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キリンのバドワイザー生産終了はビール市場にむしろ「追い風」か

2018年07月27日 06時00分更新

文● 週刊ダイヤモンド編集部(ダイヤモンド・オンライン

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「KING OF BEERS」の異名を取るバドワイザー。主力ブランドを、ABIはいよいよ自らの手で売り込む Photo:Helen Sessions/Alamy Stock Photo/ユニフォトプレス

ビールの巨大ブランド「バドワイザー」。これまでキリンが日本での製造販売を手掛けてきたが、世界ビール最大手が自前での展開に切り替えた。世界の巨人が日本市場攻略のピッチを上げる。(「週刊ダイヤモンド」編集部 山本 輝)

 連日の猛暑が需要を呼び込んでビール商戦が熱気を帯びるさなかの7月24日、あるビール大手幹部の背筋が寒くなった。

 この日、キリンビールと世界ビール最大手であるアンハイザー・ブッシュ・インベブ(ABI)の日本法人であるABIジャパンが、流通向けに「バドワイザー」の販売者が変わることを通知した。これまではキリンが国内でライセンス製造・販売を手掛けていたが、年内でライセンス契約を終了する。

 同ブランドを持つABIからの提案をキリンが受け入れたもので、来年以降はABIが自ら販売を手掛けることになった。

「ついにバドワイザーもか」。冒頭の幹部は思わず口にした。

 この話には伏線がある。アサヒビールがライセンス販売をしていた「ヒューガルデン」などの商品についても今年1月、ABIは自社販売に切り替えた。このころから世界3位の販売量を誇るバドワイザーも自社で手掛けるのではないかという観測がされていた。

 世界最大手といえども日本ではまだ存在感が薄い。有名ブランドのラインアップを広げれば、市場を攻略しやすくなるというわけだ。

 今回は、日本におけるバドワイザーそのもののてこ入れという意味合いも強い。1993年からキリンが製造・販売を担ってきたが、96年の約8万キロリットルをピークに、現在では9000キロリットル程度にまで落ち込んでいる。

 世界ではABIはバドワイザーをプレミアムブランドに位置付け、販売強化に乗り出しているところだ。米国ではクラフトビールの台頭で苦戦するが、米国以外では中国や韓国などがけん引し、17年に10%も売り上げを伸ばしている。

 この世界戦略の下、日本でもバドワイザーを本流の米国ブランドとしてプレミアム路線で強化したいとの思惑がある。

 バドワイザーの国内販売は現在、家庭用が8割ほど。同じくキリンが手掛ける海外ブランドの「ハイネケン」が同3割であるのと比較しても、家庭用の比率が高い。

 家庭用の缶製品では、キリンの「一番搾り」などの主流のビールに比べて、より安い値段で売られている店舗もある。プレミアムとして認識されるには不十分だ。

 ブランディングを強化するため、自社販売に切り替えた後は、「業務用にも注力していく」とABIの担当者は明かす。

 ただ、攻めの戦略があだになりかねない懸念もある。

 先述のヒューガルデンはアサヒから引き継いだ際、流通との関係による問題やアサヒの営業攻勢などもあり、販売量を一時期3~4割ほど落とした。

 現在は以前の水準に戻ったようだが、バドワイザーも同じ轍を踏みかねない。従来はキリンという大手の営業力の下、コンビニなどにも商品を展開してきたが、販売元の切り替えで現在の販路をどこまで維持できるかは見通せない。

 価格や商品設定の問題もある。ABIは今後、バドワイザーを米国から直接輸入する計画で、運搬コストなどがかさむ。詳細はまだ明らかにしていないが、プレミアムに位置付けるならば値上げもあり得よう。が、当然それは従来の客層の離反を招きかねない。

 そして今回の契約終了は、キリンにとっても痛手だ。

 全盛期から落ち込んだとはいえ、バドワイザーは現在もビール類市場の約0・5%を占める巨大ブランド。熾烈なシェア争いを繰り広げるビール業界にあって、このコンマ数パーセントでも失うのはつらいところだ。

 キリンは米国で一番搾りをABIに製造委託しており、その協業は今後も続けるとしている。一番搾りを海外で拡販したいキリンにとって、バドワイザーを手放すというのは、ABIとの関係を重視した結果でもある。

沈むビール類市場
巨大外資の攻勢はむしろ追い風か

 国内勢は外資の国内攻勢に警戒心を増す。ABIの戦略で、ナショナルブランドのビールの販売量の落ち込みが激しくなることを恐れているのだ。

 もっとも、ABIが現状の商品構成や営業規模で市場をひっくり返すのは、短期的にはたやすいことではない。

 むしろ、ABIのてこ入れが、単価の高いクラフトビールを含めたプレミアムビールの市場にとって追い風となる可能性も秘める。

 日本のビール類市場が年々縮小する中にあって、プレミアム市場は拡大基調にある有望なカテゴリーだ。大手もクラフトビールに注力し、キリンはバドワイザーが抜けた分をクラフトビールなどでカバーするという。

 世界を握る猛者にかき回される局面を、製品の多様化などで乗り切るか、相手のなすがままになるか。猛暑に浮かれてはいられない。


※本記事はダイヤモンド・オンラインからの転載です。転載元はこちら

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