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ヤマトDM配達は時給換算「400円」、実質で最低賃金を下回り不満噴出

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ヤマト運輸「クロネコDM便」未配達の背景には配達員の労働環境問題があった
ヤマト運輸「クロネコDM便」未配達問題の背景には配達員の厳しい労働環境があった Photo:DOL

 次々と明るみになる不祥事の背景にはいったい何があるのか――。

 ヤマト運輸は1月8日、岐阜県内の営業所において、「クロネコDM便」(企業が発送するダイレクトメールなど)が約2万3000冊、未配達だったと発表した。この営業所の委託配達員(ヤマトではクロネコメイトという。以下、メイト)が2004年から18年の間に請け負ったDMの一部を、配達せず自宅にため込んでいたことが、DMを発注した荷主からの連絡で判明したのだ。ヤマトは「該当する荷主にお詫びし、全社一丸となって再発防止策に取り組む」という。

 だが、こうした話は初めてではない。過去にも同様にDMの大規模未配達が明らかになっている。

 例えば一昨年は青森県で、約1万5000冊の未配達があった。12年~17年の間、配達員がDMを自宅に持ち帰っていたのがアパート隣人の通報により発覚したのだ。この件で営業所や支店の幹部4人が、配達員に対する稼働状況の確認や定期的指導を怠っていた責任で減給の処分を受けている。(この件を含むヤマト運輸の懲戒事案については「週刊ダイヤモンド」2018年8月25日号(「ヤマト宅急便不正の実態」)で詳細を報じている)

 どうして不祥事は繰り返されるのか。首都圏のある営業所で長年働くクロネコメイトは、「配達員の怠慢だけが原因とは思えない。メイト業務の仕組みや給料、働き方全般の問題が根底にある」と語気を強める。

DM配達単価は1通あたり平日18円

 業務内容は大まかにはこうだ。

 毎朝、ヤマト営業所のドライバーやスタッフがメイトの自宅に50通から多い時では100通ほどのDMを届けに来る(量は地域やメイト個々人によって異なる)。DMは旅行会社の広告冊子や百貨店の中元・歳暮の案内、通販会社のカタログなど多岐にわたる。

 それを徒歩や自転車で宛先の住所に届ける(バイクや軽車両を使うこともある)。郵便受けに投函すればいいので住人のサインをもらう必要はない。

 メイトは営業所近辺に住む主婦が多い。給与は出来高制で、配達単価は1通あたり平日18円、土日が23円(地域によって異なる)。子供の習い事の費用や、小遣い稼ぎが目的の人が多いという。

 実際、求人広告の謳い文句は「誰でも出来る簡単な仕事です」「事務所に通勤しなくてOK」「働く時間は自由です!」など家事の合間に手軽にできて、拘束性が低いことを強調している。

 ところが、「最近は辞める人が多くて、新しく入る人もいない。補充人員が見つからないとメイト一人当たりの配達量や担当区域を広げるしかなく、メイトも営業所もかなり困っている」(前出のメイト)。

 人が集まらない理由の一つは賃金が低いからだという。DMを配達するにはまず、住所別などに仕分けし、地図を見ながら配達ルートを考える作業が発生する。単に配達している時間だけなら1時間強だが、そうした準備・片付けを含めた総労働時間は2時間から3時間弱になる。そのため出来高を時給に換算すると400~500円程度で最低賃金よりも低くなるというのだ。

 確かに一般的なパート・アルバイトに比べれば拘束性は低く、自由な働き方とも捉えられる。ただ、決して「楽な仕事」というわけでもない。真夏の炎天下だろうと大雨の日だろうと配達は行わなければならないし、DMを適切に保管する義務もある。

 近年は雇用情勢の改善が続き、有効求人倍率が上昇しているのは周知のとおりだ。それに伴い人手不足感が強まり、パート・アルバイトの時給は増加傾向にある。ところがクロネコメイトの配達単価は上がっていない。要するに、地域の主婦が魅力的に思うような職は他にいくらでもある状況だ。

給与に換算されない業務が加わった

 ヤマトでは宅急便荷物の急増とドライバーの人手不足を背景に、2017年秋、値上げに踏み切った。そして違法なサービス残業が常態化していた配達現場を適正化しようと、全社を挙げて働き方改革に取り組んでいる。しかしそうした動きからDM業務、クロネコメイトは取り残されている。

 むしろ最近、給与に換算されない負荷を助長する業務が加わった。もともと宅急便のドライバーが運んでいた「ネコポス」を、メイトが配達するようになったのだ。

 ネコポスとは小型荷物を郵便受けに届けるヤマトの独自サービス。宅急便のように翌日配達が可能で、料金が手頃なことからヤフオクやメルカリなど個人間取引サイトのユーザーが商品を発送する際に多く利用されている。ヤマトが毎月発表する輸送実績データでも対前年比2倍の勢いで伸びている。

