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汗をかかない人ほど夏は危険!「無汗症」になる3大要因とは 長崎大学大学院医歯薬学総合研究科 皮膚病態学 室田浩之教授に聞く

2018年07月19日 06時00分更新

文● 渡邉芳裕(ダイヤモンド・オンライン

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汗をかかないと熱中症のリスク大
汗をかかない人は熱中症になるリスク大です Photo:PIXTA

関東甲信越地方では観測史上最も早く梅雨が明け、全国各地で気温35度以上の猛暑日が続いており、「汗」に悩まされている人は少なくないだろう。なるべく汗はかきたくないものだが、汗には重要な役割があり、むしろ汗が出なければ大きなトラブルにつながりかねない。そこで、気になる汗のメカニズムと、汗や皮膚にまつわる疾患について、長崎大学大学院医師学総合研究科の室田浩之教授に話を聞いた。(聞き手/医療ジャーナリスト 渡邉芳裕)

汗は「体の温度を下げる」だけでなく
肌の「保湿作用」「免疫機能」もあった

――暑くなると大量に汗が出てうっとうしいものですが、汗は体にとってどんな役割がありますか?

 汗は「におい」や「汗染み」などのように嫌な面に注目が集まりがちですが、体が健康な状態を維持するための大切な役割を持っています。

 代表的な汗の機能をいくつか挙げるとすると、まず1つ目に「体温調節」の機能があります。例えば真夏の暑い日に家の軒先に打ち水をしたり、霧状の水を浴びると涼しくなったりといった体験をされたことがあると思います。水が蒸発するときに生じる気化熱は、地面から熱を奪い、温度を下げます。汗にも同じような効果があり、体温の上昇に伴い汗をかくことで生じる気化熱を利用して皮膚を冷やし、体温の調節をしています。通常、健康な人であれば環境と体温上昇に応じて、暑い日にはその分たくさん汗をかいて体温調節をしているのです。

 2つ目に、汗には「保湿」作用があります。人間のほぼ全身の表面に分布しているエクリン汗腺から作られる弱酸性の透明な体液である汗には、主な成分としてナトリウム、カリウムなどの電解質、尿素、ピルビン酸、乳酸、抗菌ペプチド、タンパク分解酵素、タンパク分解酵素を阻害する物質などが含まれています。とりわけ豊富に含まれている乳酸ナトリウム、尿素は水との親和性が高く、天然保湿因子として皮膚の潤いを維持する作用に貢献しているのです。皮膚の保湿にはこういった汗の成分が大きく貢献しており、汗をかけない人はドライスキン、つまり、乾燥肌になっていきます。

 そのほかの汗の機能として、病原体から体を守ったり、皮膚を潤したりすることで健康な皮膚の状態を保つ作用があります。このことから汗は最前線で体を守る免疫システムの1つといっても過言ではないと思います。

汗をかかない人は熱中症のリスク大
「無汗症」になる3つの要因とは?

――汗をかかない方がいいと思っている人は多いですが、もし汗が出なければどんな異常が現れる可能性がありますか?

室田浩之教授
室田浩之(むろた・ひろゆき)/長崎大学医学部卒業。大阪大学皮膚科学講師、准教授を経て、2018年5月から長崎大学大学院医歯薬学総合研究科 皮膚病態学 教授。専門は、アレルギー、膠原(こうげん)病、発汗異常症。

 汗が出すぎて困っている人からすると、汗が出ないのであれば面倒でなくていいと思うかもしれませんが、汗が出ないことはさまざまな症状を引き起こすこともあります。汗のメリットが得られないわけですから、当然、体温と皮膚温は上昇しますし、皮膚は乾燥し、さらに病原体への抵抗性が損なわれるでしょう。

 実際に汗が出なくなる疾患、例えば自律神経失調症例では、広範囲のドライスキンと皮膚の温度上昇を伴います。そのほか汗を出すエクリン汗腺が未熟あるいは形成されない外胚葉異形成症の症例ではアトピー性皮膚炎診断基準を満たすようなドライスキンを伴う皮膚炎のケースも見られます。

