このページの本文へ

ブームの「終活セミナー」に潜入してつくづく感じたこと

2018年11月29日 06時00分更新

文● 山崎 宏(ダイヤモンド・オンライン

  • この記事をはてなブックマークに追加
  • 本文印刷
終活ブームに惑わされてはいけない?
終活ブームに惑わされてはいけない?(写真はイメージです) Photo:PIXTA

日本全国、終活セミナーが花盛りである。しかしながら、その実態は、成年後見制度や家族信託や葬儀の生前予約ありきで、さながら、認知症1000万人時代に乗じた「販売促進の場」と化している。世の中、意図的にブームメイクする輩(やから)に踊らされて、終活の大前提を置き去りにしているように思えてならない。(NPO二十四の瞳、百寿コンシェルジュ協会理事長、社会福祉士 山崎 宏)

銀行員に言われるままに
成年後見制度を利用したら…

 迂闊だった…。認知症の母を施設に入れて数ヵ月が経過。母の言動に疲弊していた妻の精神状態も安定し、家庭にも平穏が戻りつつあった。その日は母の見舞いがてら、当座の施設利用料相当を引き出しに銀行に立ち寄るつもりでいた。かねて母から預かっていたヴィトンのセカンドポーチから預金通帳とキャッシュカードを取り出し、母に示しながらその旨を伝える。

「でさ、暗証番号、教えてくれる?」

「なによ?」

「だから、◯◯銀行のキャッシュカードの暗証番号さ」

「ええ?暗証番号?アンタ、知ってるでしょうよ」

「知らないよ。だから聞いてんだよ」

「あら、そうなの?やぁねぇ…」

 それから数十分後、ATMの前で彼は舌を打つことに。イヤな予感は的中した。

「…ということなのですが…。50万円ほどおろしたいのですが」

 女性行員はいったん奥へ下がり、しばらくして管理職らしい男性行員とともに戻ってきた。

 そこで私は、認知症の母親名義の預金を引き出すためには、家庭裁判所に申請して成年後見人をつけてもらわなければならないことを告げられたのだった。かなりの時間を費やして事情を伝えたものの願いはかなわず、私は翌週から、有給を取得して複雑な手続きをこなさねばならなかった。

一般人には横暴としか思えない
成年後見人の振る舞い

 約3ヵ月後、60歳代後半とおぼしき元公証人なる弁護士と顔合わせすることに。その場で、次回までに以下をそろえておくよう告げられた。

 母親名義の預金通帳、銀行印、キャッシュカード、不動産の権利書、実印、年金手帳、生命保険証書。

 これらを茶封筒に入れ終えると、彼はきわめて事務的に言い放った。

「今後はお母様の後見人として、これらの一切を私が責任を持って管理させていただきます」

 さらに、彼への報酬として月額6万円を支払う必要があることを付け足した。

 この日を境に、施設の支払いをするにも年金を引き出すにも、その都度、彼に連絡を取り、金額と必要時期と使途を伝え、彼の了承を得なければならなくなる。それどころか、銀行や郵便局等へ出向くのにかかった交通費まで請求される始末である。

 ある時、母親名義の財産総額と明細を知りたいと依頼したことがあった。ところが、「後見人は管理対象である被後見人の財産状況について、ご家族に伝える義務は有していない。というよりも、ご家族に必要以上の情報を開示してはならないというのが裁判所のガイドラインなのだ」ときたものだ。

 他にも、もう実家に戻ることもないであろう母の名義になっている実家の土地と家屋を売りに出すことを検討している旨を告げると、「不動産を売却しないとどうにもならない経済状況であることを示してほしい。その上で、私から家庭裁判所に相談してみる」とのこと。

 結果的に母親名義の不動産に手をつけることは認められず、誰も暮らしていないし、この先も使用する可能性のない実家の固定資産税を納めなければならない状況がかれこれ5年も続いている。

 実の親名義の財産を赤の他人にすべて預けさせられ、1円たりとも実の子が触れることができないなんて…。

 この不条理を訴え打開策を探ろうと、法務省、家庭裁判所、金融機関、自治体の法律相談にコンタクトするも、どこも杓子(しゃくし)定規でらちがあかない。それどころか、「成年後見制度についてきちんと理解をした上で申請手続きをしたのですよね」といさめられる始末である。釈然としない日々は、母が亡くなるまで続くのだそうだ。

 実はこれ、50歳代半ばの会社員男性のケースである。

 銀行で言われるがまま、生真面目に成年後見制度を利用してしまったことで、彼は今も釈然としない悶々(もんもん)とした日々を送っている。

試しに
終活セミナーに潜入してみた

 世の中、終活ブーム花盛りである。

 都市部の高級住宅街や富裕層の多いエリア周辺では、まさに終活講座が雨後の筍(たけのこ)状態。主催者の顔ぶれは、銀行に法律家に葬儀業者。

 試しに潜り込んでみると…。

 夏の終わりに日経新聞に掲載された、「認知症患者の凍結資産は200兆円!」なる記事を巧みに使い、「ボケたらヤバい。ボケる前に、さあ、遺言を書いて公正証書にしろ。任意後見人を決めろ。家族信託契約を結べ。葬儀を予約しろ…」と、危機感をあおって自分たちの商売に繋げようと、躍起ったらありゃしない。

