泊客に「体験を発信してもらう」ことでゲストWi-Fiの価値を変える

2019年02月19日 08時00分更新

文● 大塚昭彦/TECH.ASCII.jp 写真● 曽根田元

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 静岡県沼津市、駿河湾を挟んで雄大な富士山を望む西伊豆地区。遠洋漁業による豊富な魚種、さらに深海魚や高足ガニ(タカアシガニ)といった珍しい海の幸も水揚げされる戸田(へだ)漁港のすぐそばにある温泉旅館が「ときわや」だ。

西伊豆・戸田温泉にある旅館「ときわや」

 明治3年(1872年)創業という老舗旅館のときわやだが、近年の旅行スタイルの変化に合わせ、施設のリニューアルや新たな方向性の模索を始めている。海鮮料理、温泉、宿泊といったアピールポイントに加え、ときわやを訪れることで得られる「体験」をより重視した提案を進めていく。その一環として、ネットギア「Orbi Pro」を導入し、ゲストWi-Fi環境のリニューアルも行ったという。

 今回は、ときわやの支配人を務める大井英俊さんに、これからのときわやが狙うもの、さらに宿泊業におけるゲストWi-Fiサービスの位置付けやOrbi Proの導入経緯などを聞いた。

ときわや 取締役支配人の大井英俊さん

家族経営から企業経営に変わり、新たな方向性を試行錯誤

 ときわやは6階建ての本館と、3階建ての別館で合計30の客室を持つ旅館だ。上階にある貸切露天風呂からは、目の前に広がる駿河湾が一望できる。投げ釣りや船釣りは一年中楽しめるが、近くには海水浴場もあり、ときわやのハイシーズンは夏だ。湾内にあるため波がおだやかで、関東のほかの海水浴場よりも長期間楽しめることから、「7月半ばから8月いっぱいまで、やはりファミリーのお客様がよくいらっしゃいます」と大井さんは説明する。

30の客室があり、上階の大浴場や貸切露店風呂からは駿河湾が望める

 かつては家族経営の旅館だったときわやだが、関東で複数の旅館を運営するクラブ・マナティーグループが2017年に経営を引き継いだ。同グループの旅館「源泉の宿 真奈邸箱根」で支配人を務めていた大井さんがときわやに移り、箱根での知見も生かしながら経営とサービスの改革を図っている。

 「経営が変わったばかりで、まだいろいろと試行錯誤中の段階です」と語る大井さんだが、改革の第一歩として2018年7月にはエントランスやロビー、喫茶室、客室などを改装し、リニューアルオープンした。

 「クラブ・マナティーの基本コンセプトである『アートと音楽に囲まれてゆったりすごせる宿』を実現するために、アンティーク家具や絵画、自動演奏ピアノなどを取り入れてリニューアルしました」

 旅行のスタイルは常に進化を続けている。近年ではかつてのような団体客は減少し、個人や小人数の旅行が増加している。単に観光スポットを巡り、食事や温泉を楽しむだけでなく、「そこでしかできない体験」を求める旅行客が多い。ガイドブックの情報ではなく、個人によるインターネット上の“口コミ”が旅行客を大きく動かすのにはそういう背景もあるだろう。

 そうした変化に追随していくため、ときわやでもさまざまなサービスの見直しを進めている。たとえば、ときわやのアピールポイントである海鮮料理も、もう一工夫加えたいというのが大井さんの考えだ。

 「新たなターゲットとして、たとえば女性のお客様を想定すると、単に豪華な料理よりも『ヘルシーな料理』が好まれるでしょう。箱根(真奈邸箱根)では野菜中心のヘルシーメニューを売りにしていますが、海のそばまで来て野菜ばかりというのもどうなのか、と(笑)。そこで、戸田漁港で水揚げされる新鮮な海の幸をイタリアンなどにアレンジできないか、などと考えています」

リニューアル工事にあわせOrbi ProでゲストWi-Fi環境を整備

 館内のリニューアル工事にあわせて、ときわやではゲストWi-Fi環境も整備した。それまではロビーに設置されたWi-FiルーターでのみゲストWi-Fiを提供しており、客室内からは利用できなかった。しかし大井さんは、箱根での支配人経験から、特に海外からのインバンド客向けにゲストWi-Fiは必須だと語る。

 「インバウンドのお客様への取り組みも強化していく方針ですが、それならばゲストWi-Fiは必須です。箱根では約半数がインバウンドのお客様でしたが、宿泊直前の日程になって予約が入ることが多かった。なぜかと調べてみると、旅行しながら次の宿をスマートフォンで調べ、予約するというスタイルなんですね。もちろん、旅行のようすをリアルタイムにSNSで公開するのもふつうのことです。Wi-Fiがなければフラストレーションがたまるだろうなと思います」

 インバウンド客だけでなく、日本の旅行客も若い世代を中心にそうした変化が見られる。そこでリニューアルを機に、ストレスのないゲストWi-Fi環境を構築することにした。導入作業を依頼したピーティーエス・コンサルティング・ジャパン(PTSジャパン)が選定したのが、ネットギアのOrbi Proだったという。

ロビーや喫茶室周辺の天井に取り付けられたOrbi Pro

 「図面をお渡しし、客室内からでもゲストWi-Fiが使えるようにカバーしてほしいとお願いしました。わたしはITに詳しくないので、機器選定はPTSさんにお任せしたのですが、改装工事のほうが先に進んでおり、その兼ね合いもあって(LANケーブル敷設工事が不要な)Orbi Proを選んだ可能性はあります」

 取材後、PTSジャパンにOrbi Proの選定理由を確認したところ、ときわやの現場を下見したうえで複数社の製品でプランを構成し、その中で建物の条件や使用用途に見合い、全部屋をカバーしつつ導入コストも抑えられるのがOrbi Proだったと述べた。

 Orbi Proは、1台のルーター(親機)に最大3台のサテライト(子機)が接続できる。ときわやでは本館の各フロアにルーターを設置し、フロア内に3台ずつサテライトを分散配置することで、フロア全体をゲストWi-Fiエリアとしてカバーしている。

ときわやのゲストWi-Fi環境、ネットワーク構成図(概要)。Orbi Pro(ルーター×1台、サテライト×3台)を各フロアに設置している
客室内でもゲストWi-Fiが使えるよう、客室フロアの廊下や一部室内にも設置

 導入後も「わたしはよくわからないので、設定などは特に触っていません」と大井さんは笑う。それでも特にトラブルはなく、Orbi ProによるゲストWi-Fi環境は安定稼働しているという。導入を手がけたPTSでは、遠隔からでも稼働状況の確認ができるOrbi Proのリモート管理機能について「非常にメリットを感じます」と評価している。

 Orbi Proで本館全体をカバーする無線LAN環境は、現状ではまだゲストWi-Fiにしか利用していないが、将来的には従業員用のネットワークも用意して、さまざまな業務にスマートフォン端末を役立てることも考えられる、と大井さんは語る。

 「たとえば現在は、各客室にお客様が何人泊まっていて、何時からどういう食事を取られるのかといった情報は紙ベースで共有しています。ただ、急な変更があるとその情報が行き届かずミスも起こりがちです。1人1台端末を持ち歩けば、従業員間のリアルタイムな情報共有に役立つでしょうね。また、旅館ですのでお食事の間に布団の上げ下げ作業をさせていただくのですが、お客様が食事会場に入られたか、同じフロアでまだ作業していない部屋がどこかなどがリアルタイムにわかれば、作業効率も良くなると思います」

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