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西日本豪雨の教訓、「国難級災害」に減災の備えが必要だ

2018年07月17日 06時00分更新

文● 週刊ダイヤモンド編集部(ダイヤモンド・オンライン

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痛ましい犠牲を伴った西日本豪雨
Photo by Akira Yamamoto、JIJI、朝日新聞社/時事通信フォト

平成に入ってから最悪の豪雨災害──。痛ましい犠牲を伴った西日本豪雨は、あらためて減災対策の重要性を示したといえる。国難災害への備えを怠れば、「人災」の側面が出てきてしまうだろう。(「週刊ダイヤモンド」編集部 西日本豪雨取材班)

弱り目に祟り目のマツダ

 今回の西日本豪雨の特徴は、河川の氾濫や土砂崩れなどの甚大な被害を受けたエリアが、九州から中部地方にかけて広範囲に分散していることだ。激甚災害が、複数の府県をまたいで同時多発的に起こったために、救助・復旧作業に遅れが生じた面は否めない。

 大手損保社員によれば、「3メガ損保グループで保険金支払額は1000億円を超える」。水害を主とした自然災害で、全国に被害が及ぶ台風並みの金額に達するのは珍しいという。

 また、直接は被災していない地域・企業でも、道路・鉄道など交通インフラの機能不全が原因となって、生活や経済活動を阻まれるケースもあらわになっている。

 その影響をまともに受けているのがマツダだ。中国地方には、マツダと三菱自動車の主力工場があり、付近には自動車部品メーカーが集積している。

 12日、マツダは生産を停止していた広島県の本社工場と山口県の防府工場の操業を再開した。もっとも、本社工場は夜勤のない昼勤のみのシフトを組んでおり、「当分は慣らし運転だ。サプライヤーからの部品の輸送停滞も心配だが、従業員の通勤すらままならない状況。通常操業に戻るには時間がかかる」(マツダ社員)と、操業再開を楽観視する声を否定する。

 豪雨発生から遅れて、本社工場のある府中町で榎川が決壊したり、主要サプライヤーが「陸の孤島」と化している東広島市や呉市に多かったりと、予断を許さない状況が続いている。

 6月末に就任したばかりの丸本明・マツダ社長にとって、今回の災害は弱り目に祟り目だ。

 ただでさえ、米国の保護主義傾注で、関税賦課やサプライチェーン見直しのリスクに晒されている。国内生産比率の高いマツダにとっては死活問題。そんなときに豪雨に見舞われたのだ。

被災路線は赤字ローカル線

 鉄道インフラは壊滅的な被害を受けたといっても過言ではない。何しろ、鉄道11事業者が運行する36路線が運休する異常事態になっているのだ。

鉄橋が流されたJR芸備線
鉄橋が流されたJR芸備線。完全復旧には、年単位の時間がかかるという Photo:JIJI

 中でも、深刻なのがJR西日本だろう。中国地方の9路線10区間の復旧には「1カ月以上」の期間を要する見通しだ。広島県内の山陽本線は関西と九州を結ぶ大動脈であり、中心部の「海田市-三原間」の不通の長期化で利用者の往来は制限されてしまう。

 鉄橋が流されたJR芸備線に至っては、「完全復旧には、年単位の時間と億円単位の金がかかる」(JR西日本幹部)としており、復旧への道のりは遠い。また、同幹部は、「道路がふさがっているために、全容解明の調査すら満足にできていない状況で、被害がさらに拡大するリスクもある」と声を潜める。

 そして、決まって議論になるのが、「誰が復旧費用を負担するのか」である。近年、鉄道が自然災害に見舞われるケースは少なくない。被災するたびに、その復旧費用の負担をめぐって、JRグループら鉄道事業者と沿線の地方自治体との間でバトルが繰り広げられてきた。

 今回もそうなのだが、乗客数の多い山陽本線は例外として、「被災したほとんどがローカル線で赤字」(JR西日本幹部)だ。民間の鉄道事業者に、赤字路線へ巨費をつぎ込んでまで復旧させるインセンティブは働かない。

 一方の自治体は「鉄道事業者は被災を機会に廃線にしてしまうのではないか」と疑心暗鬼になることがもっぱらだ。

ひっそり議員立法が成立

 6月15日、鉄道被災の復旧の在り方を左右する法律がひっそりと成立した。改正鉄道軌道整備法がそれだ。

 黒字の鉄道事業者でも赤字路線を復旧するときに補助金を受け取れるように改正された。従来は、補助の対象は赤字の鉄道事業者に限定されていた。

 実はこの法律、熊本地震や九州北部豪雨で被災したJR九州の豊肥本線、日田彦山線を想定して改正されたものなのだが、大打撃を受けたJR西日本にとっては一筋の光が差し込んだといえそうだ。

 足下では、西日本豪雨の発生後、復旧工事が見込まれる公共投資銘柄の株価が軒並み上昇している。

 頻発する自然災害にどう対処すべきなのか。九州地域は3年連続で大きな災害に見舞われているわけで、もはや災害発生を「想定外」と無視することはできなくなっている。

 衝撃的な試算がある。巨大災害が発生したときの被害額について、土木学会がまとめたものだ(下表参照)。

 例えば、南海トラフ地震による長期的な被害額は1410兆円。2018年度の日本の国家予算の14.4倍に匹敵する規模だ。

 また、南海トラフ地震や首都直下地震など巨大災害の減災対策に掛かるコストは約60兆円。年度当たりの公共事業関係費は約6兆円なので、このペースで投下し続けると、減災対策だけで10年も要する計算だ。

 だが、社会保障費の増大に歯止めがかからない現在、公共投資の原資を捻出する財政的ハードルは極めて高い。

 痛ましい犠牲を伴った西日本豪雨は、あらためて減災対策の重要性を示したといえる。国難災害への備えを怠れば、「人災」の側面が出てくるだろう。

 その一方で、野放図な公共投資が許されるのもおかしい。鉄道軌道整備法によってJRグループは救われるかもしれないが、国民視点で言えば、税金でローカル線の赤字を補填しているも同然なのだ。

 今こそ、公共インフラのグランドデザインを描きつつ、「想定外」でなくなった災害の減災対策にも着手すべきである。


※本記事はダイヤモンド・オンラインからの転載です。転載元はこちら

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