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北海道が暗闇に沈んだブラックアウトはなぜ起きたのか

最大のポイントは北海道特有の電力事情

特集
北海道を最先端Techで開拓する「No Maps 2018」レポート

 2018年9月6日午前3時過ぎ、最大震度7の地震が発生した直後に北海道全体が暗闇に沈んだ。大規模停電—ブラックアウトだ。生活を支えるインフラとして、完全な供給停止はあってはならない事態だが、ブラックアウトは実際に起こってしまった。戦後初のブラックアウトが起こった背景と、現在の電力供給状況、そしてこれからに向けて必要な備えについてNo Maps 2018において語られた。

札幌を中心にした電力網構成が全道ブラックアウトを引き起こした

 No Maps 2018のカンファレンス初日、「2018年9月『北海道ブラックアウト』はこうして起こった。そして今やらねばならない対策は。」と題された緊急対談セッションが行われた。最初に、元経済産業省北海道経済産業局長であり、現在は「北海道を強くしなやかにする会」の会長を務める増山壽一氏から、北海道ブラックアウトが引き起こされた要因について語られた。いくつかの要因が挙げられたが、最大のポイントは発電所や送電網が札幌を中心に設計されていたことだった。

発電所の配置や送電網が札幌中心に構成されている

 北海道に限らないことだが、各地域の電力供給網は都市機能を守るように作られている。東京電力は東京の都市機能を守るように、北海道電力であれば札幌を守るように。大都市には人口が集中しているだけではなく、自治体や企業の中枢機能が置かれている。これらを優先的に守ることは、人々の暮らしを守ることに直結するので、それ自体は理にかなっている。ただ北海道の場合、あまりにも設備が札幌中心に偏り過ぎていたと増山氏は指摘する。

 「北海道には500万人を超える人が暮らしていますが、そのうち200万人は札幌市民です。この極端な偏りが電力事情にも反映されています。札幌およびその近郊には大規模な発電設備があり、送電網も多重化されています。しかしそれ以外の地域では、送電網の多重化さえされていなかったのです」(増山氏)

北海道をしなやかにする会 会長 増山壽一氏

 大都市を守るために送電網が作られることは一般的とすでに書いたが、それ以外の地域でも設備障害や災害への備えとして送電網を多重化したり、メッシュ構造にしたりすることが多い。しかし北海道では事情が異なった。都市部以外の人口密度は極めて低く、広大な面積をカバーできるだけの多重化やメッシュ構造を施せば、1人当たりの電気料金はほかの地域に比べてかなり高額になってしまう。消費者のコスト負担とのバランスを考え、人口の少ない地域のほとんどが1系統の送電網しか持っていなかった。

 なおかつ、発電能力も札幌近郊に偏っていた。東京や大阪であれば、都市のすぐ近くに大規模な発電所を作るのは難しい。それに対して北海道では、札幌から近い場所に札幌を支えるための大規模発電所を建てるだけの土地があった。

 「大規模な発電所も強靱な送電網も、札幌周辺に集中していました。その中でも最大規模を持つ、苫東火力発電所がダウンし、周波数変動などにより周辺の発電所もダウン。多重化されていなかった他の地方も巻き込み、最終的に全道がブラックアウトしてしまいました」(増山氏)

復活に2日もかかったのは石炭火力が大きな割合を占めるため

 札幌中心の電力供給体制に加え、9月というタイミングも不幸の一端となった。電力需要ピークを迎える冬に備えて主力火力発電所のいくつかがメンテナンスのために停止していたおり、電力不足に影響したのだ。しかしこれは見方によっては不幸中の幸いとも言える。9月ではなく1月や2月にブラックアウトすれば、暖房をまかなえず市民の生命を直撃したかもしれないのだから。なにせ今回のブラックアウトから全道電力復旧までには2日間もの時間を要したのだから。

