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次期サッカー日本代表監督、やはり日本人が適任といえる理由

2018年07月14日 06時00分更新

文● 藤江直人(ダイヤモンド・オンライン

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森保一氏
次期日本代表監督候補にも挙げられている森保一氏 写真:アフロスポーツ

下馬評を覆してのワールドカップ・ロシア大会のグループリーグ突破と、強豪ベルギー代表と繰り広げた記憶と記録に残る死闘を置き土産に今月末で退任する、日本代表の西野朗監督(63)の後任をめぐる報道がかまびすしさを増している。一時は就任が決定的と報じられた前ドイツ代表監督のユルゲン・クリンスマン氏(53)の可能性が立ち消えとなり、今現在では西野ジャパンでコーチを務めた、2年後の東京五輪に臨む男子代表を率いる森保一監督(49)が最有力候補に浮上している。ロシアの地で手にした可能性を4年後のカタール大会へ紡いでいく上でベストの人選を、今大会で顕著になった「監督に求められる新たな力」をもとに紐解いていく。(ノンフィクションライター 藤江直人)

外国人監督に率いられたチームは
W杯で優勝できないというジンクスも

 深夜の日本列島を熱狂の渦に巻き込み、寝不足状態に陥らせたワールドカップ・ロシア大会も、残すは日本時間14日深夜の3位決定戦と、同15日深夜の決勝戦の2試合を残すだけとなった。

 首都モスクワのルジニキ・スタジアムを舞台とする決勝戦へは、20年ぶり2度目の優勝を狙うフランス代表と、5度目の出場にして初優勝を目指すクロアチア代表が名乗りを上げている。

 特に後者は決勝トーナメントに入ってからの3試合を、すべて延長戦の末に勝ち上がってきた。体力の限界を超越した部分で、文字通り気力を振り絞って戦う選手たちの姿は見ている側の胸を打つ。

 そのクロアチアと準々決勝で激突し、PK戦の末に敗れ去ったロシア代表もまた、サッカーファンの記憶に残る好チームだった。開幕前の6月7日に更新された最新のFIFAランキングは70位。出場32ヵ国中で最も低く、サッカーファンから「史上最弱の開催国」と心ない声も浴びせられた。

 しかし、いざ開幕すれば胸のすくような戦いぶりを披露。グループAをウルグアイ代表に次ぐ2位で突破すると、決勝トーナメント1回戦では2大会ぶりの優勝を目指していた強豪スペイン代表と延長戦にもつれ込む死闘を繰り広げ、PK戦の末に撃破して国民を狂喜乱舞させた。

 クロアチアとの準々決勝でも、延長戦で一度勝ち越されるも終了間際に追いつく驚異的な粘りを見せた。チームが文字通り一丸となり、プラスアルファの力を発揮してきたロシアの姿に強く感銘を受けたのだろう。海外サッカーへの造詣が非常に深いことで知られる、湘南ベルマーレを率いる曹貴裁(チョウ・キジェ)監督(49)はこんな言葉を残してくれた。

「監督に求められる力が変わってきた大会と言えばいいのかな。ボードに戦術を書き込むだけでも、選手たちの士気を上げるモチベーター役を担うだけでもない。チーム全体を納得させる力というか。そういうものがないと説明できない、と強く感じました」

 23人もの代表メンバーがいれば、さまざまな考え方がチーム内に存在するようになる。試合に出られる選手と、ベンチから声をからす選手との温度差も少なからず生じてくる。放置しておけば不協和音が飛び交いかねない状況で、すべてを超越した部分で組織をまとめ上げなければ、ワールドカップのような短期決戦を勝ち抜くことは難しい。

 例えば連覇を期待されながら、グループFの最下位でまさかの敗退を喫したドイツ代表。開幕前にトルコ系ドイツ人のメスト・エジル(アーセナル)、イルカイ・ギュンドアン(マンチェスター・シティ)の主力2人が、独裁的な政治手法で国際社会から孤立しつつあるトルコのレジェップ・タイイップ・エルドアン大統領を表敬訪問したことが、決して小さくはない波紋を生じさせた。