 例えは悪いが、独居老人宅に押しかけていきなり布団をカッターで切り開き、あらかじめ細工したルーペをのぞきこませて、「ほ~らね。お宅の布団はダニだらけでしょ」とやって、高額羽毛布団を押し売りする詐欺商法に近い違和感を感ぜずにはいられない。

 人並みに正直にまじめに生きてきた人間にとって、成年後見制度だの家庭裁判所だの公正証書だのというやつはイレギュラーな世界の話である。

 まだ認知症の兆しすら出ていないアクティブシニアに、「弁護士や司法書士や銀行と契約しとかなきゃヤバいぞ…」なぁ~んて迫られても唐突感は否めない。

 それでも、だ。オレオレ詐欺や振り込め詐欺の被害がいっこうに減らないように、真に受けて素直に財布を開いてしまうシニアだって一定割合でいるわけだ。

 つくづく思う。

 こういう商売のやり方ってどうなのかなぁ~と。

 百歩譲って、ある特定のイレギュラーな状況下に置かれたシニアにとって、遺言だの公正証書だの家族信託契約だの葬儀の生前予約だのが意味をなす場合も確かにあるだろう。

 しかし、大多数のシニアにとっては、手をつける優先順位が明らかに違うのではないか。

 真っ先に取り組むべきは、親世代と子ども世代が腹を割って向き合って、「親が子に引き継ぐものとサポートしてほしいこと」を共有することではないのか。それを双方が納得しあって、円満かつ円滑に代替わりしていくことこそが真の終活であるべきだろう。

 年々増加する親子間の「悲惨な事件」の解明につれて見えてくるもの。

 それは、子どもの成長とともに離れてしまった親子間の心理的距離を縮めることなく、親が子に依存しすぎた結果である場合が多い。あるべき終活の第一歩は、子どもがまだ幼かったころの親子の絆を取り戻すことだと思う。

「親子の絆」をバカにしてはいけない。

 無償の愛で親が子を慈しみ育て、親の愛に子が恩を報いる美徳が、生き馬の目を抜く現代でも残っていると信じたい。

 まずは親世代から子ども世代に歩み寄り、至らなかったことをわび、子に生かされたことを感謝する。その上で、残し引き継ぐものを明らかにし、エンディングの支援を依頼する。要はギブ・アンド・テイクである。

 だって、どんなに偉かろうが、どんなに金持ちだろうが、人は1人では死ねないのだから。

 これは、長生きしなければならない現代を生きる親世代にとって、最後の大仕事である。頼まれもしないのに勝手に子どもを作った親の側の責務と言っていい。これさえきちんとしておけば、親は人生のファイナルステージを凛として生きていけるし、子は子で親のエンディングに係る意思をまっとうすべく支えていこうという覚悟が定まるというものだ。

真の終活とは
専門家と一切かかわらないで済む老後

 親子の絆さえ取り戻してしまえば、何もイレギュラー世界の専門家や法的な手続きに関わる必然性はないのである。私たちが長生きと引き換えに背負いこんだ認知症などという問題がなかったほんの数十年前までは、「家」だの「家長」だの「隠居」だのという概念があって、どこの家でも当然のように行われてきた慣習ではないか。

 そう。遺産“争族”などということが珍しい時代だったからこそ、角川映画「犬神家の一族」は空前の大ヒットとなったのである。

 つまり、真の終活とは、医者や弁護士や税理士などの専門家と一切かかわらないで済むような老後を計画し実行することだ。言い換えれば、裁判所や弁護士や成年後見制度や公証役場などとは無縁のエンディングを実現することだ。

 きわめて大事なことだから繰り返そう。

「さあ。ボケる前に、遺言を書いて公正証書にしろ。任意後見人をつけろ。家族信託契約を結べ。墓を買え。葬儀の生前予約をしろ」などと、もっともらしいしたり顔でこういうことを言う輩の話を真に受けてはいけない。

 こんな話は親子間の信頼関係が取り戻せなかった場合にのみ考えればいいことである。よほどのことでもない限り、自分のエンディングのことで、銀行や家庭裁判所や弁護士などと関わらないに越したことはない。

 まずは親子で真摯(しんし)に向きあって、親子間で完結させることを考えるべき。そうでしょう?

 親子の絆を再確認できさえすれば、それだけでも老い先への不安はかなり晴れるはずだ。


※本記事はダイヤモンド・オンラインからの転載です。転載元はこちら

カテゴリートップへ

最新記事
最新記事

アスキー・ビジネスセレクション

ASCII.jp ビジネスヘッドライン

ピックアップ