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「プラ製ストロー廃止」機運で日本製紙はスタバやマックに食い込めるか

2018年08月13日 06時00分更新

文● 週刊ダイヤモンド編集部(ダイヤモンド・オンライン

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日本製紙が力を入れる「シールドプラス」
2017年秋以来、日本製紙が力を入れる「シールドプラス」。酸素や香りを通さない新型包装材として、既存のプラスチック製品とのリプレイスを狙う。世界の市場を目指しているはずなのに、なぜか“持ち帰り”の表記は和製英語のまま 写真提供:日本製紙

 低迷が続く洋紙事業の立て直しにもがく日本製紙で、8月1日より変わった名称の組織が発足した。

 その名も「紙化ソリューション推進室」。7月上旬、世界中でコーヒーチェーンを展開する米スターバックスが、使い捨てのプラスチックごみの海洋投棄に起因する環境問題の高まりを受け、プラスチック製のストローを2020年までに段階的に廃止する方針を発表した。

 こうした動きを受けて、国内で最大手の洋紙メーカーである日本製紙は、社内に特命チームを立ち上げ、世界で起きている環境問題の解決に乗り出すことにした。

 もっとも、先進国を中心に環境に悪影響をもたらす海洋プラスチックごみの問題が注目されているといっても、話は簡単ではない。

 これまで、ハンバーガーチェーンの米マクドナルドなどがプラスチック製のコップやストローなどを採用してきたのは、「シズル感(飲み物としての瑞々しさ)が出て美味しそうに見えること以上に、大量購入方式で圧倒的にコストを下げられるから」(商社)だった。

 例えば、紙コップでは、既存のプラスチック製品と紙製品の単価を比較した場合、プラスチック製品の方が推定で10分の1~20分の1程度と格段に安いのである。

 いくら紙製品が環境に優しくても、これでは全く勝負にならない。では、既存のプラスチック製品の価格に近付けようと紙製品をダンピング販売しようものなら、かつて洋紙事業で繰り返してきた付加価値を自らで否定するような価格競争に巻き込まれて、かえって首を絞めることになってしまう。

高いコーティング技術を持つ日本の製紙メーカーの紙コップ
一見、どこにでもありそうな紙コップだが、日本の製紙メーカーが持つコーティング技術は高い。だが、すでに純然たるコモディティ商品と化しているために、技術的な付加価値の話よりも先に価格の話になってしまうのが悩みの種だ 写真提供:日本製紙

 納入価格の問題ばかりではない。日本は、世界でも例を見ないほどのリサイクル先進国だ。スーパーでもらうポリ袋(ポリエチレン製)は、家庭用のごみ袋として再利用されてから回収される。その後、地域のごみ焼却場では、800度以上の高温で焼却するため、ダイオキシンなどの有害物質を出さない。

 プラスチック製品は、中途半端にリサイクルを考えるのではなく、そのまま焼却した方が安上がりであり、ごみ焼却場でも「石油化学系のごみが一定量は混じっていた方が火の回りがよくなる」(関係者)と当てにされているほどなのだ。

SDGsやESG投資が追い風になるか

 さらに大きな問題として、日本で製紙事業が立ち上がってから100年以上、製紙メーカーは販売を紙卸商(販売代理店)に任せっきりにしてきた経緯がある。

 過去には、日本製紙が主導してインターネット販売を試みたこともあるが、「ネットの販売価格は販売代理店の価格に合わせ、配送も販売代理店に頼んでいた」という珍妙な事態が起きていた。つまり、これまで自らが動いて販路を開拓した経験は皆無に等しいのだ。

 日本製紙は、環境問題の解決に積極関与するとしているが、そのためには、従来のように紙卸商に販路開拓を丸投げするのではなく、自ら大口の顧客を開拓しなければならない。事実上、これまで最終ユーザーとの接点をほとんど持てていなかった同社にとって、非常に難易度の高い挑戦となる。

 一見、“ドン・キホーテ”のように、無謀に思える日本製紙の新機軸ではあるが、グローバル企業の需要を獲得できれば、話は大きく変わってくる。今日、企業活動においては、16年に国際連合が打ち出した「SDGs」(Sustainable Development Goals、持続可能な開発目標)や、「ESG投資」などの 新しい概念が注目を集めている。

 すなわち、企業のE(Environment、環境)、S(Social、社会)、G(Governance、ガバナンス)の姿勢が問われているのである。

 こうした流れの中では、ESGの要素を重視していない企業は、投資の対象から外されるだけでなく、資材の調達先からも外されるようになっていく。アジア圏内で供給体制を着々と整えている日本製紙が、結果的に“受け皿”となれる可能性もなくはない。

 日本製紙は、17年1月にインドで最大の飲料用紙コップメーカーを買収したり、ベトナムでは紙コップ事業でシェア1位の製造加工メーカーを傘下に収めたりして、生産設備を手に入れている。

 日本製紙グループ内を横断しながら新規事業を進める、長知明・営業企画部長兼紙化ソリューション室長は、「多少、価格が高くても支持してくれる大口の顧客を開拓したい」と不退転の決意で臨む。

 20年夏の開催まで2年を切った東京オリンピック・パラリンピック大会では、「食品から飲料まで、紙製品を多用した日本独自のスタイルとして、世界の人々に向けて情報発信したい」と強調する。

 ただ、足元の業績は、安泰とはいえない。連結売上高が1兆円を超えながらも、今期は洋紙事業の不振などにより、純利益が78億円(17年度)の黒字から180億円の赤字に転落する見込みだ。

 今回の動きに対して、業界内には「焼け石に水」という否定的な声もあるが、このタイミングを逃したら、二度と世界で勝負する機会はめぐってこないかもしれない。そうした事情を考えれば、一歩も二歩も前に出るべきであろう。

(「週刊ダイヤモンド」編集部 池冨 仁)


※本記事はダイヤモンド・オンラインからの転載です。転載元はこちら

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