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日銀政策修正は政権と命運をともにする「終わりなき緩和」宣言だ

2018年08月29日 06時00分更新

文● 末澤豪謙(ダイヤモンド・オンライン

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日本銀行の看板
Photo:PIXTA

 7月30・31日に開催された金融政策決定会合で、日本銀行は金融政策の修正を決定した。

 主な修正点は、(1)フォワードガイダンスの導入、(2)長期金利の変動幅の拡大(±0.1%⇒±0.2%)、(3)マイナス金利の政策金利残高の圧縮(10兆円⇒5兆円)、(4)ETFの銘柄別買い入れ額の見直しだ。

 日銀は今回の政策修正の目的として、異次元緩和(長短金利操作付き量的・質的金融緩和、YCC)の持続性の強化を挙げたが、会合後の会見で、黒田総裁は政策修正の背景として国債取引の不成立に再三、言及した。

 だが政策修正の「真意」は別のところにあるのではないか。

黒田会見で強調された
市場機能低下への対応

 確かに今年に入り、日本相互証券(BB)での新発10年国債の取引不成立日が既に6日に達している(8月27日現在)。2017は2回、2014年から2016年は1回、2013年はゼロだったことを勘案すると、今年は突出して多い。

 取引不成立は、次の3つの要因により国債市場の流動性が低下していることが背景と思われる。

利付国債の保有比率の図表
出所: 日本銀行資料よりSMBC日興証券作成 拡大画像表示

 第1に、異次元緩和の累積効果により、民間金融機関等が保有する市中国債残高の減少が続いていることだ。2018年3月末段階で、日銀の国債保有割合は、国庫短期証券を除く利付国債残高の43.9%と、4割強を占めるまでになっている(図表1)。

 第2に、YCC政策の影響で、10年国債利回り(長期金利)は0.0%台での安定推移が続き、投機(スペキュレーション)的売買やヘッジ売買のニーズが大幅に減り、裁定取引(アービトラージ)の機会も減少していた。

 第3に、今年5月から、国債取引の決済期間がT+1(約定日の翌日に受け渡し)となり、新発10年債も翌日発行(本格的には7月から)となり、業者がポジションを抱える必要がなくなったことがある。

 図表2で見るように売り切り・買い切りのアウトライト取引を意味する一般売買高は、2013年4月の異次元緩和導入後、減少傾向が続いてきた。今年5月以降、売買高が増加しているのはT+1の導入の影響で、玉確保のため、急増した現先取引だ。

 また7月に、売買高が若干、増えたのは日銀の金融政策修正観測で、長期金利が久方ぶりに上下したためで、8月以降は再度、減少傾向に転じるとみられる。2013年以降も、国債の現存額は累増しているため、一般売買で見た売買回転率は過去最低を更新中である。

◆図表2:公社債店頭売買高の推移

公社債店頭売買高の推移の図
出所:日本証券業協会資料よりSMBC日興証券作成 拡大画像表示

 ただ、黒田総裁はこれまで一貫して、異次元緩和の長期化にもかかわらず、国債市場の流動性や市場機能にはさしたる問題はないとの認識を示していた。

 それだけに、やや違和感を覚えた。

 黒田総裁もさすがに取引不成立が頻繁する状況に危機感を抱いたのか、あるいは、もう1つの副作用として指摘されている金融機関の収益悪化を政策修正の理由として挙げたくなかったのか、定かではない。

 確かなのは、ここへきて市場機能の低下が政策修正の「大義名分」として使えると考えたことだろう。

政治日程が影響
急遽、決めた可能性

 ただし市場機能の低下は一挙に進むものではなく、累積的なものだ。なぜ、このタイミングなのかについては、明確な説明はなかった。

 あえて言えば、物価上昇率の先行きの見通しを引き下げる中、異次元緩和の長期化が必至となったため、持続可能性を高めるためということだろう。だがそれでは手段と目標の優先順位が逆転しているようにも思える。

 当初は、2年で2%の物価上昇の到達が可能としてスタートした政策が5年半近くたった今日、今回の政策修正により、目標が達成できるとは常識的には考えにくい。

 ではこの時期に何を狙って、修正をしたのだろうか。

 このタイミングでの修正は、政治スケジュールが影響した可能性が高いのではないか。

 今回、日銀の金融政策修正に関する観測報道が出始めたのは、会合の10日前の7月20日の夜からだ。

 ロイターや時事通信、朝日新聞などの報道はタイミングが同じであり、日銀幹部と報道各社との懇談会などでなんらかの情報提供があった可能性が高そうだ。

 今年の日銀の金融政策決定会合の開催日(2日目)は、7月31日の次は9月19日、10月31日、12月20日となる。自民党総裁選の投開票日は7月段階で、9月20日との見方があった(その後、9月20日に正式決定)。

