手間のかかった液冷システムを導入
信頼性を武器に生き残りを図る
ちなみにパッケージングの観点で言えば、ECLを空冷で無理やり運用したAmdahlに比べると、液冷をきちんとモノにしたIBMの方が数段進んでいた気がする。
IBM 3090の場合、回路は基本的にECLベースのICとして製造されたあと、最大132チップをまとめて実装できるパッケージサブストレートに収められる。
画像の出典は、IBMの“The IBM 3090 Processor Family -A Balance of Technology and Design-”というカタログより。(以下同)
そのパッケージの断面が下の画像だ。このパッケージは、TCM(Thermal Conduction Modules)と呼ばれる巨大なヒートシンクに取り付けられたうえで、22層構造のマザーボードに装着されるという仕組みだ。
回路基板をそのままフロリナートに漬けたCray-2と異なり、きちんと冷却水とECLチップは分離されている格好である。
あとはこのTCM同士をパイプでつないで、熱交換器に接続すれば完了というわけで、これによりECLベースながら安定した動作が可能となっていた。
なんというか、Amdahlの空冷マシンに比べると、はるかに緻密というか、手間のかかったシステムになっているのがわかる。ただしこれは信頼性を追求した結果でもあり、この信頼性を武器に同社のシステムは生き残りを図っていくことになる。
これとは別に、IBM 3090が発表された翌1986年には、IBM 9370というシステムも発表されている。
画像の出典は、IBMのG.M.Johnston氏の“Does Life Begin at 40?”というプレゼン資料
こちらはIBM 4380のさらに下位に位置するエントリー向けのシステムであるが、この当時IBMを猛烈に追い上げていたDECのVAXシリーズに対抗するために、空冷に加えてラックマウントが可能な構成になっており、さらに価格および性能の点で、VAX(*)に対して競争力がある「はずだった」。
(*) IBM 9370の開発当時だと、VAX-8000シリーズやMicroVAX IIが競合製品だったはずだが、実際に市場に出た時はVAX-6000シリーズやMicroVAX 3100あたりが競合に変わっていた。
ただあいにくと、対応するソフトウェアが十分ではなかった。VAXがおさえていた市場は、System/370系では手薄な分野だったこともあり、対抗するには十分と言えず、少なくともDECの勢いを食い止めることはできなかった。
ということで、System/370シリーズの話を細かく説明しすぎた気もするが、70年代~80年代を代表するシステムだった、ということでご容赦いただきたい。
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