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三井物産をマレーシア病院大手の筆頭株主にした「マハティール復権」

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マハティール氏と安倍首相親日家のマハティール氏(左)が、首相復帰後の6月、初の外遊先に選んだのは日本だった
写真:代表撮影/ロイター/アフロ

 毎年10%増の成長が見込まれるアジアのヘルスケア市場において、三井物産の存在感が一段と増すことになりそうだ。先月末、物産は約2300億円の巨費を投じ、マレーシアの病院大手IHHヘルスケアに追加出資することを決めた。出資比率は18%から32.9%に高まり、筆頭株主となる。

 IHHはマレーシアの他、シンガポール、トルコ、インドなど9ヵ国で50病院、計1万2000床超を運営するアジア最大級の民間病院グループだ。

 これら新興国では人口増や高齢化により医療ニーズが拡大しており、物産がIHHに出資参画した2011年から17年までに同社の病床数とEBITDA(利払い・税引き・償却前利益)はそれぞれ3倍強に成長。物産は筆頭株主となったことで取締役を増員するなどして経営への関与を深め、IHHを軸に予防や疾病管理など周辺ビジネスを含めたヘルスケア事業の強化を図る考えだ。

 今回、物産に株式を譲渡したのは、これまで筆頭株主だったマレーシアの政府系ファンド、カザナ・ナショナルだ。気になるのは、同社はなぜこのタイミングで自国の“成長株”を手放したのか、という点だ。

政権交代で日本企業に追い風
ルック・イースト政策再び

 実は物産は、資源分野で多額の減損損失を計上した16年にIHH株の2%を売却している。一部ではあるが株を手放したこの時点で物産は、IHHの筆頭株主になれるとは露ほどにも思っていなかったに違いない。

 では今回の株式取得に至るまでの間、何が起きたのか。最大の変化が、今年5月の政権交代により、マハティール氏がマレーシア首相に返り咲いたことだ。

 そのマハティール氏は政権奪取後の7月、カザナの全取締役を解任する荒技をやってのけている。カザナの運用資産価値は17年末時点で4兆円を超え、金融、電力、通信など同国を代表する企業の株式を多く持つ。しかも政権交代まで、カザナの取締役会議長に就いていたのは、汚職疑惑が取りざたされるナジブ前首相だった。

 カザナの役員刷新や保有株式の見直しの背景には、前政権の影響力を排除し自らの権力基盤を固めようとしたマハティール氏の政治的な狙いが透けて見える。しかも同氏には、物産にIHH株を譲る“義理”もある。

 マハティール氏が自署などでたびたび「謝意」を伝えている日本人の一人が、元物産常務の鈴木一正氏(07年没)だ。1970年代、クアラルンプールに赴任していた鈴木氏は、マハティール氏が当時担当していたパイナップル缶詰の米国向けの輸出拡大に尽力し、以降も進出日系企業とマレーシア政府との橋渡し役を務めた。鈴木氏ら日本人とのこうした個人的な信頼関係が、日本を手本にマハティール氏が後に提唱する「ルック・イースト政策(日本の集団主義や勤労倫理に学ぶこと)」につながったのだ。

 東南アジア諸国では近年、潤沢な資金力を武器に中国企業が存在感を増している。マレーシアでも昨年、同国の国民車メーカーと呼ばれるプロトンが、中国の自動車大手、浙江吉利控股集団に買収された。

 だが、物産のIHH株追加取得にみられるように、マハティール氏の復権は日本企業にとって追い風となるはずだ。93歳と高齢のマハティール氏に残された時間は多くはない。限られた“ボーナス期”を生かし、いかに「東方」に振り向いてもらうか。日本勢にその戦略が問われている。

(「週刊ダイヤモンド」編集部 重石岳史)


※本記事はダイヤモンド・オンラインからの転載です。転載元はこちら

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