マウスコンピューターがPC開発にかけた細かすぎるコダワリとは?

文●飯島範久 編集●ジサトラ ハッチ

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――マウスコンピューターの電源に関してはかなり厳しく評価していると伺っています。

 以前の電源は正直言ってあまりいい品質とは言えない時期もありましたが、時間をかけて、いまの品質まで持ってきています。品質の改善状況を5年前から品質の改善状況をグラフに取ると、右肩上がりになっているので、しっかり改善されていることがわかります。

 黒岩は旧飯山電機出身で、そこでディスプレーの設計をやっていたので、電源の重要性がわかっているのと同時に危険性もわかっています。なので、そこの手を抜いていたら、いまの品質はなかったと考えています。電源に関しては、時間はかかるけど、細かいところまで、黒岩の方でチェックしているというのがこれまでの取り組みですね。新しい電源、新しい回路を採用する場合も、細かいチェックを入れています。

 Power MOSFETのストレスに関しても、電源メーカーはスペック内なら使うんですが、当社の場合は、いろんなばらつきもあるので、何%以下という基準を決めて、あえてハイスペックなものに変更するという場合もあります。マージンの考え方が、他の会社とは違います。

 過剰品質を求めるつもりはないですけど、かといってギリギリというのはどうなのか? それが日本人の考え方ではないでしょうか。黒岩は危ないところ、壊れやすいところをよく把握していますので、ひとつのパーツのスペックを上げるとか、評価の中で行なっています。そういった積み重ねの結果、いまの品質に到達しています。

――電源を自社で設計して生産するという考えはないんですか?

 それは無理ですね。15年ぐらい前なら、電源で使っている部材を日本で調達できたので、その時なら設計はできたと思います。しかし、いま日本で調達できる部材は一桁%ぐらいじゃないでしょうか。部材を1つ1つチェックしない限り、設計はできないんです。そのため部材の調達が安易にできる海外へ移ってしまったという状況ですね。もし昔の知識で設計すると、もっと大きいサイズになってしまうと思います。

――なるほど、だから製品をお願いし、できたものの品質チェックをするわけですね。

 設計も一緒に行なうという感じですね。あがってきたものをチェックしていますが、最初の検査でまともにそのまま使えたものは、ほぼないと思います。

黒岩 細かいところを見ていますので、だいたい設計の変更をかけていますね。

――チェックにはかなり時間がかかるんですか?

黒岩 いろいろチェックしなければならないのでそれなりに時間がかかりますね。

 ユーザーがどういうふうに使うのか想定して、チェックをしていきます。電源を入れても、すぐに切ってまた入れるとか、一気に負荷を上げるとか、さまざまな状況を想定してやるので、条件出しが一番かかるんじゃないですね。

黒岩 基本的にはインテルからデザインガイドというものがあり、そこをクリアするためだけでも相当時間がかかりますね。あとは、当社独自の設定項目があって、それをクリアしなければ生産に移れません。

 電源はアナログなので、立ち上がりシーケンス、立ち下がりシーケンスというのは、当然ばらつきが出ますし、コントロールするのは大変です。その先のマザーボードやグラフィックスといった負荷にも影響を及ぼしますので、これまでの経験からこの基準は必要だよという基準を自社で独自に取り入れています。結構クリアするのは難しいですね。電源は生き物ですから。ノウハウと技術力というのは重要ですね。

計器を使い、トリガーという瞬間の波形を観測し細かくチェックしていく

――具体的にはどういう試験を行なっているのでしょう。

黒岩 自分が希望する電流値を細かく調整できる装置がありまして、これを使うことでさまざまなシミュレーションが行えます。たとえば、立ち上げ、立ち下がり、負荷が加わっているとき、いないときといった、パソコンを動作させるときと同じような電流の流れを確認できるわけです。この装置でしかできない予想もしないような、重い負荷の状態から立ち上げなどといった、そんな極端なこともできるので、そういう状況であっても問題ないか確認しています。

――負荷のかかるパーツを入れた場合の動作チェックということでしょうか。

黒岩 そうですね1200Wの電源だったら、1200Wの負荷をかけるようなことをしています。実際にはPCでそんなに一気に負荷をかけることは少ないですし、当社では独自の規定がありその範囲以内で電源を使用することになっているので100%使うことは通常なら起こりえませんが、電源としてはそこをクリアしていないとダメなので、確認するようにしています。電源は安全が第一ですから。

最近はUSB Type-CのPower Deliveryのチェックも行なっている。スイッチを切り替えることで、5V、12V、20Vといった出力を行ない、負荷をかけての動作を見てみる