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サガン鳥栖のサポーターミーティングが「怒号」から「拍手喝采」になった理由

2018年11月03日 06時00分更新

文● 藤江直人(ダイヤモンド・オンライン

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サガン鳥栖。竹原社長
サポーターミーティングで熱く語りかけるサガン鳥栖・竹原稔社長 Photo by Naoto Fujie

逆風にさらされた時に、組織として何をするべきか。初めて経験するJ1残留争いから抜け出せないまま、残り5試合となった段階で電撃的な監督交代を決断。ピッチの外でもスポンサーの撤退報道が飛び交っていたサガン鳥栖の場合は、フロント幹部があえてサポーターと対面する場を設けた。約200人のサポーターが詰めかけた先月18日のサポーターミーティングで、サガンを運営する株式会社サガン・ドリームスの竹原稔代表取締役社長(57)が発した熱い言葉の数々から、地方の小クラブを着実に成長させてきた竹原社長の独自の危機管理術が伝わってくる。(ノンフィクションライター 藤江直人)

「辞めろ、こらっ!」
竹原社長に罵倒の電話も

 どのようにして調べたのか。サガン鳥栖を運営する株式会社サガン・ドリームスの竹原稔代表取締役社長の自宅や携帯電話へ、受話器の向こう側から「辞めろ、こらっ!」と罵倒する電話が、よくかかってくるという。それも昼間ではなく夜中に、だ。

 JR鳥栖駅に隣接する本拠地ベストアメニティスタジアム内にある、サガン・ドリームスの事務所宛にも同様の電話がかかってくる。差出人の名前が記されていない自分宛の手紙の封を切る時には、竹原社長は苦笑しながら「少なからず緊張します」と偽らざる心境を明かす。

 サガン・ドリームスの社員が営業先で「J2に落ちたらスポンサーをやめる」と、厳しい声を受けることもある。決して小さくはない逆風にさらされていた状況で、サガンはあえてサポーターと直接対面する場を設けた。

 本拠地内で先月18日に開催されたサポーターミーティング。クラブの公式HPで同9日に告知され、3日後の12日には午後7時開始などの詳細が追加で発表されたミーティングは、約200人ものサポーターが詰めかける盛況ぶりを見せた。

 竹原社長以下のフロント幹部とサポーターが顔を合わせる場を、サガンは状況に鑑みながら、必要と判断した時に随時設けてきた。今シーズンならば開幕直後の3月13日、ゴールデンウィーク前の4月25日に続いて今回が3度目の開催となる。

 特に4月は4連敗を喫し、順位も16位に沈んでいた。この時は数字が確定した2017年度決算を発表する第14期事業実績説明会として、サンメッセ鳥栖内の大会議室で開催されたが、サポーターとの質疑応答になると怒号が飛び交っている。

 フロントのトップだけでなく、指揮を執って3年目のマッシモ・フィッカデンティ監督の辞任を求める声が上がった中で、竹原社長は「少し背伸びをしてでも補強をする」と明言。その答えが7月に加入した元スペイン代表のエースストライカー、フェルナンド・トーレスであり、常勝軍団・鹿島アントラーズから電撃的に移籍したFW金崎夢生だった。

 巻き返しへの陣容が整ったかに映ったが、チーム状態はなかなか好転しない。3度目のミーティングを開催した時点で、サガンはJ2への自動降格圏となる17位へさらに順位を下げていた。18チーム中で5番目に少ない総失点31と守備陣が踏ん張る一方で、トーレスや金崎が加入したにもかかわらず、総得点23は断トツのワースト1位だった。

なぜ残り5試合でミーティング開催?
解任監督を登壇させる場面も

 日本代表戦の開催に伴い、リーグが中断した10月9日にはフィッカデンティ監督に代わり、サガン鳥栖U-18監督とトップチームのコーチを兼任していた37歳の金明輝氏が指揮を執ることが決定。前監督の今後については「協議中」のまま、3度目のミーティングを迎えていた。

 なぜ残り5試合になった段階なのか。2日後の20日には敵地でベガルタ仙台戦を控えた状況だったからこそ、突然の指揮官の交代を含めた現状を可能な限り説明。初めて昇格した2012シーズンから戦い抜いてきたJ1へ、何がなんでも残留するムードを作り出すための決起集会としたかった。

