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金足農の侍ポーズも「刀狩り」、甲子園に厳しい規制は必要か

2018年08月28日 06時00分更新

文● ダイヤモンド・オンライン編集部(ダイヤモンド・オンライン

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たとえ負けても悔いのない美しい思い出を残してあげたいものだ
大会本部は「支配者」の姿勢を改め、たとえ負けても悔いのない美しい思い出を残してあげることに、全力を尽くすべきではないだろうか(写真はイメージです) Photo:PIXTA

夏の甲子園、第100回全国高等学校野球選手権記念大会は、大阪桐蔭(北大阪)の史上初となる2度目の春夏連覇や準優勝した金足農(秋田)の躍進、初のタイブレーク方式の適用、史上初の逆転サヨナラ満塁本塁打、総入場者数が初の100万人突破など、さまざまな話題で盛り上がった。一方で、大会本部が選手らのパフォーマンスなどに横やりを入れ、ネットで炎上する騒動も。なぜ大会本部はこうも「規制」したがるのか。(ジャーナリスト 戸田一法)

夢かなったが「めっちゃ怒られた」

 全国紙の運動部デスクによると、今回は記念大会だからか、大会本部には開幕前からピリピリした雰囲気が漂っていたという。運動部デスクは「例年そうだが、今回は特に『つつがなく進行させ、無事に終わらせたい』という意向がうかがえた。選手らには窮屈な大会になりそうだなと感じていた」と話す。

 運動部デスクの懸念は、開幕前にすでに的中していた。

 7月31日の出場校による甲子園球場見学会で、白山(三重)の川本牧子部長が打席に立ち、バットを手に豪快にエアスイング。東拓司監督や選手たちから「先生。打って、打って」とリクエストされ、いったんは固辞したものの、その優しさに応じたほほえましいワンシーンだった。

 川本部長は少年野球チームの監督だった父親の影響で野球を始めたが、中学以降は女性であるため野球部に入れず、中学・高校はソフトボール部員だった。そんな川本部長にとって、甲子園は“あこがれの地”。その経緯を知る監督や選手が、甲子園の「打席」をプレゼントしたのだ。

 しかしその後、大会本部に制止され、注意を受けた。川本部長は「めっちゃ怒られた。『打席は部長先生でも立ってはダメです』って」と肩をすくめていたという。

 例年は30分間練習できるが、今回は記念大会で出場校が多く、開幕までの日数も少ないため、グラウンドやベンチを15分間見学する機会を設定。ユニホーム着用で、ボールやバットを使用しなければ守備位置を確認することなども許可されていた。

 大会本部は「時間も限られており、登録選手以外はグラウンドに入れない、という規則だった。女性だからダメ、というわけではない」と説明した。

 確かに川本部長はスカートにブラウス姿で、ユニホーム着用ではなかった。バットを手にしたのもルール違反だった。

 しかしマウンドに立ち、グラウンド内も動き回っている。運動部デスクは「注意したのは打席だけ。じゃ、なぜマウンドなどは注意しなかったのか。もし部長が男性だったら、大会本部は同じ態度だっただろうか」と首をかしげた。

無意識の動作を禁止

 大会本部の横やりは開幕後も続く。しかも後味が悪いことに、結果的に勝敗まで左右してしまった。気合のほとばしりを全身で表し、話題にもなっていた創志学園(岡山)の西純矢投手によるガッツポーズだ。

 1回戦で優勝候補の創成館(長崎)を16奪三振・無四死球で完封した西投手。しかし、2回戦で下関国際(山口)との試合中、球審から「必要以上にガッツポーズをしないように」と注意されたのだ。

 感情をむき出しにして打者に対峙するのが西投手の投球スタイル。

 しかし、試合中にそのスタイルを禁止され「リズムが狂った」(西投手)。試合は4-2と2点リードの9回表、先頭から四死球を連発してピンチを広げ、暴投も絡み3失点。4-5の逆転負けで甲子園を去った。3安打に抑えながら9四死球と大乱調で、創成館を無四死球完封した1回戦とは別人のようだった。

 試合後、西投手は「試合の序盤でベンチに帰る時、球審から結構強い口調で言われました」と明かし、その上で「自然と出てしまう」。初回の先頭打者を見逃し三振に打ち取り、雄たけびを上げながらガッツポーズ。