 また11月6日には米中間選挙が控えている。12月下旬はクリスマス休暇と年末・年始の休暇等の影響で、為替相場等が変動しやすい。2019年は4月には統一地方選、7月には参院選、10月には消費増税を控えており、政策変更はおろか、修正も難しくなる。

 こうしたことを考えると、米株価や米景気も堅調で、為替市場や株式市場が不安定化する心配が少ないということで、今回の会合で急遽、決定した可能性が高いと思われる。

 とすると、次回の本格的な政策変更までの距離感は相当遠いともいえそうだ。

異次元緩和の
長期化を「宣言」

 今回の日銀の決定や黒田日銀総裁の会見を聞いていた際、筆者の頭によぎった歌がある。それは、「Endless Game」。山下達郎氏の作詞作曲で、TBS系列で1990年に放映された『誘惑』の主題歌だ。

 歌の冒頭は「心の中できしむ音が聞こえるでしょ 重ねた白い指がふるえたから」でスタートする。

 今回の政策修正の発端ないし大義名分は、国債市場における新発10年国債の取引が業者間で不成立となる日が相次いだことだと考えられる。いわば「市場のきしむ音が聞こえるでしょ、国債取引不成立が続いたから」。

「Endless Game」の2番は「いつかはこんな風になる気がした」で始まる。日銀は当初、異次元緩和の導入により、「2年程度で、2%の物価上昇を達成できる」としていたが、当時、その通りになると予想していた向きは、少数派だった。筆者を含め、市場関係者の多数は異次元緩和の長期化により、いつかは政策の修正が必要となると見込んでいた。

 まさに「いつかはこんな風になる気がした」だ。

 だが日銀はまだそうは思っていないようだ。あるいはそう思っていても、そうは歌えないのかもしれない。

 7月の決定会合で出された「展望レポート」で、日銀は2018年度(政策委員見通しの中央値+1.3%⇒+1.1%)、2019年度(同消費税率引き上げの影響を除くケース+1.8%⇒+1.5%)、2020年度(同+1.8%⇒+1.6%)の物価見通し(除く生鮮食品)を下方修正した。

 物価見通しを引き下げ、2%物価目標とのかい離が拡大する状況で、YCCの金利の操作水準を引き上げたのでは、論理的説明ができない。それだけでなく、市場が政策転換だと受け止めて、長期金利の上昇や円高・株安を招くおそれがあった。実際、事前報道を受けた7月23日の東京金融市場では、長期金利が上昇、円高・株安が進行した。

 こう考えれば、今回、政策決定のタイトルを「強力な金融緩和継続のための枠組み強化」と打ったことは、「終わりのないゲーム(It's The Endless Game)」ならぬ「終わりのない異次元緩和(It's The Endless QQE with Yield Curve Control)」の継続を宣言したに等しい。

 異次元緩和の出口のハードルは、まずは、2019年10月の消費増税だが、2020年度段階で消費者物価(除く生鮮食品)の見通しが、政策委員の大勢見通しで+1.5%~+1.8%、中央値で+1.8%にすぎないことを勘案すると、微修正、微調整を除く、本格的な出口戦略の発動時期は、現状、見通せないといえそうだ。

「Endless Game」の歌詞の「夜明けの街並みへと やがてあなたは消えて行く 途切れた夢のかけら ここに置き去りにしたまま」のようにはならず、向こう数年以内に、消費者物価が安定的に2%に到達し、晴れて、日銀が「出口宣言」をできる環境になる可能性は低いといえそうだ。

 今回の日銀の政策修正は、異次元和緩和に関し、いわば安倍政権と命運をともにすることを改めて、宣言したともいえる。

「アンチエイジング策」に
ギアを入れ替える時だ

 だが一方で、少子高齢化やグローバル化が加速し、仮に2020年代後半以降 2%物価目標が達成されたとしても、その時には金融政策の正常化、「出口戦略」などという悠長なことは言っておられず、日本経済にとって「最大の危機」への対応が問題となっている可能性が高いのではないか。

 南海トラフ地震や重大な地政学的リスクの発生の場合、そのタイミングが早まる可能性も頭の片隅に置いておくべきだろう。

 そろそろ、日銀や政府も金融政策の限界を認め、しょせん「時間稼ぎ」と認識した上で、日本経済の「アンチエイジング」策、具体的には抜本的な少子化対策や、日本の強み・潜在能力を極限まで発揮させる産業振興策など、「異次元の成長戦略」を進める政策にギアを入れ替えるべきではないか。

(SMBC日興証券金融経済調査部部長金融財政アナリスト 末澤豪謙)


※本記事はダイヤモンド・オンラインからの転載です。転載元はこちら

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