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「日銀マネー」による国債・株式市場の歪みが鮮明に

2018年07月04日 06時00分更新

文● 末澤豪謙(ダイヤモンド・オンライン

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Photo:PIXTA

 今年に入り、証券会社や一部の銀行などの業者間取引を仲介している日本相互証券(BB)での新発10年物国債の取引が成立しなかった日が既に5日に達した(7月3日現在)。今年の取引不成立日は、2017年の2日、2016年の1日、2015年1日、2014年1日、2013年0日と比較すると、突出して多い。

 不成立になった5回のうち、4回は5月以降に発生している。

新発国債の「取引不成立」増える
日銀購入で市中の国債減少

 取引不成立の背景には3つの要因があると考えられる。

 第1に、日銀による大量の国債購入を柱とした異次元緩和と呼ばれる量的質的金融緩和(QQE)政策の累積効果により、2018年3月末段階で、日本銀行は、国庫短期証券を除く利付国債残高の43.9%と、4割強を保有、民間金融機関などが保有する市中国債残高の減少が続いていることだ。

 TDBを含む国債全体では日銀の保有比率は41.8%(2018年3月末)となっている。

 金融正常化の出口戦略を進めている米国の場合は、米国準備制度理事会(FRB)が保有する米国債(TB含む)の保有比率は11.5%(2018年3月末)まで下がり、2019年には、10%を割り込むものとみられる。これに対し日銀の保有比率は2020年末には50%に達すると見込まれる。

◆図表1:日米の国債の保有状況

日米の国債の保有状況
出所:日銀、FRB資料よりSMBC日興証券作成 拡大画像表示

 第2に、2016年秋からの長短金利操作付き量的質的金融緩和(YCC)政策の影響で、10年物国債利回り(長期金利)は0.0%台での安定推移が続き、投機(スペキュレーション)的な売買やヘッジ売買のニーズが大幅に減り、裁定取引(アビトラージ)の機会も減少しているからだ。

 第3に、今年5月から、国債取引の決済期間がT+1(約定日の翌日に受け渡し)となり、新発10年債も翌日発行となった。特に6月債は、昨年の場合、6月1日入札で6月20日発行だったのが、今年は6月5日入札で6月6日発行となり、業者がポジションを抱える必要がなくなった。

 一方、投資家サイドでは、T+1対応が未済のケースもあり、新発債及び既発債ともに、売買高の減少要因となっているものと考えられる。

 取引不成立はあくまで業者間の話であり、その増加自体が、すぐに国債市場の流動性の大きな低下を意味しているとは言えないが、現状の市場環境が続けば、取引の大半は、日銀⇔業者、日銀⇔投資家、日銀→業者→投資家→業者→日銀となり、業者間の取引はどんどん縮小することも想定される。

 国債取引は大口であり、決済リスクを伴うため、長期的には業者間の取引限度額も減少、取引窓口が不明となる可能性も否定できない。

日銀の国債保有が4割に
円の信認に影響するリスク

 日銀の異次元緩和が継続し、日銀の国債保有シェアの上昇が続いている場合は、国債市場が不安定化するリスクは表面化しないかもしれないが、「いざ、出口戦略発動」という場合、業者間取引が枯渇しているようでは問題が生じないか懸念される。

 また国債保有の4割強を日銀が保有している状況では、国債の保有リスクは、中央銀行が最も抱えていることになり、大災害や戦争等、大きなリスク・イベントが発生した場合、円の信認にも影響を及ぼす可能性が否定できない。

 6月以降、千葉県や群馬県で地震の発生が続いていたが、6月18日には、大阪府北部で震度6弱(M6.1)の地震が発生した。大阪府内で、震度6弱の地震を観測したのは大正12年の観測開始以来、初めてだ。

 大阪北部を含む、阪神地域では1995年1月にも、最大震度7(M7.3)の兵庫県南部地震(阪神・淡路大震災)が発生、大きな被害を受けた。政府の地震調査委員会は2月、30年以内に南海トラフ地震(M8~M9クラス)が発生する可能性を75.3%に引き上げた。

 今回、震源域に特別な変化が発生した訳ではないにしても、大地震は正確な予測が困難であり、今後、大きなリスク・イベントが起きることはあり得る。

 金融政策や経済政策もテール・リスクにも目配りする必要があろう。少なくとも、コンティンジェンシー・プラン(緊急時対応計画)を作成し、大枠に関しては、金融市場等にも事前に周知しておくことも検討すべきではないか。

株式市場も「歪み」が増す
日銀のETF買い入れで

 日銀マネーが席巻しているのは、国債市場のみならず、株式市場も同様だ。

 東京証券取引所など全国4証券取引所が6月26日に発表した「2017年度株式分布状況調査」の結果によると、2017年度末(2018年3月末)の全投資部門の株式保有金額(調査対象会社3687社の時価総額)は、米国株式の高騰を受けて、前年度末に比べて85兆3547億円増(+14.7%)の666兆5591億円と、2年連続で増加した。

