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日本映画が国際評価で韓国映画の後塵を拝している理由

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第71回カンヌ国際映画祭で、是枝裕和監督作品「万引き家族」が最高賞であるパルムドールを獲得した。1997年の今村昌平監督「うなぎ」以来、21年ぶりの快挙だが、この長い空白期間は、日本の実写映画が国際的な評価から縁遠い存在となっていることの証しだろう。そこで今、改めて近年の日本映画の問題点、日本映画界が今後目指すべきことについて、東京国際映画祭で作品選定ディレクターを務める矢田部吉彦氏から話を聞いた。(清談社 布施翔悟)

日本の映画監督は
国内向けを意識し過ぎ!?

是枝監督作「万引き家族」がカンヌ映画祭で最高賞を受賞した
カンヌ国際映画祭で最高賞を受賞した是枝裕和監督の「万引き家族」。しかし日本映画界全体で見れば、国際評価は必ずしも高くはない。その理由は、日本の映画製作が抱える問題点にある Photo:AFP/AFLO

 数々の映画を日々鑑賞し、世界各国の映画祭に足を運んできた矢田部氏。まずは、近年の日本映画に対する海外での評価や、立ち位置について聞いてみた。

「何をもって海外での評価とみなすのかは難しいですが、カンヌ国際映画祭という国際的に重要な場を通して見てみると、是枝裕和監督はもちろん、河瀬直美監督や黒沢清監督、あるいは若手監督も何人かは、コンスタントに作品がカンヌに出品されていますので、日本映画の存在感が薄かったり、著しく劣ってる印象を与えているかというと、必ずしもそうではないと思います。ただ、ここ十数年の間、限られた監督のみが評価されてきたという状況ではありました」(矢田部氏、以下同)

 今回、「万引き家族」が受賞できたのは、どういった理由からなのか。

「単純に素晴らしい作品だということはもちろん、是枝監督はカンヌ映画祭では常連というぐらい長い年月の付き合いがあり、すでに実績があったことが1つの理由として挙げられます。また、日本映画が最も強いといわれる家族の物語を、もともとドキュメンタリーディレクターだった是枝監督がフィクションをうまくミックスさせ、完成度の高い脚本で仕上げたこと。そこに、天才的な役者さんや細野晴臣さんの音楽が加わり、演出、照明も含めてすべての完成度が高い領域に達していたのです」

 今回のパルムドールは、日本映画界にとって久々の朗報だが、日本の実写映画が世界三大映画祭(ベネチア、カンヌ、ベルリン)の最高賞受賞から遠ざかっていた理由はどこにあるのか。

「まず、日本では国内に受ける映画作りがされていて、海外に向けた作品が少ないことが理由の1つでしょう。たとえば、若い監督の作品は、女子高生が主役のものがとても多い。それはある意味で日本的な文化を捉えたものかもしれませんが、自分たちに近しいものばかりを取り上げてしまっているという印象は否めません。社会性を含めた、より大きなテーマにもう少し目を向けていかないと、海外で通用するのはなかなか難しいという気がします」

低予算映画の大ヒットを
美談にしてはいけない

 テーマ性に加えて問題なのが、国際的なプロデューサー不足と、それが原因となっての、製作資金集めの難しさだ。

「今の日本映画は低予算のインディペンデント映画と、東宝をはじめとする映画会社が製作するメジャー映画の二極化になっていて、数千万円から1億円前後という中規模予算の映画の層がとても薄い。一方、海外の若手監督たちは、海外のプロデューサーなどに話を売り込みながら、きちんとしたクオリティーのものを作り、数千万~1億円という資金を集めるための努力をしています」

「そのような資金集めには、国際的な共同制作を取り仕切るノウハウを持ったプロデューサーの存在が不可欠ですが、日本では、そのスキルを持つプロデューサーがとても少ないのです。今はデジタル時代になって、お金が集まらなくても映画が撮れてしまう。それは、日本国内のニッチな層には通じるかもしれませんが、広く海外に通用するかといえば、技術的なクオリティーの面でどうしても見劣りしてしまうというわけです」

