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高齢ドライバーが原因の交通事故は本当に増えているのか

2018年07月24日 06時00分更新

文● 福田晃広(ダイヤモンド・オンライン

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ここ数年、高齢者による交通事故が社会問題化している。これからますます高齢ドライバーが増えていくことが予想されるなか、人の命に関わる問題のため、対策は急務だ。高齢ドライバーによる事故の実態、高齢者が事故を起こしてしまう要因や対応策などを、早稲田大学名誉教授で日本交通科学学会常任理事の石田敏郎氏に聞いた。(清談社 福田晃広)

実は増えていない高齢者の事故件数
ではなぜ、近年目立つのか?

高齢者ドライバーにとって、認知症は大きな問題です
交通事故件数全体が減少するなか、高齢ドライバーによる交通事故は件数がほぼ横ばいでも、全体に占める割合は増加しています(写真はイメージです) Photo:PIXTA

 近年、高齢者による自動車事故がメディアで大々的に報道されている。たとえば、「ブレーキとアクセルを踏み間違えて、孫をひき殺した」、「高速道路に誤って入り逆走して正面衝突した」、「運転中、突然気を失って歩行者に突っ込んだ」といった事故が相次いでいる。

 しかし、石田氏によれば、実は50年ほど前から、高齢者による交通事故件数にはそれほど変化がないという。

「65歳以上の高齢者による事故件数は、その年によって大きく減るときもありますが、ほぼ横ばい。しかし、その他の若い世代による事故件数は減少しているため、全体として高齢者による事故の割合が増加傾向にあるのです。それに加えて、メディアで大きく報じられることで、高齢ドライバーの事故が最近特に目立つようになっているというわけです」(石田氏、以下同)

 警視庁のデータでも、2008年の高齢ドライバーによる交通事故発生件数は、6840件、事故全体に占める高齢ドライバーの事故割合は11.1%だったが、2017年は、事故件数が5876件と減ったものの、事故割合は17.9%と、逆に跳ね上がっている。

認知症にかかると
信号の存在を忘れてしまう

 警察庁の統計によると、75歳以上の運転免許保有者数は、2016年末時点で513万人と、10年前から比べると倍増している。また、ここ10年以上、75歳以上の高齢者による死亡事故は年間400件超で推移しており、これは決して見過ごせる問題ではない。では、高齢者が事故を起こす要因には、どういったものが考えられるのだろうか。

「年齢や体力、運転技術など個人差はあるにせよ、一般的に当てはまるのは、視力が弱まることで周囲の状況が見えづらくなり、適切な判断ができなくなることです。また、反射神経も衰えるので、素早い反応ができずに慌てたことが原因で、ブレーキとアクセルを踏み間違うというケースも増えてしまうのです」

 それ以外にも、最近大きな問題になっているのは認知症だ。認知症にかかると、色彩の見分けがつかなくなったり、集中力も散漫になるという。

「認知症の人はいつも何らかの症状が出ているそうです。たとえば、たった今確認した信号の色を忘れていたり、そもそも信号があることさえも記憶から抜け落ちたりすることもあります。そうなると、一時停止でも止まらずに直進してしまうなどの恐れがあるため、大変危険なのです」

免許の自主返納を促すのが
一番効果的な対策法

 昨年3月、道路交通法が改正され、75歳以上の免許更新時や、一定の違反行為をした際の認知機能検査で、「認知症の恐れ」と判定された場合、医師の診断が義務化となった。さらに認知症だと診断されれば、免許取り消しの対象にもなる。

 警察庁の調べによれば、この改正道路交通法が施行された1年間で、認知機能検査を受けた210万5477人のうち、5万7099人が「認知症の恐れ」があると判定されたという。

 とはいえ、認知症という病気は、現状の医療では正確な診断をすることが難しい。認知機能検査で異常なしと診断結果が出たとしても、その翌日には事故を起こしてしまうケースも実際にあると、石田氏は指摘する。

 そこで警察が対応策として進めているのが免許の自主返納だ。警察は2002年から、高齢者の免許返納を促すために、運転経歴証明書というものを交付している。これは金融機関などで身分証明書として使える上、タクシーや電車、バスなどの交通機関の利用料が割引になる。

自己評価が高い高齢者には
ケアマネの協力が有効なケースも

 これらのサービスに加えて、高齢ドライバー問題への関心や、返納制度が周知されてきたため、2017年における75歳以上の高齢者の自主返納は、実際前年より約9万件も増えているが、一方ではかたくなに免許返納を拒む人も少なくないという。

「高齢ドライバーの方は経験もあるためか、運転に自信を持っている人が多く、自己評価が高いのです。そのため家族が説得しても免許の自主返納に応じないケースも多いようです」

 そのような場合は、高齢ドライバーの家族が地域包括支援センターのマネジャーなどに相談して、免許の自主返納を促してもらうことなどが効果的な手段ではあるようだ。

 免許の自主返納以外にも、自動ブレーキ機能などが付いている先進の安全技術が搭載される車両に限った上で、運転可能な地域や時間を限定する「限定免許制度」も、有識者会議で議論に上ったが、なかなか条件を厳密に決めることが難しく、実現のメドは立っていないという。

 自動運転車の普及にも期待したいところだが、まだ現実的ではない。無理矢理、高齢者から運転免許証を取り上げることは人権上、当然許されないことだが、少しでも自分の運転に不安がある高齢者に対しては、身近な人が自主返納を促していくことが重要なようだ。


※本記事はダイヤモンド・オンラインからの転載です。転載元はこちら

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