 また、皮膚温だけではなく体温も調節できませんので、うつ熱(身体の熱の拡散が妨げられ、体温上昇をきたした状態)や熱中症のリスクも上昇します。例えば体重70kgの人が体温を1度下げるためには100ccの汗をかき、さらに皮表から蒸発する必要があるとの試算もあります。

 体温調節に必要な発汗量が得られないと体内に熱がこもり、うつ熱状態になります。うつ熱になると体温調節が難しくなるので、熱中症になるリスクが高まります。熱中症の増加は社会問題となっていますが、この背景には発汗低下も関わっていると考えられます。

――具体的に、汗が出なくなる病気にはどのようなものがありますか?

 汗の出なくなる無汗症の原因は、大きく(1)薬剤や身体的要因、(2)皮膚疾患、(3)中枢神経あるいは末梢神経の異常、の3つに分けることができます。薬剤では多汗症の治療薬として用いられる抗コリン剤が発汗を減少させます。身体的要因としては熱傷や外傷後瘢痕(はんこん)など限られた部位のエクリン汗腺が損なわれる原因が含まれています

 次に汗が出なくなる皮膚疾患ですが、先天性と後天性に分けられます。先天性疾患は無汗性外胚葉形成不全症、ファブリー病などが知られています。後天性皮膚疾患としてはシェーグレン症候群、全身性強皮症、コリン性じんましん、アトピー性皮膚炎などです。

 神経疾患も汗の出ない原因となります。中枢神経性としては脳血管障害、脳炎、頚髄障害、多系統萎縮症、多発性硬化症などが知られています。末梢神経性としては糖尿病、アルコール中毒などに伴う末梢神経障害、脱髄性多発末梢神経障害、自律神経障害などです。大量の水を飲み、尿の回数も多いのに汗が出ない場合は中枢性尿崩症の可能性を考えます。原因が明らかでない無汗症の症例もあります。その場合、後天的特発性全身性無汗症の診断になります。

大人の「アトピー性皮膚炎」の人は
汗をかかなければさらに悪化する可能性も

――汗が出なくなる皮膚疾患として挙げられていた「アトピー性皮膚炎」は、近年、大人になってから発症する人が増えています。アトピー性皮膚炎では汗はかゆみを招くため、悪化の要因と考えられがちですが、汗をかいた方がいいのでしょうか。

 成人のアトピー性皮膚炎の方を対象に発汗機能の評価を行うと、アトピー性皮膚炎のない人と比較して、発汗量は少なく、汗が出てくるまでに要する時間が長いことがわかっています。つまり、アトピー性皮膚炎において、汗は少しずつ時間をかけてゆっくり排泄されているようです。

 発汗量が減ると、皮膚温は上昇し、乾燥し、病原体への抵抗性は損なわれるので、アトピー性皮膚炎にさらに悪影響を及ぼすと考えられます。

 これまでの汗に関する研究から、成人のアトピー性皮膚炎患者はアレルギー炎症、自律神経失調、不安などの影響によって、必要十分な汗をかけていないことがわかっています。ですから、患者さんが適切に「汗をかける」ことも重要な治療到達目標となること意識しています。

 私がアトピー性皮膚炎患者に対する汗対策指導の内容をご紹介しますと、発汗を怖がっている方、汗をかいてかゆいという方には 汗はかけないよりはかけた方がよいですよね、と話します。そして、汗をかいても不都合のない状態に治療することを共通の目標とします。

 一方、汗をかけるアトピー性皮膚炎の方もいます。そういう方には、汗をかいた後は汗が皮膚表面に長時間残らないよう洗い流す、おしぼりで吸い取るなどの対策をするよう勧めています。ただし、症状をよい状態で維持しても、汗をかいて急に悪化するという方も少なくありません。治療はあせらず、うまく付き合いながら、症状をコントロールすることを目標において頑張ってください。


※本記事はダイヤモンド・オンラインからの転載です。転載元はこちら

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