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エネルギー業界の常識とは一線を画したブランド戦略で、攻勢を強めようとしている東急パワーサプライ Photo by Ryo Horiuchi |
首都圏進出の足掛かりとなる第1号“成約案件”は、エネルギー業界に大きなインパクトを与えた。
首都圏の“光熱費争奪戦”に殴り込みをかけた中部電力と大阪ガスの合弁会社、CDエナジーダイレクトが、最初の業務提携先として選んだのは、東急グループの新電力会社、東急パワーサプライ(PS)だった。CDエナジーは調達する都市ガスを東急PSに卸すことになる。
実はこの東急PS、家庭向けの電力販売量は新電力業界9位(今年2月時点)だが、エネルギー業界の“ダークホース”で、決して侮れない存在だ。
東急PSが地盤とする東急沿線を中心としたエリアには約240万世帯があり、月に2万円近い光熱費を支払うプチ富裕層が多いとされる。利幅が薄い電力・ガスの家庭小売り分野でも大きな利益が期待できる、首都圏の“おいしい”市場といわれているのだ。
ある電力会社関係者は東急PSとCDエナジーの提携について、「非常に良い組み合わせだ。してやられたという感じ」と舌を巻いた。「東急PSは非常にしたたか。ウィンウィンの関係をつくるのが上手」と評す。
それは、電力・ガスの小売りに関する業務提携の相手を見れば、明らかだ。
電気は東北電力から、ガスは前述の通りCDエナジーから調達する。いずれも首都圏進出への足掛かりを求めていたプレーヤーを取り込むことに成功しているのだ。
東急PSの村井健二社長は「電気もガスも東急グループが提供するサービスの一つにすぎない。大手エネルギー事業者と競争しているつもりはない」と謙遜するも、非常にしたたかな戦略を講じているといえる。
業界の常識と一線を画す
電気もガスも商品力での差別化はできないため、エネルギー事業者各社は「低価格」と省エネや保安などの「サービス」で差別化を図っている。
そんな中、東急PSは、「東急でんき&ガス」というブランドを前面に打ち出し、エネルギー業界の常識とは一線を画す独自路線を走る。村井社長は「東急ブランドには根強いファンが多い」とブランドの威力を信じて疑わない。
確かに東急PSは2016年4月に始まった電力小売り完全自由化以降、的を東急沿線に絞り、東急ブランドを生かした戦略が奏功。約15万件の電力の顧客を獲得し、業界の中で勝ち組と呼ばれている。
東急PSは都市ガスという新たな武器を携え、東京電力ホールディングスや東京ガスより安い電気とガスをセットで売り込み、計60万件の顧客獲得を目指す。
肥沃な東急沿線市場で存在感を示すダークホースが、東電、東ガスを徐々に脅かす存在になるかもしれない。
(「週刊ダイヤモンド」編集部 堀内 亮)
※本記事はダイヤモンド・オンラインからの転載です。転載元はこちら
