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JR北海道の値上げに非難殺到、旧国鉄「運賃政策」の呪い

2018年11月12日 06時00分更新

文● 枝久保達也(ダイヤモンド・オンライン

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経営難に陥っているJR北海道が表明した運賃値上げ。しかし、沿線自治体からは非難の声が殺到している。JR北海道の値上げは果たして妥当なのか。それを考えるには、他社との比較や、旧国鉄時代から今まで引きずっている運賃政策のまずさを知る必要がある。(鉄道ジャーナリスト 枝久保達也)

運賃値上げ表明を巡って
自治体から非難が噴出

経営難に陥ったJR北海道は運賃値上げを表明しました
経営難に陥って運賃値上げを表明したJR北海道は経営努力が足りないのか?この問題は安易に考えるべきではなく、旧国鉄時代から抱える足かせをきちんと議論すべきだ Photo:PIXTA

 JR北海道は10月20日に北海道庁で開催された6者協議の場で、消費税が10%に増税される来年10月に運賃改定を実施したいと表明した。

 具体的な値上げ額、範囲は明示されなかったが、増税分を含めて40億円の増収を見込んでいるという。2017年度の運輸収入は約730億円だから、平均5%の値上げで、増税分20億円、収支改善分20億円の計算だ。

 これに対して自治体からは、経営努力が不十分、まずは収益増加とコスト削減の自助努力が必要と反発の声が上がっている。地方路線を維持するために都市圏利用者も一律で負担増を求められることへの不満や、値上げによる利用者離れを懸念する声もある。

 公共性の高い鉄道事業、ましてや国が全株式を保有するJR北海道の経営再建だけに、さまざまな思惑を抱える当事者間の取りまとめに苦戦しているようだ。

 当初よりJR北海道は、増収の取り組み、コスト削減の徹底、社員の意識改革などの経営努力を前提に、「当社単独で維持することが困難な線区」、つまり赤字路線の負担の在り方の見直しを、国や自治体、利用者に求めていた。

 一方、政府は7月にJR北海道への追加支援を決定したが、同社が求めていた2030年までの長期的な支援については、取り組みの成果を見極めた上で別途検討するとして、現段階では2020年度まで2年間の支援のみを決定している。国鉄民営化失敗の烙印を押されたくない国交省は監督権を発動してうみを一掃する構えだが、財布のひもを握る財務省は廃線したほうがいいといわんばかりの消極姿勢と、国も一枚岩ではない。

 成果を急ぎたいJR北海道は、鉄路存続を目指す8区間の行動計画を今年度中に取りまとめる方針だが、支援額と負担割合を巡って国と自治体の探り合いが続き、着地点は見いだせていない。廃止予定の5区間についても、多額の廃止費用の手当てなど問題は山積だ。

 この苦境を招いた最大の責任が、事故や不祥事を連発して利用者の信頼を裏切ったJR北海道にあることは言うまでもないが、貧すれば鈍するという通り、過酷な経営環境で余裕を失った結果の転落だったことは否めない。

JR北海道はいまだに国鉄時代の
運賃水準を引きずっている

 JR北海道が抱え込んださまざまな矛盾には、当然株主である国の責任もある(詳しくは「JR北海道の苦境は一体どこに原因があるのか」参照)。北海道や沿線自治体が消極的だという批判もあるが、ない袖は振れないのが現実だろう。もはや何がニワトリで何が卵か分からなくなるほどに問題の根は深い。

 だからこそ、負担の見直しはもっと早く進めておかねばならなかったのだ。JR北海道経営破綻問題の本質は、危機が表面化するまで根本的な議論を先送りしてきたことにある。運賃値上げはその象徴的な問題である。

 意外に思われるかもしれないが、JR各社が過去30年間に実施した値上げは、消費税の導入や税率引き上げに伴う運賃改定を除けば、1996年にJR北海道、JR四国、JR九州の三島会社が行った1度だけだ。この時、JR北海道は平均7%の値上げを行っている。

