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経産省とボーイングが異色の提携、裏にそれぞれの不安と思惑

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経済産業副大臣とグレッグ ハイスロップ・米ボーイングチーフ・テクノロジー・オフィサー
磯﨑仁彦・経済産業副大臣とグレッグ ハイスロップ・米ボーイングチーフ・テクノロジー・オフィサーは1月15日、次世代航空機に必要な技術分野における協力の強化に向け、合意書に署名した Photo by Mieko Arai

1月15日、経済産業省と米ボーイングは、電動航空機の実現など、次世代航空機に必要な技術分野における協力強化について合意した。提携合意の内容からは、両者の差し迫った焦りや思惑、そして駆け引きの痕跡が見える。(「週刊ダイヤモンド」編集部 新井美江子)

 1月15日、経済産業省17階。異様な緊張感が漂う中、阿部晃一・東レ副社長や種子田裕司・三菱重工業執行役員フェローなど、日本の航空機産業界をけん引するそうそうたるメンバーが、グレッグ ハイスロップ・米ボーイングチーフ・テクノロジー・オフィサー(CTO)を迎え入れた。

 直前に経産省とボーイングが次世代航空機に必要な技術分野における協力強化について合意したことに伴い、日本企業との間でキックオフミーティングが開催されたのだ。

 この提携合意で経産省がボーイングに約束したのは、航空機の電動化技術や軽量化のための炭素繊維複合材の製造技術、生産の自動化技術を持つ日本企業の紹介等だ。

 航空業界の絶対的王者であるボーイングが、特定の国家とこうした協力関係を結ぶのは極めて珍しい。背景には同社の焦りがある。

 その主因は、航空機業界に急激に押し寄せる電動化の波だ。自動車に比べて遅れていた航空機の電動化だが、2017年から開発機運が一気に高まり、いまや世界で約60ものプロジェクトが立ち上がる。中には、20年代前半のローンチを視野に入れたものまであり、開発が加速している。

 むろん、実現化に向けた競争は、まず貨物や1~5人の人員輸送のための電動の“空飛ぶ車”が主戦場になる。だが、数十席から100席以上の、現在主流の旅客機でも、電動化を急がないわけにはいかない事情がある。

 一つは、環境規制に対応するためだ。国際民間航空機関(ICAO)は、二酸化炭素の排出量を50年に05年比で半減させることを目標として掲げている。「オペレーションの効率化で空の渋滞をなくす」といった現行技術の改善で何とかなるのはごく一部で、目標達成には電動化などの新規技術による削減が欠かせない。

 もう一つは、機体の付加価値を向上させるためだ。電動化すれば騒音が減るため、深夜や早朝にも機体を飛ばしやすくなる。また、部品点数の減少によって整備コストが抑えられ、今より航空運賃を安くできる可能性がある。

 電動航空機の開発はもはや、競争力強化を目指す航空機メーカーにとって避けては通れない喫緊の課題となっているのだ。

 ところが、「電動航空機の開発において、ボーイングはライバルである欧州エアバスの後塵を拝している」(航空機業界関係者)。

 実際に、エアバスはすでに四つのプロジェクトを展開している。その一つが、航空機エンジンメーカーの英ロールス・ロイスと重電大手の独シーメンスとの、100席前後の機体を土台にした実験機「E-Fan X」の共同開発で、20年には実証飛行を行う予定だ。

 こうした流れの中で合意に至ったのが今回の技術協力である。ボーイングは技術力の高い日本企業との連携を深めることで、エアバスに徹底対抗するもようだ。

蜜月は続くのか?
日本企業によぎるお役御免の不安

 一方、経産省にも確固たる目的がある。これまで、日本の航空機産業はボーイングと機体の共同開発を行うことで発展してきた。電動化は航空機の技術トレンドを根底から覆す恐れすらあるが、それでも日本企業がボーイングにとって不可欠な存在であり続けるため、国を挙げての一手に出たというわけだ。

 ただし、しかるべきメリットを適切に享受するべく、念には念を入れた。「ボーイングは協力分野において、ボーイングの将来の航空機輸送に関する戦略的ビジョンの情報を提供するとともに、技術の実用化に向け取り組む」――。今回、経産省はこの内容の一文を合意の中に盛り込ませているのだ。

 特に最近は、日本とボーイングの蜜月関係に亀裂が入りかねない不穏な状況が生じている。例えば、ボーイングによる内製化回帰の動きである。ボーイングは、ボーイング787型機(B787)で三菱重工に任せた主翼の製造を、20年から投入を始めるB777Xでは自社に戻しているのだ。

 さらにボーイングは18年、リージョナルジェット大手のブラジル・エンブラエルと戦略的パートナーシップの構築に向けて合意した。これにより、「ボーイングがエンブラエルに機体製造を担わせるようになる恐れが否めなくなった」(別の航空機業界関係者)。

 どちらも、Tier1(1次下請け)としてボーイングに貢献してきた日本勢の、お役御免の危機である。経産省には、この合意をボーイングの開発戦略における“真意”をうかがう糸口にしようという思惑もある。

 経産省は百戦錬磨のボーイングを相手に、日本の航空機産業の持続的発展という“果実”を勝ち取ることができるだろうか。


※本記事はダイヤモンド・オンラインからの転載です。転載元はこちら

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