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IR法案成立の舞台裏、立候補地以外の「隠れた有力候補地」の存在

2018年07月05日 06時00分更新

文● 清談社(ダイヤモンド・オンライン

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6月19日、カジノを含む「統合型リゾート(IR)実施法案」が衆議院の本会議で、与党や日本維新の会などの賛成多数で可決され、参院へと送付された。カジノに対する批判や懸念がいまだ根強いなか、なぜ政府・与党は法案成立を急ぐのか。その背景や、候補地争いの最新の動向について、政治ジャーナリストの鈴木哲夫氏に聞いた。(取材・文/清談社)

法案の唯一の目的は「カジノ」
拙速に通過させる法案の問題点

カジノを含む「統合型リゾート(IR)法案」の舞台裏とは?
今国会中には何としても法案を通過させたい一方、創価学会や公明党の思いにも最大限の配慮を――。IR実施法案の舞台裏には、さまざまな思惑がある

「統合型リゾート」と聞けば、いかにもイメージの良い高級リゾートが整備されるかのような想像がはたらく。しかし、この法案の目的は「日本で『カジノ』を合法化する」以外の何者でもない。

 政府・与党は、増加する外国人観光客をターゲットにしたカジノ建設を数年前から熱心に推進し、参入を狙う業者や誘致したい自治体も積極的に動いていた。

 だが、カジノはもちろんギャンブル。依存症への懸念もあり、野党や国民世論からの反対も強く、過去には何度も法案自体が頓挫しかけていた。実は、こうしたカジノへの批判をかわすためにできたのが「統合型リゾート(IR)実施法案」だという。

「批判を和らげるために、カジノ設置という直接的な表現を避け、指定した地域一帯をリゾート地域として整備し、そこにカジノも含まれる形の法案に変えたのです。ある野党の幹部は、このやり方を『反対や心配の声をかわすための文言のごまかし』と解説しています」(鈴木氏、以下同)

 今回の法案では、カジノや国際会議場、ホテルなどを一体化した「統合型リゾート」の設置が、全国で3ヵ所まで認められる。また、ギャンブル依存症への対策として、日本人と国内居住の外国人が利用する際には入場料6000円を徴収し、「週3回かつ28日間で10回」という入場制限も設定された。注目のカジノの運営については、新設される行政機関「カジノ管理委員会」が事業者を選定し、管理することになっている。

「10万円や20万円ならともかく、ギャンブル好きにとって6000円の入場料が果たして抑制になるのかどうか。『週3回、28日間で10回』という入場規制も同じです。新設される『カジノ管理委員会』も、どこまでの権限を持つか不透明。議論すべき問題点はまだまだあります」

 さらに、法案成立後に政府の裁量で決まる項目が331項目と、非常に多い点も問題視されている。

「前出の野党幹部も『ときの政府が好き勝手に中身を決められることになり、抜け道がたくさんあって危険な法案だ』と懸念していました」

IR法案通過の背後で
見え隠れする公明党の思惑

 では、政府・与党は、問題だらけのIR法案の成立をなぜ今国会で急ぐのか。

「政府や事業者は、海外からの観光客が増える2020年の東京五輪に間に合わせたかった。また2025年の万博誘致とカジノの誘致をセットで実現したい松井一郎大阪府知事も、早く法律を成立させて、関係が良好な安倍政権が存続している間に、大阪へのカジノ誘致を決定的なものにしたいところでしょう。東京五輪には間に合わないでしょうが、推進派の自民党議員は『五輪で押し寄せた海外の人にカジノを具体的に宣伝することができる』と話していて、とにかく今国会をリミットにして早く成立させたいということのようです」

 これらの事情に加えて、連立与党である公明党の事情もあった。実はカジノについては公明党の支持団体である創価学会の婦人部の一部などにも慎重な意見があるほか、公明党内部でも賛否があった。

「学会員は人権や平和、福祉などに関わる政策には敏感。2015年の安保法制や、先日の財務省のセクハラ問題でも厳しい反応を示しました。カジノも同様で、IR法案には慎重な意見もありますし、党内にも執行部も含めて賛否があるというのが実情です」

 IR法案を巡って、公明党の党内や支援者にわだかまりがあっては困る。というのも来年には、統一地方選と参院選を控えている。もし継続審議となり、法案成立が選挙に近い時期になれば、党全体の選挙態勢などガバナンスに影響が出てくる恐れがある。そんな懸念から、公明党もIR法案成立を急ぎたかったようだ。

 それならば衆参で強行採決をし、さっさと法案を成立させれば良いようにも思える。だが、実際には与党は衆院通過後、国会を7月22日まで延長させ、参議院での審議に備える時間を作っている。実はこの延長にも公明党の事情があるという。

「IR法案を所管するのは国交省ですから、当然、公明党の石井啓一国土交通相が担当。そのため、強行採決などの強引な国会運営を進めると、石井大臣の責任問題となり、これまた公明党のマイナスになる。だからこそ、本音では一刻も早く通したいのに野党の議論も聞き入れて慎重に進めたい。会期延長の背景にはそんな事情があると見ていい」

手を挙げている候補地の勝算は?
隠れた「有力候補地」もウワサに

 さらに気になるのは、実際にIRができる候補地。現在は、北海道の釧路市、苫小牧市、留寿都村、愛知県常滑市、大阪府夢洲、和歌山市の和歌山マリーナシティ、長崎県佐世保市のハウステンボスなどが手を挙げている。だが、現在手を挙げていないところ以外でも有力候補地があるという。

「ある自民党ベテラン議員によれば、これらの候補地のほかにも、東京お台場、横浜市、沖縄などの名前が挙がっていると話しています。その議員の解説では、お台場と横浜はともに、湾岸部の開発と活性化の一環として、地元自治体や事業者などによる政治的な動きがこれまでずっとあったということです。首都圏なので集客も見込めますしね」

 では沖縄への誘致はどういう意味があるのだろう。

「基地問題や今年11月の県知事選挙などを見据えて、経済振興策の目玉として政府が沖縄を考えているのではないかというものです」

 この3ヵ所に対して、他の候補地はどのように考えているのか。

「大阪の松井知事は、安倍首相はもちろん、菅義偉官房長官とも付き合いが深いですから、そうしたルートを駆使して徹底的に働きかけているはず。ただ先日、大阪府が来年のG20サミットの開催地に決まりましたが、この件に関して他のライバル候補地の関係者からは『カジノが(大阪に)行かないことの代償ではないか』という皮肉と期待が混じった分析も出ています」

 もう1つ、注目すべき候補地として挙げられるのが佐世保市のハウステンボスだという。

「この地域への誘致の好材料としては、カジノには比較的慎重な公明党が、地域事情などもあって誘致に賛成していて、地域全体で受け入れ体制ができあがっている点です」

 どうやら、手を挙げている自治体など以外に、東京、横浜、沖縄も絡む展開になりそうだ。ついに動き始める日本初の官製カジノ構想。ほぼ法案が成立する見通しはたったが、候補地の選定を巡って、もう一波乱があるかもしれない。


※本記事はダイヤモンド・オンラインからの転載です。転載元はこちら

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