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中間層の格差とポピュリズムはグローバリゼーションが生んだ

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『週刊ダイヤモンド』11月3日号の第1特集は、「投資に役立つ地政学・世界史」特集です。トランプ米大統領が仕掛ける貿易戦争は、世界中を混乱に陥れています。ですが、そのトランプ大統領を生み出した源泉は、経済発展に伴い拡大したグローバリゼーションの反動にあります。そのルーツを探るべく、地政学や歴史をひもときながら、混迷する世界の解明を試みました。

中間層の格差とポピュリズムはグローバリゼーションが生んだ
Photo:PIXTA

 エレファントカーブ──。

 昨年、世界銀行の元主任エコノミスト、ブランコ・ミラノヴィッチ氏の著書『大不平等』(みすず書房)で示されたグラフが話題となった。

 経済のグローバリゼーションが始まった、1988年から現在までの世界各国の個人所得の変化をプロットしたもので、あたかも動物の象を横から見たようなカーブを描いている。

 ここで示されたのは、グローバリゼーションの恩恵を最も受けたのが、中国やインドなど新興国の中間層で(象の頭の部分)、最大の敗者が先進国の中間層ということだ(象の鼻のU字カーブ部分)。

 なぜ、こういったことが起こったのか。BNPパリバ証券チーフエコノミストの河野龍太郎氏によれば、90年代以前の産業革命に端を発するという。その歴史をひもといてみよう。

 19世紀の初頭、蒸気機関の実用化が始まった。それ以前は輸送コストが高額なため、ものを作る所と消費する所を一緒にするしかなかったが、蒸気機関の発明によって輸送コストが下がり、工場を集積できるようになった。

 つまり、当時は先進国といえば工業国のことで、まさに西洋社会が工業化したのだ。ここで重要なのは、これが歴史上、“大いなる分岐点”と呼ばれていることだ。

 なぜなら、それまでは中国やインドの方が1人当たりの所得がはるかに高かった。だが、蒸気機関の実用化によって工場で生産するようになり、西洋社会が工業国になったことで、1人当たりの所得が逆転したというわけだ。

 これが、グローバリゼーションのはしりといえる。

情報のグローバリゼーションが生み出した
“忘れられた中間層”の声が世界を席巻

 そして時代が進み、90年代になると、ウィンドウズ95に代表される情報のグローバリゼーションが起こった。国境を超えた情報の移動コストが劇的に下がったことで、先進国の製造業はノウハウを国外に持ち出すことができるようになり、途上国の割安な雇用を求めてオフショアリングを始めるようになったのだ。

 これは、経済学的にも経営学的にも望ましいと考えられてきた。収益性が高い研究開発などは国内に残し、収益性が低い労働集約的な生産工程を海外に持ち出した。それまでは、先進国側でも初等教育や中等教育で終了する層の多くは工場などの生産工程に収容され、それなりの賃金を得てきた。

 ところが、工場が海外に移った結果、こうした中間層が没落。これにより賃金が高い層と低い層の二極化が発生し、すなわち格差が広がっていったというわけだ。

 こうした〝忘れられた中間層〟の声が今、世界中を席巻し、ポピュリズム(大衆迎合主義)の台頭につながっている。その大きな流れに加え、移民問題などが重なったことで米国のトランプ大統領が誕生し、英国ではEU離脱(ブレグジット)につながっている。

 さらに、そこに地政学的な要素も絡んでくるから話はややこしくなる。米中貿易戦争の本質は、テクノロジーにおける覇権争いであるが、中国の習近平国家主席が「中国の夢」を高らかに宣言した一帯一路や、中国製造2025など新たな中華圏を築こうとしていることに加え、南シナ海での米国との海洋覇権争いも絡んでいる。

米中貿易戦争だけではない!
不雑さを増す欧州、中東情勢

 一方で、トランプ大統領の頭の中は、中間選挙や自身の大統領選挙の再選をにらみ、先の中間層の支持を得ることに終始しているかのように見える。トランプ大統領が置かれた状況は、富の集中が進み、格差が広がった19世紀後半に似ており、約100年前に独占資本を攻撃して不平等を是正したセオドア・ルーズベルト大統領を模しているのかもしれない。

 にもかかわらず、重商主義をほうふつさせるかのように、中国を筆頭に欧州や日本など貿易赤字が積み上がっている国々に対して貿易戦争を仕掛けるのは、世界の混迷をさらに深めるだろう。

 中東については、かつて列強たちの都合に振り回され、その爪痕にいまだ縛られ続ける運命を背負っている上、宗教上の対立など複雑な要因が絡み合う。

 そこに突如起こったサウジアラビアによるジャーナリスト殺害事件は、中東のパワーバランスを大きく崩しかねない。ただでさえ、イランとの対立が激化する中、ムハンマド皇太子への信頼は大きく揺らぐことになるだろう。

 日本にしても、米国との関税交渉はいったん棚上げされたが、早晩、為替条項を含んだ形での交渉を余儀なくされるだろう。米国に対して虎の尾を踏んでしまった中国が、日本にすり寄ってきていることにも適切な対応が求められるが、どうにも心もとない。

 図は、こうした地政学リスクや世界の機関投資家の動向に詳しいパルナッソス・インベストメント・ストラテジーズの宮島秀直チーフストラテジストが、欧米やアジアの機関投資家116人にヒアリングした結果だ。やはり経済へのインパクトが大きいリスクイベントの上位に「貿易戦争」と「中東」を挙げる向きが多い。

 本特集では、世界の状況をつぶさに見ていく。


※本記事はダイヤモンド・オンラインからの転載です。転載元はこちら

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