 主な投資部門の動向を見ると、前年度比で事業法人等がマイナス0.3ポイント、個人・その他がマイナス0.1ポイントの低下となる一方、信託銀行がプラス0.8ポイント、外国法人等が0.1ポイントの上昇になった。

◆図表2:投資部門別株式保有比率の変化 (市場価格ベース)

投資部門別株式保有比率の変化 (市場価格ベース)注:2004年度以降はジャスダック証取上場会社分を含む。上表の金融機関の1978年度以前は年金信託を含む
出所:東京証券取引所資料よりSMBC日興証券作成 拡大画像表示

 外国法人等の株式保有比率(市場価格ベース)は、前年度比0.1ポイント上昇の30.2%と2年連続で3割台を維持した。海外投資家の投資部門別売買状況を見ると、2017年度は6255億円の売り越しとなった。

 個人・その他の株式保有比率は、前年度比マイナス0.1ポイントの17.0%となり、過去最低を更新した。

 保有金額ベースでは、前年度比13兆7929億円プラスの113兆2597億円と、2006年以来11年ぶりに100兆円の大台を超えた。2017年度の個人の投資部門別売買状況は4兆0859億円の売り越しとなり、最大の売り主体となった。売り越しは2009年度以降9年連続だ。

 信託銀行の株式保有比率は前年度比プラス0.8ポイントの20.4%となり、4年連続の上昇となった。20%を超えたのは2002年度以来、15年ぶり。

 2017年度の信託銀行の投資部門別売買状況は9707億円の買い越しとなり、4年連続の買い越し。これは日本銀行によるETF買入増の影響と考えられる。

 金融機関全体では保有比率は0.2ポイント上昇し28.6%となった。

 事業法人等の保有比率はマイナス0.3ポイントの21.8%となった。2017年度の事業法人等の投資部門別売買状況は2兆2276億円の買い越しとなり、2004年度以来14年連続の買い越しとなった。

 自己株式の取得が継続して行われたことが背景で、2017年度の自己株式は24兆9932億円(前年度比+3兆7774億円)、保有比率は3.75%(+0.1ポイント)。

 一方、2017年度の株式増減動向(フロー、簿価ベース)を日本銀行が6月27日に発表した資金循環統計で見ると、最大の取得超は証券投資信託の6兆4595億円だ。

 年度の株式フロー全体(総額)が+4612億円の増加にとどまる中、家計(個人)の売却分(処分超2兆9804億円)等を一手に吸収する格好となった。

 投資信託の購入分のうち、約6.2兆円分は日銀によるETF買い入れ分であり、取得超の大半は日銀分だ。

 国債市場同様、株式市場においても、日銀オペの影響力が一段と大きくなっていると言えそうだ。

海外投資家の保有3割に
国外からのリスク強まる

 かつては合計で30%超を占めていた長銀・都銀・地銀と生保、損保の保有比率は、バブル崩壊、時価会計導入等を受けて低下、ピークの1988年度末の32.3%が2017年度末には7.6%と4分の1の水準に低下した。年金(私的年金)の比率も低下傾向が続いている。

 一方、海外投資家はバブル崩壊後、日本株投資を再開。特に2003年度から2006年度、及び2012年度から2014年度に日本株投資を積極化、2013年暦年の買い越し額は15兆1196億円に達した。

 保有比率も2013年度末には30.8%と30%の大台を突破した。過去最高は2014年度末の31.7%。

 海外投資家の保有比率が全体の3割程度に達している今日では、日本の株式相場や経済が海外から受ける影響は、2007年以降の国際的な金融危機時に限らず、今後とも極めて大きいと考えられる。

 バブル期の1988年度末と比較すると、投資部門別株式保有比率には大きな変化が見られる。

 1988年度末(1989年3月末)時点では、金融機関(除く投信・年金)と事業法人等で69%と全体の約7割を占めていたが、2017年度末(2018年3月末)時点では、42.1%と4割強の水準に低下している。

 なお、金融機関には退職給付信託分、有価証券管理信託分に加えて、日銀保有分(原物株等)、公的年金保有分等も含まれているため、実態は下記のグラフ以上の変化とみられる。

◆図表3:投資部門別株式保有比率の変化 1988年度末→2017年度末

投資部門別株式保有比率の変化 1988年度末→2017年度末
出所:東京証券取引所資料よりSMBC日興証券作成 拡大画像表示

 年金(私的年金)や投信の保有比率は、欧米と比べ依然として低位にとどまっているが、バブル崩壊後20余年の月日を経て、日本の株式市場に特有の「持ち合い構造」は相当程度、解消が進んだと言えそうだ。

 ただし、同様に日本の株式市場の特徴である個人の保有比率の少なさは、相変わらずで、比率は19.9%(1989年3月末)→17.0%(2018年3月末)と、過去最低水準に低下している。

