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日本型「司法取引」は企業犯罪摘発にメリットも冤罪増加の可能性

2018年08月28日 06時00分更新

文● 福田晃広【清談社】(ダイヤモンド・オンライン

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6月1日に導入された「日本型司法取引制度」。海外ドラマなどで聞いたことがあっても、具体的にどういうものなのか、説明できる日本人は少ないだろう。日本型司法取引とは、そもそもどのような制度なのか、その運用目的やメリット、デメリットなどを青山学院大学大学院法務研究科の後藤昭教授に聞いた。(清談社 福田晃広)

アメリカ映画とは違う
「日本型司法取引制度」

日本型司法取引の概要とは?
共犯者の処罰に協力することで、自らの罪を軽くしてもらうというのが、「日本型司法取引制度」。企業や暴力団などによる、組織ぐるみの犯罪捜査に効果的とされている(写真はイメージです) Photo:PIXTA

 一般的に言われる“司法取引制度”には、大きく分けて2種類ある。1つ目は、アメリカなどで行われている「自己負罪型」。これは自分の罪を認めることと引き換えに刑を軽くしてもらうという取引だ。

 2つ目は、「捜査・訴求協力型」といわれるもので、主に共犯者の処罰に協力することによって、自分の処分を軽くしてもらう取引を指す。今回の日本型司法取引制度では、こちらのタイプのみ導入された。

 具体的に対象となるのは、贈収賄、脱税、詐欺、金融証券取引法違反、粉飾決算、独占禁止法違反など、企業における財政経済犯罪だ。そのほかには、暴力団によることが多い薬物、銃器などの組織犯罪も対象となった。

 これまでは被疑者に対する取り調べによって事実を解明するのが、日本の刑事裁判の特徴だった。ところが近年、警察による手荒い取り調べが冤罪を引き起こしているのではないかとの指摘もあり、2016年の法改正で、限定的とはいえ、取り調べの際に録音・録画を行うという「取り調べの可視化」が制度化された。透明性を高めるための方策には違いないが、これまで以上に黙秘権が尊重され、供述が得られにくくなったのも事実だ。

 事件によっては共犯者の供述がなければ立証しづらい場合も多いから、厳しい取り調べをしにくくなることで、捜査関係者が苦戦を強いられることになる。その対応策として、検察官から特に要望の強かったのがこの日本型司法取引制度だという。

「日本型司法取引制度の目的は、端的にいえば共犯者の供述をしやすくすることで、事実の解明に結びつけること。もっといえば、その背後にいる首謀者を芋づる式に処罰するのが狙いといってもいいでしょう」(後藤氏、以下同)

「会社のために自らを犠牲に」が
通用しにくくなる効果が

 また後藤氏によれば、日本型司法取引制度には企業法務の2つの観点から注目されているという。

「まず1つ目は、企業犯罪が明るみに出やすくなるということです。前述したように、たとえば社員が司法取引に応じて供述することで、事実が明らかになる可能性が高まり、検察は立証しやすくなります。そうすると、企業犯罪の摘発が盛んになり、会社側は『何が何でも会社を守ろう』というような、社員の忠誠心を期待できなくなることが予想されます。

 2つ目は、会社自体も取引の主体になり得るので、たとえば、『前社長に対する立証に協力するので、会社を起訴しないでください』という交渉も可能性としてはあり得ますし、企業防衛に利用できると考える人もいるわけです」

 つまり企業に勤めている人であれば、社内で何らかの不正、犯罪が発覚しても、会社のために自らを犠牲にするのではなく、正直に証言をして、自分は不起訴になる方が得ですよ――そんな提案をするのが、日本型司法取引制度なのだ。

 ただ、こうしたメリットも専門家によって意見は異なる。また、これまで建前上は司法取引がないことになっているが、以前から被疑者が自白することで減刑したケースは珍しくないのだという。今回の司法取引制度とは別次元の話だと前置きしつつも、後藤氏はこう話す。

「象徴的なのは、地下鉄サリン事件の実行犯である林郁夫受刑者です。死刑になってもおかしくないにもかかわらず、法廷で隠さずに証言したことで無期懲役の判決が下されました。アメリカの法律家が見れば、これは取引だと思うでしょう。つまり、これまでも暗黙の了解で、あるいは量刑事情としての考慮という形で、取引が行われてはいましたが、これからは堂々と正式な制度として、運用可能になりました」

虚偽供述による
冤罪増加の危険性も

 前述のように、日本型司法取引制度は、検察官が強く望んでいたもので、より検察の権限が広がることも確かだ。しかし一方で、共犯者供述の扱いがこれまで以上に重要かつ危険にもなるという。

「そもそも共犯者供述が危ないのは、刑事裁判の常識です。なぜかといえば、『自分が1人でやりました』と自白するよりも、他の人に罪をかぶせた方が被疑者も得になることが分かっているので、冤罪のケースも多いのです。それに加えて、今回の司法取引制度ではっきりと見返りが約束されることにより、まったく関係のない人に罪をかぶせて自分は逃げ切ろうとするというような、打算的で虚偽の供述が以前よりも増えることが予想されます。諸外国でも、司法取引による冤罪が問題となっています」

 企業犯罪、組織犯罪の摘発が増えていくのか、もしくは権限が拡大した検察による冤罪が増えてしまうのか、どちらの可能性も十分にあり得る司法制度といえるのだ。日本型司法取引制度の功罪は、実際に長期間運用してみないことには答えは出ないだろう。


※本記事はダイヤモンド・オンラインからの転載です。転載元はこちら

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