 どうやら、これが球審の逆鱗に触れたらしい。

 その後も控えめながら右手を握りしめるしぐさがあり、8回にも再度、注意されていた。長沢宏行監督は知らされておらず、試合後に聞いて驚いたという。

 大会本部は「ルールでは禁止されていないがマナーの問題。高校野球の精神として相手をリスペクトすることが大事。ガッツポーズで喜びを表すのは自然な姿だが、球審は度が過ぎると判断した。国際大会では、やってはいけないアンリトゥンルール(暗黙の了解)がある」とコメントした。

 西投手は「自然に出てしまう」、大会本部も「喜びを表すのは自然な姿」。運動部デスクは、「無意識の動作を『禁止』と言われたら、カウントで打者を追い込んでも『三振に打ち取ってもやっちゃダメ』と意識せざるを得ない。ガッツポーズ禁止に気を取られ、投球に集中できなくなって当然」と解説する。

 確かにメジャーリーグでこんなアクションをしたら、ビーンボールが飛んでくるだろうし、大会本部の見解や球審の注意に一定の理解はできる。しかし、球審の注意が西投手の制球に影響を与えたのは想像に難くない。何とも後味の悪い結果になってしまった。

金足農の「侍ポーズ」を“刀狩り”

 下馬評を覆して強豪を次々と撃破した金足農も、パフォーマンス自粛を求められていた。吉田輝星投手と大友朝陽中堅手の「侍ポーズ」だ。

 親友でもある2人が移動バスの中などでリラックスするため、「侍」と言われたら「シャキーン」などと返すゲームが由来という。初回、吉田投手がロージンバッグを手にした後、右膝を地面につきながら大友選手に向かって刀を抜くしぐさを見せ、大友選手もそれに応じる動作だ。6回にも行われ、最終回は刀を納めるしぐさで決める。

 別に対戦相手を挑発する目的や、ふざけているようには見えない。

 通常のルーティンで、士気を高めるためならば、何ら問題ない範囲と思われる。しかし、準決勝で日大三(西東京)との試合前、大会本部から中泉一豊監督を通じ、自粛を求められたという。

 それでも2人はアクションを小さくしただけで、全面的に従わない意地を見せた。試合後、吉田投手は報道陣に対して「『それ禁止だよ』って注意されたので、今日は適当にポイっと…」と自粛要請があった事実を認めていた。

 前述の運動部デスクは「大会本部は『高校野球には野球と関係ないパフォーマンスは不要で、侍ポーズは高校野球にふさわしくない』という見解だった。ファンに認知され、話題にもなっていたのに、大会本部は嫌悪した。何か『あるべき高校野球像』があり、外れているのは受け入れられないのだろう」とため息をついた。

 かつて地方の高野連で理事をしていた筆者の弟は、立場上、多くは語ってくれなかったが、それでも「明確な規則はないが、何か暗黙の了解で『目立つものは排除』みたいな風潮はあった」と話していた。

 大会を主催する朝日新聞は戦前、大本営発表をそのまま掲載するなど戦争翼賛報道を行う軍部の御用新聞だった。

 戦後はその反省からリベラルに転換したが、高校野球・甲子園大会に関しては「(一昔前までの)丸刈り」「(不祥事での)連帯責任」「精神論」「上意下達」「行進」「君が代」「団体行動」など、戦前を想起させるイメージが付きまとう。「目立つものは排除」はその延長線上にあり、現在の朝日新聞の理念から取り残されてしまった過去の遺物のような印象を受ける。

 大会本部は確かに大会の主催者であり、運営主体である。

 しかし、主役は選手で、支えるのが監督や部長、そして応援団などの関係者であるのは間違いあるまい。大会本部が大会を成功に収めたいという気持ちも理解できるし、三十数年前に高校球児だった立場としては、ご苦労に頭が下がる思いだ。

 しかしながら、主催者の役割は選手を必要以上に萎縮させるのではなく、ルールの範囲で伸び伸びとプレーさせることではないだろうか。全力を尽くし、たとえ負けても悔いのない美しい思い出を残してあげることではないだろうか。

 時代は変わっていく。

 大会本部には「支配者」のごとき振る舞いを改めて、あるべき「裏方」に徹する姿勢を求めたいものだ。


※本記事はダイヤモンド・オンラインからの転載です。転載元はこちら

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