 日本の上場株式の保有比率に関しては、バブル崩壊後、持ち合いの解消や会計基準の変更、金融規制の強化等により、金融機関や事業法人の保有割合は低下したが、持ち合い解消分は海外投資家がほぼ全て吸収することになっている。

 高齢化に向けて期待された年金信託(私的年金)も、代行返上や厚生年金基金の解散等の影響で近年は保有比率の低下が続いている。

 筆者は、東証株価指数(TOPIX)が2012年6月4日に695.51ポイントと28年半ぶりの安値水準に下落した背景には、持ち合い解消の受け皿を海外投資家に頼り過ぎ、国内で長期安定株主の創出を怠ってきたことがあると考えている。

 2012年末以降は海外投資家の投資再開で、日本株の株価も大幅上昇したが、海外投資家の日本株投資にはピークアウト感が拡がりつつある。金融機関は引き続き、持ち合いや取引先の株式購入といった政策投資株の縮減を進める方向だ。

 公的年金も一段のリスク資産の保有比率拡大は困難だろう。将来的には年金積立金の縮減、つまり運用資産の処分も予定されている。日銀によるETF購入も永遠に続く訳ではない。むしろ異次元緩和の出口局面では大きな株式売却圧力になりかねない。

高揚感が感じられない市場
公的マネーと海外投資家が席巻

 日経平均株価は2018年1月23日には2万4124円15銭と、1991年11月15日以来、約26年ぶりに2万4000円台を回復して引けた。米国市場主体に海外の株高が続く中、日本企業の好決算を受けて、海外投資家が買いに動いたことが背景だ。

 だが筆者には高度成長期はおろか、1980年代後半のバブル期のような市場の高揚感は感じられない。

 背景には、生産年齢人口も増加していたバブル期と違い、現在は少子高齢化に人口減といった構造変化もあるが、株式市場や国債市場が日銀等の公的マネーや海外投資家に席巻されていることも大きいのではないか。

 ちなみにバブル期の1990年3月末の海外投資家の日本株(上場株式)の保有比率は約4%、日銀はゼロだったが、2018年3月末では海外投資家は30.2%。日銀はETFを含めると約4%で現在も上昇中だ。

 戦後間もなくの時点では、株式保有比率約7割と、日本の株式会社の圧倒的な筆頭株主だった個人は、資本の自由化に対応した金融機関と事業法人の持ち合いの拡大、いわゆる「機関化現象」でその存在感が薄くなってきた。

 それでも、バブル期はなお、20%台半ばを占めていたが、2013年度末には2割を切り、2018年3月末には17.0%と過去最低となった。株価の堅調推移が続けば、今年度末も最低を更新する可能性が高そうだ。

少子高齢化が
個人株主減少の一因に

 安倍首相が先の総選挙の際、「国難」と称した少子高齢化問題だが、少子高齢化は、株式市場でも、個人の保有シェア低下の一因になっていると考えられる。

 高齢者の死亡により、相続が発生すると、不動産と違い、真っ先に処分されるのが、現預金、次いで株式だ。ただし現預金の場合は当面、銀行間等で資金移動が発生するだけのケースが多いが、株式の場合は、金額を確定するためや分割するために売却されるケースが少なくない。

 一方、生産年齢人口の減少で、現役世代の株式取得は減少傾向が続いている。NISAも高齢者の利用が多く、個人型DCも運用資産の3分の2近くは元本確保型商品で運用されており、株式の割合は少ない(2017年3月末)。

 特に、近年の株高はバブル期と違い、局所的な不動産バブル等を除き、賃金上昇などの購買力の拡大に結び付いていないため、株式を売却して、一旦、株式市場から撤退する個人もみられそうだ。

 海外及び公的マネー主導の株高は、結果的に、一部の富裕層を除き、一般個人の資産効果の拡大や消費性向の上昇には必ずしも繋がっていないと考えられる。

 日本株の個人保有の拡大には、抜本的な税制改正に加え、証券教育の拡充などの取り組みが業界にも求められていると言えそうだ。

 また、持続的な株価上昇のためには、金融緩和や財政出動とともに、中長期的な成長戦略が欠かせない。特に日本では、少子化対策と産業振興策が最大の懸案だろう。

 ただし日本株の買い手を海外投資家や日銀に大きく依存しているのは、リスクが大きいと言えるのではないか。

 国内でのリスク・マネー(シード・マネー、ペイシェント・マネー)の創出策に加え、何らかの外的要因で株価が急落した場合のセーフティネットの整備も中長期的な課題だろう。

 既に、今年2月5日には、NYダウが米長期金利の上昇等を受けて過去最大の下げ幅で急落。11月6日の米中間選挙に向けて、米株式市場や債券市場、為替市場で変動率が大きくなることになれば、国内株式相場への波及は避けられないだろう。

 国債市場、また、株式市場においても、「日銀頼み」はそろそろ、限界に近づきつつあると言えるのではないか。

(SMBC日興証券財政金融アナリスト 末澤豪謙)


※本記事はダイヤモンド・オンラインからの転載です。転載元はこちら

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