 「再稼働に時間を要した背景にも、北海道ならではの電力事情があります。北海道では火力発電が中心で、しかも大規模な石炭火力発電所が現役でいくつも稼動しているのです。石炭火力発電は、SLと同じで普段は種火を絶対に絶やさないようにします。種火が消えてしまうと、再稼働までに長い時間を要するからです」(増山氏)

北海道の電力の3分の1を石炭が支えている

 石炭火力発電は、北海道の電力の3分の1を支えている。国内の石炭生産がフェードアウトする際、国内の石炭火力発電所も順次閉鎖していった。減りゆく石炭を消費するための施設が特定の地域に集まっている方が都合が良い、そんな理由で北海道の石炭火力発電所が残されたという経緯がある。もちろん現在は、燃料は輸入に頼っている。

 その種火が消えてしまった。あるいは、メンテナンス中で種火が消えていた。これらを再稼働させるために要したのが、2日間という時間だった。

まだ停電は起こりうる!? いま取るべき対策とは何かを考える

 2018年10月現在、電力は安定的に供給されている。しかしこれから冬を迎え、北海道では電力消費のピークを迎える。電力供給量は順次増加し、ピークにも耐えられると予想されている。しかし、完全に安心できる状況とまでは言えないと、株式会社あかりみらいの越智文雄氏は語った。

株式会社あかりみらい 代表取締役 越智文雄氏

 「冬の電力需要をまかなえるという予想が出ていますが、これは発電設備が順調に復旧し、なおかつ冬が例年並みの寒さであることを前提にしています。もし厳冬だったら、豪雪だったら、暖房やロードヒーティングの使用量は増え、電力需要が見通しを大きく上回ることが考えられます。まだ綱渡りの状況にあると考えて、それぞれができる備えを考えるべきでしょう」(越智氏)

 ブラックアウトに備えるべきと越智氏が力を込めて語るのには、理由がある。戦後日本ではブラックアウトは起きなかったとはいえ、北海道の各施設の停電対策はあまりにも不足していた

 「札幌市内8つの自治体庁舎には、自家発電施設が備えられていませんでした。それどころか、避難所として指定された施設にも自家発電設備がなかったのです。災害時に人々の安全を守るべき避難所で、真っ暗闇で過ごした市民の不安を考えると、これはあってはならない事態だったと言えるでしょう」(越智氏)

暗闇の避難所で過ごさざるを得なかった被災時

 危機管理のスペシャリストとして越智氏は、停電への備えには個人でできることと、自治体や企業が行うべきことがあるという。

 自治体や企業は、BCPの観点から対策を講じなければならない。この場合、コストと効果のバランスを考え、必要なものを必要な分だけ用意することになる。その中で越智氏が勧めているのは、自治体の公用車をハイブリッド車にすることだ。トヨタ プリウスに代表されるハイブリッド車であれば、燃料さえ満タンになっていれば丸1日以上も100V電源を供給できる。照明や携帯電話の充電、テレビなど最低限の電源を避難所に提供できるだろう。企業においては社長室に大型のバッテリーを置いておくだけで、役員など幹部社員だけでも携帯電話やPCを使えるように備えることを推奨していた。

 「個人の場合は、携帯電話と照明が命綱になると思います。今回買い求めた方も多いと思いますが、携帯電話を乾電池で充電できるように準備しておくことをオススメします。また、省電力で長時間使えるLED照明を用意しておくといいでしょう」(越智氏)

公用車をハイブリッド車にすることを越智氏は勧める

 こうした対策の有効性は北海道に限らない。特に公用車をハイブリッド車にするのは、環境負荷軽減にもつながり、有効性が高い。ハイブリッド車以外にも、電源を確保するという意味ではEVも強い武器になる。越智氏によれば、フル充電のEVがあれば、タワーマンションのエレベーターを数十往復させることも可能だという。高層住宅の多い都市部でこそ、こうした対策を考えておく必要があるだろう。

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