 しかし、JR北海道の運賃水準は、他社と比べて決して高いとはいえない。むしろ割安である。道内で唯一、競合関係の鉄道事業者である札幌市営地下鉄の初乗り運賃が200円なのに対して、JR北海道は170円だ。

 同社の乗客1人あたりの平均利用距離は約30km、幹線普通運賃では540円になる。ところが、完全民営化を果たしたJR九州はJR北海道より高い550円、JR四国は560円だ。東京圏を見渡してみても、つくばエクスプレスの670円、北総鉄道の830円などJR北海道よりも割高な通勤電車が存在する。

 定期券の割引率でも大きな違いがある。JR北海道の約50%(通勤1ヵ月)に対して、札幌市営地下鉄の割引率は約30%(同)である。両社線が並行する札幌~新札幌間の運賃を比較すると、JR北海道は8390円、市営地下鉄は1万3390円と5000円もの差が生じている。

 この水準まで値上げできると言いたいわけではない。必要になってから一気に値上げすることはできないのだから、経営状況に見合った運賃水準まで段階的に値上げをしておくべきだったのである。なぜそうすることができなかったのだろうか?

 話は国鉄民営化までさかのぼる。国鉄末期、地方ローカル線は次々と廃止され、毎年のように値上げが繰り返された。民営化によってさらなるサービス切り捨てと負担増が起こるのではと不安視する国民に対し、自民党はローカル線や長距離列車は維持、運賃の据え置きという「公約」を掲げて、民営化推進を訴えた。

 この公約は多くがうやむやになったが、こと運賃に関しては、政府もJR各社も極めて抑制的であり続けた。定期券についても、徐々に割引率を引き下げてきた私鉄に対し、JRは国鉄時代の運賃水準を据え置いてきたので、30年で大きな差が開いてしまった。

与野党の駆け引き材料にされた
国鉄運賃の不幸な過去

 北海道新幹線開業前のデータになるが、2015年度の国土交通省鉄道統計によると、JR北海道の輸送人員は定期利用者・定期外利用者合わせて年間1億3400万人。うち定期利用者は約42%だった。

 通勤・通学の定期利用者と、特急など長距離利用を含む定期外利用者は平均利用距離が異なることを考慮し、利用者数と利用距離を掛け合わせた「人キロ」という単位で比較しても、定期利用の比率は約34%と全体の3分の1を占める。

 ところが収入の割合で見ると、定期利用者はわずか17%、定期外収入のうち特急券や指定席券など料金収入を除いて比較しても、定期利用者の割合は21%にとどまる。これは、もともと定期利用者を主とする都市圏の利用者負担が少なすぎたことを意味する。

 国鉄破綻の要因の1つに、運賃政策の失敗が指摘されている。国鉄の運賃は国鉄運賃法という法律によって定められていたが、政府は物価対策として公共料金、特に国鉄運賃の値上げに消極的な姿勢をとってきた。与野党の政治的取引の材料に用いられることもしばしばで、物価上昇に見合った適切な運賃改定を行うことができず、経営悪化を後押ししてしまった。

 いよいよ経営に行き詰まった国鉄は1970年代、今度は短期間のうちに大幅な値上げを繰り返し、客離れを招くという悪循環に陥り、崩壊へと突き進んでいった。民営化後も似たようなことを繰り返しているというわけだが、せめて2度目の崩壊は防ぎたい。

 現状のこんがらがった状況を一歩でも前に進めるためには、国と自治体はJR北海道の経営責任と努力を追求するだけに終わらず、今後の地域交通の負担の在り方について根本から話し合わなくてはならない。

 遠回りに見えるかもしれないが、出発点から考え直さない限り、第2、第3の「JR北海道」の出現を防ぐことはできないだろう。


※本記事はダイヤモンド・オンラインからの転載です。転載元はこちら

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