 特にギュンドアンがマンチェスター・シティのユニフォームに記した、「私の大統領へ」というメッセージには本人の思いを超える形で大きな批判が集中した。移民大国でもあるドイツが長く抱えてきた、国民の融合という大問題に、図らずも亀裂を生じさせてしまったからだ。

 2006年7月からドイツ代表の指揮を執る長期政権を樹立。前回ブラジル大会では、南米大陸で開催されたワールドカップで初めてヨーロッパ勢を優勝させた名将ヨアヒム・レーヴ監督をしても、23人全員を納得させて目の前の戦いに集中させる作業は困難を極めたことになる。

 翻ってロシアを率いたスタニスラフ・チェルチェソフ監督の熱すぎる一挙手一投足からは、曹監督が指摘した「納得させる力」がひしひしと伝わってきた。スキンヘッドに口ひげが印象的な54歳の指揮官は、現役時代はロシア代表の守護神として2度のワールドカップに出場している。

 代表でプレーした経験こそないものの、クロアチアのズラトコ・ダリッチ監督の国籍もクロアチアだ。実はクロアチアは22人で今大会を戦っている。ナイジェリア代表とのグループリーグ初戦で、背中の痛みを理由に途中出場を拒否したFW二コラ・カリニッチ(ACミラン)を、問答無用で代表チームから追放していたからだ。

 カリニッチは大会前のテストマッチから、サブ的な立場に不満を示していた。個人的なエゴを捨てて戦えない選手は不要、とばかりに強制送還したダリッチ監督の厳格な姿勢が「納得させる力」へと変わり、選手たちをより一致団結させたことは容易に察することができる。

 ここで見逃せないのが、ロシアもクロアチアも指揮官と選手たちが同じ言語でコミュニケーションを取り、「納得させる力」が余すところなく発揮されている点だ。その一方で優勝候補の一角だった、スペイン人のロベルト・マルティネス監督に率いられるベルギー代表が準決勝でフランスに屈した瞬間に、実は誕生間近だった初めての快挙が幻に終わっている。

 過去20回のワールドカップ優勝国で、外国人監督に率いられたチームはない。厳格な性格とカリスマ性でフランスを束ねるディディエ・デシャン監督も、フランスが悲願の初優勝を果たした1998年の自国開催大会でキャプテンを務めたレジェンドだ。つまり、今回どちらが勝ったとしても、自国人の監督に率いられるチームが頂点に立つジンクスは継続されることになる。

西野監督が日本人だからこそ生まれた一体感
クリンスマン氏の後任報道には違和感も

 もちろん、日本代表に触れないわけにもいけない。ロシア大会の開幕まで2ヵ月あまりと迫った段階で、旧ユーゴスラビア出身のヴァイッド・ハリルホジッチ前監督を、選手たちとのコミュニケーションや信頼関係がやや薄らいできた、という理由で電撃的に解任。技術委員長としてハリルジャパンをサポートする立場にあった、西野朗氏を後任監督に据えた理由は明白だ。

 コーチングスタッフを含めた全員を、いわゆるオールジャパンにすることでチーム内の風通しをよくする。通訳を介してワンクッションを置くことなく、日本語で意思疎通を図れるメリットを、DF槙野智章(浦和レッズ)は大会前の時点でこう語っていた。

「西野監督もそうですし、手倉森(誠)コーチに加えて森保(一)コーチも入ったことで、非常に密なフィードバックが選手たちに対してある。そこが大きな違いのひとつですし、あとは練習の中でディスカッションする時間が増えていますよね。ハリルさんの時は、練習中にみんなが話すと『やめろ』と制限されましたから。そうしたストレスがないという意味で、ディスカッションする時間があるのも非常に大きな変化だと思います」

 グループリーグ初戦で難敵コロンビア代表を撃破し、第2戦では2度のビハインドを追いついてセネガル代表と勝ち点1を分け合った。迎えたポーランド代表との最終戦は、1点をリードされた後半37分すぎから、アディショナルタイムを含めた約10分間でリスクを冒さないボール回しを徹底させた。

