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大阪地震の影響、吉野家とすき家は明暗分け中小企業に廃業リスク

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もはや地震慣れ? 整然と帰路に就く日本人の姿に驚く外国人も多かった Photo:kyodonews、The Asahi Shimbun/gettyimages

6月18日に大阪府北部地域を襲った巨大地震。1年後のサミット開催を契機に「観光都市・大阪」をアピールする矢先だっただけに、観光産業への打撃が懸念されている。だが、潜むリスクはそれだけではなかった。(「週刊ダイヤモンド」編集部 大阪北部地震取材班)

 地震発生3日前の6月15日、関西国際空港にプライベートジェットの専用施設が華々しくオープンした。言うまでもなく、国賓級VIPや富裕層をもてなすための仕掛けである。

 大阪府・市は、来年6月に開催される主要20カ国・地域首脳会議(G20サミット)の誘致に成功した。G20各国や多くの国際機関が参加することから、日本が主催するサミットとしては史上最大規模となる。世界に向けて、「観光都市・大阪」をアピールする絶好の機会であるだけに、玄関口となる交通インフラ整備にも注力してきたところだった。

 そんな矢先に、激震が襲った。「絶好調の観光ビジネスが冷え込むことにならなければいいが……」。ある在阪ホテル関係者は懸念を口にする。実際に、大阪市内の有名ホテルでは、「発生翌日の19日までに、個人客の予約キャンセルが100件を超えた」という。

 初めて地震を経験した外国人観光客が戸惑う姿も見られた。「館内放送や避難ルートの誘導は、日本語・英語でしかマニュアルがなく、中国語や韓国語での対応が急務だと感じた」(ホテル関係者)。

 別のホテル関係者は、「今後、海外のお客さまの間に日本=地震=危険というイメージが広がり、あらぬ風評被害へ発展するのが心配」と打ち明ける。

 いまや、大阪を主とする関西経済をけん引しているのは、インバウンド(訪日外国人)に支えられた観光産業であり、観光客がカネを落とすサービス産業である。

 2017年の外国人延べ宿泊者数は、大阪府と京都府を合わせて1730万人を記録した。訪日外国人が多い「上位4カ国・地域」の宿泊先でも、大阪府の健闘は明らかだ。中国と台湾の2位、韓国と香港の1位に大阪府が入った。

大阪サミット会場となるインテックス大阪。インバウンドの腰折れが懸念。Photo:kyodonews/gettyimages

 その結果、宿泊施設の客室稼働率では、大阪府は83.1%と全国トップとなり、とりわけリゾートホテルやシティーホテルはほぼ満室の状況にある。

 大手企業による東京への本社移転が進むなど、大阪の地盤沈下が語られるようになって久しい。だが、こと観光産業では、東京を猛追する勢いだ。

 大阪人気の訳は、アジア諸国を結ぶ格安航空会社(LCC)の路線が充実していること、ショッピング目的の渡航が増えていることなどにある。サミット開催を契機に、“観光産業の東京超え”が見えてきたというのに、地震はその好調ぶりに冷や水を浴びせることになりそうだ。

揺らぐ新幹線の安全神話

 呪われた新幹線とも言うべきか──。外国人観光客を日本各地へ周遊させる役割を担う大動脈には、未曽有の試練が訪れている。

 昨年12月には、JR西日本が運行する「のぞみ」で台車亀裂トラブルが発覚。台車に破断寸前の亀裂が入ったまま走行し、「重大インシデント」に認定された。6月9日には、JR東海の運行区域内で3人が殺傷される凄惨な事件が発生した。その衝撃がまだ残る同月14日、またもやJR西日本が失態を犯した。人をはねて車両先頭のボンネットが破損したままで、新幹線が走り続けたのだ。

アクシデント続きの日本の大動脈「新幹線」。未曽有の試練が訪れている。Photo:kyodonews

 そして4日後の地震発生。東海道新幹線・山陽新幹線共にストップし、乗客は缶詰めになった。

 天変地異にあらがうことはできないが、緊急事態発生後の対応には課題が残った。自動放送に切り替わった後の車内アナウンスでは、前述したホテル同様に「中国語と韓国語のバージョンがなく、乗務員対応には力量の差が出てしまった」(JR社員)という。

 人災と天災。密室で起きるアクシデントの連続に、新幹線の安全神話が揺らいでいる。

吉野家とすき家の明暗

 大手牛丼チェーンの2強は明暗が分かれた。ゼンショーホールディングスの「すき家」は1店舗の閉店(店舗が入居するモール閉店に伴うもの)にとどまったが、吉野家ホールディングスの「吉野家」は41店舗を閉める事態に追い込まれたのだ。

 なぜか。実は、吉野家の牛丼に使われているご飯はガス炊きだ。

大阪ガスでは地震の揺れを感知したら自動でガスの供給を止めるシステムを取り入れており、吉野家はそのとばっちりを食らってしまったのだ。看板メニューを提供できない以上、店舗を開けることなどできない。