「この順位で皆様に不安を与えたことについて、あらためてお詫び申し上げます。2011年から社長をさせていただいて、いつも最善を目指してきた中でこうなったことも皆様にお伝えしたい」

 冒頭で頭を下げた竹原社長は、登壇者の中でただ一人、マイクを握らない。遠くまで通ると自負する、やや甲高い地声でサプライズを告げた。直前にシーズン途中での契約解除及び退団が正式に決まったイタリア人のフィッカデンティ前監督、腹心のブルーノ・コンカ前コーチが突然登壇したからだ。

 驚いたサポーターから大きな拍手で迎えられた2人は、10分以上にわたってサガンへの感謝の思いと、J1残留へのエールを送った。解任された監督がサポーターの前に出てくるのは極めて異例のケース。挨拶を終えた2人を握手で送り出した後に竹原社長が続いた。

「監督や選手には、挨拶をして終わらせたいと。最善はそうすることだと思ってきました。今日は『皆さんは何を信じているか』と問いたい。私たちは最善を尽くしています。それがノーという方もいるでしょう。社長は辞めろという方もいるでしょうけど、今は残留することが一番です。同時に来年のことも考えていかなければいけない。それが10年後、20年後のサガン鳥栖につながる。私はもうすぐ60歳になります。20年後は80歳です。もう生きていないでしょう。その時にサガン鳥栖がどうあるべきかを考えると、今日の決断と20年後から見た決断が少し異なる時があると申し上げたい」

 質疑応答までに声を振り絞った15分あまりの間に、竹原社長は「最善」という単語を5度も口にしている。この二文字こそが過去から今現在、そして未来へとつながるサガンのキーワードであり、今回のサポーターミーティングを介して伝えたかった思いでもあった。ゆえに指揮官の交代についても「最善」を強調しながらこう説明した。

「もめていたのかと聞かれれば、そうじゃない。未来について毎日毎日考えて、毎日毎日議論をして、さまざまな人の意見を交えて出した結論だとお伝えしたい。だから時間がかかった。サガン鳥栖のこれからもそうあるべきだ。常に最善を尽くしていることが伝わらなければ、もっと最善で最高の結果を求めるように、私たちの努力を怠ってはいけないと思っています」

スポンサー撤退の可能性も怒号なし、
割れんばかりの拍手でミーティング終了

竹原社長
Cygamesのスポンサー撤退についても真摯に答えた竹原社長 Photo by N.F.

 実はピッチの外でも、好ましくない情報が飛び交っていた。2015年7月からオフィシャルスポンサーを務め、ユニフォームの背中にロゴを掲出してきたスマートフォンゲームの大手、株式会社Cygames(サイゲームス)が今シーズン限りで撤退する、と一部スポーツ紙が9月下旬に報じた。

 年間のスポンサー料は推定5億円。事実ならば来シーズンの財政が逼迫するかもしれないし、高額年俸のトーレスの去就にも飛び火してくる。質疑応答に入ってすぐに、前方に座っていた女性サポーターが切り出した。「サイゲームスさんは撤退するのでしょうか」と。

 質問が来ると思っていました、という反応で会場の笑いを誘った竹原社長は、例え報道が事実であったとしても変わらないスタンスを取り続け、前へ進んでいくと力を込めた。

「昨年はオフィシャルスポンサーの中から、4社が撤退されています。価値観の相違なのか、会社の都合なのかは分かりませんが、一方で14社の新しいオフィシャルスポンサーが入って来られました。私どもの価値観の中で共有していただける方を最大限にリスペクトしながら、今まで来ていただいた方には感謝の念を込める、とまでしか言えません。地方の小クラブにとって、スポーツビジネスを展開していくことは非常に難しい。スポンサーの離脱問題を含めて、この逆境を乗り越えていくことしか考えていません」

 ホームタウンとする佐賀県鳥栖市の人口は約7万3000人。J3までを含めて54を数える、Jクラブのホームタウンの中で最も少ない。マーケティングも限られる中で人口減が進み、なおかつ親会社を持たない地方の市民クラブが背負う重い十字架をサガンは力強くはね返してきた。