 同時間帯で行われていた一戦でコロンビアがセネガルをリードした、という一報を受けた西野監督があえて黒星を受け入れる戦い方を指示。起用する予定のなかったキャプテンのMF長谷部誠(アイントラハト・フランクフルト)を緊急投入してまで、無難なパスを回したままで試合を終わらせた。

 結果として日本とセネガルは勝ち点、得失点差、総得点、直接対決の結果のすべてで並び、今大会から導入されたフェアプレー・ポイントの差で日本が2位を死守した。もしセネガルが追いついていたらすべてが暗転していたし、可能性を放棄した戦いぶりに対して向けられていた批判は、想像できないほどのバッシングの嵐に代わっていたはずだ。

 それでも西野監督は覚悟を決めて、結果に対する責任を一身に背負い、試合後に「本意ではない」と偽らざる本音を漏らした戦い方を貫いた。2大会ぶり3度目のグループリーグ突破から一夜明けると、もどかしさを抱かせながら戦わせたことを選手たちに詫びた。

 こうしたやり取りが、雨降って地固まるとなったのか。頭を下げる指揮官の姿が「納得させる力」へと変わり、日本に新たな力を宿らせたと言っていい。試合終了間際に食らった失点で逆転負けを喫したものの、強豪ベルギーをぎりぎりまで追い詰め、世界中から称賛された決勝トーナメント1回戦の戦いぶりは、スタッフを含めたチーム全体に力強く脈打った一体感を抜きには語れない。

 だからこそ、日本サッカー協会との契約が満了する今月末で退任する西野監督の後任として、前ドイツ代表監督のユルゲン・クリンスマン氏の名前が大々的に報じられた時には違和感を禁じ得なかった。ロシアの地で繰り広げられた戦いを介して得た成功体験が、まったく反映されていないからだ。

 クリンスマン氏は現役時代に、ドイツ代表のエースストライカーとしてワールドカップ3大会で計11ゴールをあげた。確かにネームバリューはあるが、日本の文化や風習を理解するのに時間を要するはずだし、そもそも監督としての力量にも疑問符がつく。ドイツをワールドカップで3位に導いた2006年の自国開催大会は、戦術担当を務めた現監督のレーヴコーチの手腕に負う部分が大きかった。

 何よりも緊急事態の末にオールジャパンとした西野ジャパンが演じた戦いの是非を、検証した跡がないように感じさせた唐突ぶりに疑問を抱かずにはいられなかった。ワールドカップで破られないジンクスに則り、日本代表も自国の監督のもとで勝負をかける段階に到達したのか否かを、まずは技術委員会内で徹底的に議論しなければならない。

 それなのに、いつしかクリンスマン氏との交渉が破談になったと報じられ、今現在は2年後の東京五輪に臨む男子代表チームを率いる森保一監督の兼任プランがスポーツ紙上をにぎわせている。西野ジャパンへ急きょ入閣し、コーチを務めた意味でも確かに継続性は保たれる。

森保監督にも宿る「納得させる力」
次期監督の人選を議論する委員会は20日に

 西野監督も自身の就任会見で、森保コーチ、そしてハリルジャパン時代に続いて手倉森誠コーチ(リオデジャネイロ五輪監督)を入閣させた意図をこう語っていた。

「将来的なところでも、手倉森、森保はこれからの世代を当然、引っ張っていってもらわなければいけない指導者であり、たくさんの経験を積ませたいと考えています」

 森保氏はサンフレッチェ広島の監督として、2012、2013、2015シーズンとJ1を3度制した実績もある。人前では絶対に他人を批判しない、という誠実な人柄も周囲から揺るぎない信頼を寄せられる。同時に一度決めたら梃子でも動かない、文字通りの頑固さも持ち合わせている。