 すき家でも茨木市駅前店などガスが止まった店舗はあるが、メーンメニューを調理する設備が電気式のため難を逃れたという。

 幸いにも、今回の地震では津波が発生することはなく、原子力発電所は稼働し続けている。そのため、電力追い風、ガス向かい風の状況が鮮明になっている。

 関西電力の管内では、大阪府内で約17万軒の、兵庫県内で約490軒の停電が発生したものの、発生から約3時間で全面復旧した。

 一方の大阪ガスは旗色が悪い。大阪府内で約11万戸のガス供給を停止中で、全面復旧には1週間程度(25日がめど)かかりそうだ。最終的にガス漏れがないかをチェックする作業は人海戦術以外に手段がなく、約4400人態勢で安全確認作業を行っているためだ。

 関西電力と大阪ガスは、電力ガス小売り自由化の幕開けで、激しく火花を散らしているところ。福井県の大飯原発3、4号機の再稼働をテコにして、関西電力は7月に電力料金を平均5・36%値下げする。ある電力関係者は、「関西電力が『ガスよりも電気の方が安定的です』とオール電化を売り込むのは間違いない。大阪ガスにとってタイミングが悪かった」との見方を示す。価格攻勢にイメージ戦略。関西電力が猛攻の手を緩めることはなさそうだ。

パンク寸前の物流網

 くしくも、地震発生の翌日の19日は、中古品の個人間売買サービスのメルカリが東証マザーズへの上場を果たした日だった。

 終値ベースでの時価総額はなんと7172億円。ネット通販市場への期待値の高さが表れた結果だといえるが、そのメルカリの成長を支える宅配会社の現場は大混乱に陥っていた。

 「マンションのエレベーターが動かない」。大阪府内の営業所に勤務するヤマト運輸のドライバーは頭を抱えていた。

 ヤマトの集配拠点には荷物は届いており、本社からは「有事ではあっても、原則、お届けするように」との指示が出ていた。

 しかし、いざ配達に向かったものの、「道路は混雑し、高層マンションのエレベーターは停止し、おまけに家人は帰宅難民だったりして、とても届ける状況になかった」(同)と振り返る。通常は2~3割にとどまる再配達率が、この日はそれどころではなかった。

 人手不足と荷物激増により、ただでさえ逼迫する宅配現場。震災は日本の物流網をパンクさせるには十分な威力を持っている。

 株式市場は正直な反応を示している。「倉庫・物流」「ガス・電力」「鉄道」など、大阪北部地震の影響を直接受けた企業の株価は、軒並み下落した。

じわり高まる廃業リスク

 大阪府は、パナソニックのお膝元であり、シャープの液晶堺工場の所在地でもある。大手製造業が操業停止に追い込まれたことから、「関西に製造拠点を持つメーカー」の株価もそろって値を下げた。

 もっとも、過去の震災時に比べれば、製造業への影響は軽微だといえるだろう。

 東日本大震災の直後には、“ルネサスショック”に見舞われた。ルネサスエレクトロニクスの那珂工場が被災し、自動車メーカーが枯渇する汎用半導体を取り合ったことからパニックに陥ったのだ。それに対して、今回は日本の製造業全体へ波及するようなサプライチェーン(部品供給網)の寸断は見られない。

 SMBC日興証券の試算によれば、今回の大阪北部地震が日本経済に与える経済損失は1835億円に上るという。主として、観光客の減少や一時的な生産停止による損失が加味されている。

 東日本大震災の被害総額は約16.9兆円、熊本地震のそれは最大約4.6兆円とされている。金額の規模だけを見れば、大阪北部地震の国内経済へのインパクトは小さいようにも見える。

 だが、ある金融機関幹部は「自動車・電機業界は裾野が広くサプライチェーンの影響が遅れてやって来る場合もある。特に中小企業の財務状況を注視している」とくぎを刺す。

 実際に、この発言を裏付けるようなデータもある。中小企業の廃業リスクが懸念されているのだ。

 東京商工リサーチの調べでは、「震度6弱」の地震を観測した被災地域に本社を構える企業3万8322社のうち、資本金1億円未満の企業の構成比は98.5%、売上高10億円未満の企業の構成比が83.7%に達することが分かった。本社所在地の範囲を大阪府へ広げると、それらの数字はさらに高まる。要するに、中小零細企業が集積しているということだ。

 財務余力の乏しいこれらの企業が被災した場合、「設備修復や売り上げ減少などで資金繰りが難しくなりやすい」(東京商工リサーチ)。

 設備損壊などの壊滅的な打撃を受けないまでも、もともと事業承継の悩みを抱えていた零細企業にとって、被災は一大事。負の影響がボディーブローのように効いてきて、廃業に追い込まれるケースだってあり得るのだ。


※本記事はダイヤモンド・オンラインからの転載です。転載元はこちら

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