 その原動力は兵庫県出身で、大阪・北陽高校サッカー部で全国制覇を経験している竹原社長のタフさとなる。24歳で佐賀県に移り住み、36歳になる1996年に株式会社ナチュラルライフを設立。今では九州だけでなく北陸、関西、関東で「らいふ薬局」を展開している。

 サガン・ドリームスの非常勤役員に就任した2010年に縁が生まれ、翌年5月に代表取締役社長に就任。その間のクラブの営業収益の推移を見ると、竹原社長が就任した初年度の6億8900万円から、最新となる昨年度には33億5096万円と実に5倍近い急成長を遂げている。

「私がワンマンだと言う人もいますが、社員に聞いてください。上がってきた施策は、すべてOKします。ただ、GOしてダメならやめますし、もっとこうした方がいいんじゃないか、という議論もします」

 当面の目標としてきた営業収益30億円突破を、トライ&エラーを繰り返しながら「選択と集中」を繰り返してきた結果だと竹原社長は振り返る。おそらく実業家として、相当な数の困難を乗り越えてきた。生き様が反映されている熱い言葉は、地声ゆえに説得力を増幅させ、詰めかけた200人を瞬く間に巻き込んだ。

 公にできることはすべて開示し、尽きるまで質問を受けた結果として、ミーティングは予定していた1時間を50分もオーバーして終えた。前回のような怒号は皆無。割れんばかりの拍手とともに生み出された一致団結した雰囲気に、窮地であえてサポーターと対面する場を設けた決断を含めて、サガン流、そして竹原流の危機管理術を感じずにはいられなかった。

「最後まで分からない戦いになります。今年はアウェイで1勝しかしていません。アウェイで起こす奇跡を見ていてください。アウェイに来られない方は待っていてください」

J2町田が2位以内なら16位でも残留へ
人事を尽くして天命を待つ

 ミーティングから中1日で迎えたベガルタ戦は、雷雨による中断を乗り越えて3-2で勝利。約7ヵ月ぶりとなるアウェイでの勝利に、トーレスも6試合ぶりとなる2ゴール目をあげて花を添えた。16位に浮上した中で、4日にはホームに最下位のV・ファーレン長崎を迎える。

 Jリーグでは各クラブの代表取締役が出席する実行委員会が月例で行われる。席次は北のクラブから並ぶため、九州勢となる竹原社長とV・ファーレンの代表取締役社長で、通販大手「ジャパネットたかた」の創業者である高田明氏と隣同士になる。

「高田社長からは『九州、これじゃいかんね。ともに残留しよう』と言われましたけど、直接対決があるので、心の中で『ごめんなさい』と思いながらも『そうですね』と返しました」

 サガンとV・ファーレンの勝ち点差は4ポイント。ともに今後を大きく左右する大一番へ向けて、10月の実行委員会の席におけるやり取りを明かした竹原社長は「町田を全力で応援しています」と付け加えることも忘れなかった。

 残り3試合と佳境を迎えたJ2戦線で、J1クラブライセンスを付与されていないFC町田ゼルビアが2位以内に入れば状況は大きく変わる。自動昇格はゼルビア以外の1チームだけとなり、J1では最下位チームだけが自動的にJ2へ降格。17位がJ1参入プレーオフへ回り、16位が一転して残留となる。

 帝京高校サッカー部出身のゼルビアの下川浩之代表取締役会長とは同じ年齢。高校時代からしのぎを削り合った旧友であることを明かした上で、竹原社長は終了後の囲み取材でこう補足した。

「町田が1位か2位でフィニッシュすると、まったく世界が違ってくる。僕たちはそういう運も持っていると信じています」

 現在3位のゼルビアと首位・大分トリニータとの勝ち点差は3ポイント、2位・松本山雅FCとはわずか1ポイント差だ。人事を尽くして天命を待つ、と力を込めた竹原社長の言葉は、最後まで不思議かつ力強い説得力に満ちていた。


※本記事はダイヤモンド・オンラインからの転載です。転載元はこちら

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