 ポストに投函する点はDMと同じだが、配達状況を客が即時確認できるサービスのため、メイトは配達が完了したら専用の端末を使って報告処理したり、ポストに入らず持ち帰る場合は連絡票を記入あるいはドライバーに連絡して再配達扱いにしたりと、DMとは異なる付随作業が発生する。にもかかわらず、配達単価はDMと全く同じだ。

「ネコポスをメイトが配達するのは、ドライバーの負担軽減の目的もあると営業所長は言う。だけど、ネコポスもDMと同じ単価では、何だかメイトに“押し付けている”感じがする」と前出のメイトは不満を募らせる。

配達員の「ドライバー」と「メイト」に決定的な違い

 振り返れば宅急便ドライバーの疲弊も似たような状況があった。配達前は大量の荷物を少しでも配達効率が良くなるように仕分け、営業所に戻った後も伝票処理や諸々の書類作成、片付けなど、配達以外にも関連業務は山ほどある。配達中も夕方~夜のコアタイムともなれば再配達を依頼する電話がひっきりなしに鳴り、それら全てに対応するほど長時間労働とサービス残業が常態化していた。

 ただし、ドライバーとメイトには決定的な違いがある。雇用形態だ。基本的にヤマトのドライバーは正社員で、報酬は基本給プラス配達量などに応じたインセンティブと、各種手当で構成される。

 一方、メイトは業務委託契約である(ごく一部パートもある)。営業所長とメイト個人が契約を結び、報酬は完全出来高制だ。働く側に労働基準法は適用されず、企業に使用者責任や社会保険料の義務はない。

 業務委託契約は企業が効果的・効率的に外部人材を活用して事業を行う手段であると同時に、見方を変えれば、“使い勝手の良い、安い労働力”を確保できる手段でもある。メイトが「営業所に通わないので“同僚”のメイトを知らず、横のつながりが無い。不満があっても誰にも言えず、ヤマト側に都合よく使われている気がする」とぼやく背景には、こうした契約形態が根底にあるだろう。実態はヤマトの指示で働く“労働者”だが、契約上は個人事業主だからだ。

 もちろんヤマトもメイトの働く環境に対して全くの無関心というわけではない。

クロネコメイト向けの社内報。各地のメイトと営業所長のインタビューレポートや、業務の注意喚起が書かれている。ネコポス配達についての記載もクロネコメイト向けの社内報。各地のメイトと営業所長のインタビューレポートや、業務の注意喚起が書かれている。ネコポス配達についての記載も
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 例えば数ヵ月に一度、営業所はメイトを集めた会合を開いて、メイト同士でコミュニケーションを図り、情報共有する機会を設けている。年4回発行されるメイト向け社内報では「病気や家庭の事情などで割当数が配り切れない時には営業所に相談しよう」などと記されているし、「メイトホットライン」なる電話対応窓口も用意している。

 また、メイトに対する働き方改革の一環として、今年は1月1日と2日が公休日になった。合わせて昨年12月30日から今年1月3日の期間は配達単価が30円に引き上げられた。年末年始の“特別手当”である(地域によって異なる)。

 しかしながら、「年末年始は毎年、DMの量が極端に減る。メイトにとって実のある改善ではない」(メイト)と、ウケは今一つだ。

「休憩を取れなければ始末書を書かされる」

 宅急便では値上げが奏功し、業績は堅調に回復している。ただし、値上げで得た収益が、労働環境の改善へ十分につながっているのかは疑問が残る。「荷物が多いのに人が少なく、休憩が取れない状況はさほど変わらない。休憩を取れなければ始末書を書かされるから、取ったことに偽装している」と首都圏で働くドライバーは証言する。

 また、正社員ドライバーに代わって夕方から夜間の配達を担う契約社員制度(アンカーキャスト)を始めたが、「応募が少ない。目標採用数1万人の達成はそうとう厳しい」(本社関係者)と諦めの声が挙がる。

 ヤマトは今年11月、創立100周年を迎える。そしてこのタイミングで営業利益720億円(19年度)の過去最高益を達成する計画を打ち出している。

 ただし、宅急便もDMも最終的に運ぶのは「人」である。「働く人を大切にする姿勢」をしっかりと示さなければ、真の意味での「完全復活」にはならないはずだ。

(「週刊ダイヤモンド」編集部 柳澤里佳)


※本記事はダイヤモンド・オンラインからの転載です。転載元はこちら

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