 そんななか、300万円ほどで製作された、上田慎一郎監督『カメラを止めるな!』が、国内外問わず大ヒットしている。6月23日に劇場公開してから約1ヵ月もの間で、興行収入は5500万円を突破。当初はミニシアターのみでの上映だったのが、TOHOシネマズなどのシネコンにまで進出したという。低予算のインディペンデント映画としては異例の快挙だが、矢田部氏はこれを「美談にしてはいけない」と語る。

「今回の件は奇跡みたいな話。誰でも低予算であれほどのクオリティーの映画が撮れる、とは絶対に思ってはいけません。逆に、ある監督は、『カメラを止めるな!』ほどのいい脚本があったら、プロデューサーは300万円ではなくて数千万円で撮る努力をすべきだ、と言っていました。私は『カメラを止めるな!』のプロデューサーも知っていますし、彼はいい仕事をしたと思います。ですが、確かにそういう見方もあるな、と。きちんとした予算が集まるまでは、映画を撮ってはいけないんじゃないかと、最近は思うようになりました」

日本映画が海外での評価で
韓国の後塵を拝する理由

 テーマ選び、国際的なプロデューサー不足、資金調達の課題など、日本映画界における様々な問題点が浮かび上がってくるが、一方で国際的に活況を呈している韓国映画についても聞いてみた。

「韓国映画は、韓流ブームになった15~20年前から、エンターテインメントを海外に出すという国策を掲げて官民一体となった戦略を展開し、それがうまく機能しています。国内市場が小さいため、海外に出て勝負する必要があったんです。その中で、海外との国際共同製作という形での海外資本の取り込みや、海外の人にもウケる脚本の研究など、海外に通用する映画作りの戦略が立てられているのです」

 国内だけで満足しないという姿勢が、韓国の原動力になっているというわけだ。

 海外評価という視点で見れば、近年の日本映画は同じアジアの国である韓国作品に比べてもパッとしない。かつては黒澤明を始めとする名監督らが築き上げた黄金時代があったが、もはや数十年の前の話である。もう一度日本映画が復権するためには、どのような施策が必要なのか。

「再び日本映画を盛り上げるためには、ある程度の予算をかけた、インディペンデントの作品作りにお金が回るような仕組みを作るのが一策ではないでしょうか。たとえばフランスでは一種の映画税のようなものがあり、映画業界内の全興行収入のうち、数%がインディペンデント映画や、若手の映画作りに還元されるような仕組みができています。大会社が儲かれば、映画業界全体にその恩恵が回るようになっているんです」

大手映画配給会社の儲けを
映画業界に還元する仕組みが必要

 実は韓国の映画製作もフランスと同様のスキームを導入しているというが、日本の現場はどうなっているのか。

「日本では各種助成金は出ていますが、近年改善が見られるものの、いまだ使い勝手がいいとはいえません。そのうえ、大手映画配給会社がいくら儲かろうが、その会社しか潤わない。日本でも、若手が5000万円、1億円という規模の資金で映画を製作できるような仕組みを作って、世界に勝負に出る、というのが理想だと思います」

 こうした仕組みを作るための道のりはまだ長そうだが、矢田部氏によると、それでも新たな才能は確実に生まれてきているという。

「今年は濱口竜介監督の『寝ても覚めても』が、カンヌ映画祭のコンペに入選。これは本当に素晴らしい偉業で、もっと日本中が騒いでもいいぐらいのことだと思います。ほかにも2年前に深田晃司監督が『淵に立つ』という作品で、カンヌ映画祭の『ある視点』部門で賞を取っています。また、三大映画祭ではありませんが、富田克也監督も『バンコクナイツ』で、ロカルノ映画祭で受賞するなど、30~40代の監督が世界で名を上げ始めています。是枝裕和、河瀬直美、黒沢清、北野武という名前が独占していた日本の国際的な映画監督の地図の中で、ここ2~3年は新しい名前が出てきており、今、実は日本映画界はようやく上向き始めています」

 どうやら、悲観し過ぎることはないようだ。今回のパルムドール受賞を契機に、さらに日本映画が盛り上がっていくためにも、若手監督がクオリティーの高い映画作りに挑戦できるよう、日本映画業界全体の改革を期待したい。


※本記事はダイヤモンド・オンラインからの転載です。転載元はこちら

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