 3度目のJ1制覇を勝ち取った2015シーズン。明治安田生命Jリーグチャンピオンシップ決勝を戦ったガンバ大阪の長谷川健太監督(現FC東京監督)は、当時の絶対的なエース、FW佐藤寿人(現名古屋グランパス)を決まったように後半15分前後でベンチへ下げ、スピードのあるFW浅野拓磨(現ハノーファー)を投入する森保監督の采配に脱帽の表情を浮かべたことがあった。

「寿人をあの時間帯に判で押したように代え続けるのは、なかなか私にはできない。寿人との信頼関係もあると思いますが、1年を通して愚直にやり続けるあたりは、戦い方を変えないメンタルの強さと、それを貫くことでチーム力を上げていく作業ができる意味でも、普通の監督ではないと思います」

 実は佐藤とは2014年の夏に衝突している。ある試合のハーフタイムに交代を命じられた佐藤が「何で自分なんですか!」と感情を露にしたことで、直後の2試合でベンチから外した。お互いにチームの勝利を考えての行動ということで手打ちとなったが、身を粉にしてチームのために戦う自己犠牲の精神を、妥協することなく求める森保氏の哲学を象徴するエピソードと言っていい。

 これまでに見せてきた一連の立ち居振る舞いからも、森保氏が「納得させる力」を宿していることをうかがわせる。ただ、五輪代表監督との兼任には大きな障害がたちはだかる。昨秋に五輪代表監督に就任した森保氏は、1997年1月1日以降に生まれた東京五輪世代を幅広い視点でチェックしながら、可能性のある選手たちをじっくりと見極めてきた。

 自国開催の五輪ということで、日本はアジア予選を戦う必要はない。ただ、真剣勝負を経験できず、現在地を確かめる機会がないチーム作りに、森保氏は「非常に難しい」と周囲に漏らしている。今後もJ1が中断する国際Aマッチデーを利用して、海外遠征などを行う強化プランを描いていた。

 しかし、A代表の監督を兼任すれば状況は180度変わる。A代表の活動は実質的に国際Aマッチデーに限定され、これまでの経緯を踏まえれば、来年中には次回カタール大会出場をかけたアジア予選がスタートする。2つの代表チームの指導を両立させることは、物理的にほぼ不可能となる。

 過去にはフィリップ・トルシエ氏がA代表、五輪代表、U-20代表の監督を兼任した。準優勝したワールドユース選手権(現FIFA・U-20ワールドカップ)の主力をシドニー五輪代表へ、さらに初めてベスト16に進出した2002年のワールドカップ日韓共催大会代表へ引き上げてきた軌跡は、開催国として日本がワールドカップ・アジア予選を免除されていた点を抜きには語れない。

 実際、トルシエ監督に率いられたA代表は、1999年を4分け3敗と未勝利で終えている。2000年の前半も格下のシンガポール、ブルネイ、マカオ各代表に勝利しただけだった。シドニー五輪を終えるまで、トルシエ氏がある意味でA代表の結果に目をつぶっていた軌跡がうかがえる。

 しかし、前述した理由から、同じ強化プランを森保氏がトレースすることはまずできない。責任感の強い森保氏の性格を踏まえれば、半年あまりとはいえ、一度は船出させた五輪代表監督から降り、A代表監督に専念することも考えにくい。こうした難題をどのようにクリアしていくのか。

「十分に大きな成果を挙げてきたわけではないし、半分は申し訳ないと思いながらも、1ページか、あるいは半ページは次につながるものを示せたチームを指揮したという気持ちもある。これまでは8年周期でベスト16へチャレンジしてきたが、この周期ではダメです。次のカタール大会では間違いなくベスト16の壁を突破できる段階にある状態につなげた、という成果だけは感じたいと思う」

 退任する西野監督がこんな言葉を残したように、紆余曲折した末にロシアの地で手にした可能性を、4年後のカタール大会を含めた未来へ紡いでいく意味でも、次期日本代表監督の人選を議論する技術委員会は極めて重要なウエートを占める。その技術委員会は、来週20日に都内で開催される予定だ。


※本記事はダイヤモンド・オンラインからの転載です。転載元はこちら

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