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国の「先進美術館」構想に批判噴出、収蔵美術品の流出加速?

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仏ルーブル美術館
仏ルーブル美術館。日本にはこのような世界的な観光の目玉となる美術館はほとんどない Photo:pigprox/PIXTA

「美術館をマーケットに従属させるつもりか!」「文化より経済優先は発展途上国のすることだ!」──。

 かねて政府は国の成長戦略の一環として美術市場の活性化を掲げており、文化庁が4月半ばに構想を公開した。そこに盛り込まれた「先進美術館(リーディング・ミュージアム)」創設について、美術関係者から批判が噴出している。

 新制度で先進美術館に指定された美術館や博物館は、国からの補助を受け、学芸員を増やすなどといった体制強化ができるという。日本はGDP(国内総生産)や富裕層数と比較して美術市場の規模が小さいため、成長余地があるとして打ち出す活性化策なのだが、現状は多くの美術館が学芸員と資金不足にあえいでいる。

 そうした美術館にとって、この制度は渡りに船のようにも見える。だが、「残すべき収蔵品を判断し、それ以外は売却せよ」というふうにも映るとして、物議を醸しているのだ。

 法律上、美術館は「社会教育施設」。収蔵品は公共の財産で、美術館はその価値を一般に伝えることが存在意義とされている。

 その公共の財産を国の経済政策のために利用するとは何事か、というのが反対派の主たる意見だ。

空調費だけで月数百万円

 美術館は、その発祥の地である西欧では「市民革命の象徴として、王侯貴族に独占されてきた美術品を、公共の財産とする目的で造られた」(美術史が専門の大学教授)。市民たちが心から欲し、その手で勝ち取った歴史があり、市民の美術館への思い入れは強い。ある意味、美術館はその存在自体に価値があると見なされている。

 一方、日本の美術館は、明治時代、欧米化の一環でトップダウン的に導入されたにすぎず、一般的にその存在意義はあいまいだ。

 美術館の運営はとにかく金が掛かる。収蔵品の維持管理のため、館内は温度や湿度を常に一定に保つ必要があり、「1カ月の空調費は数百万円」(ある県立美術館学芸員)に上る。

 どんなに努力しても、美術館単独で収支を黒字にすることは不可能に近く、そのため公立の美術館の運営には税金の投入が必要になる。赤字でも、存在自体が街づくりに寄与するなり、観光資源の役割を果たしているなど、存在意義を住民も十分認識しているのなら、何ら問題はない。

 しかし、多くの美術館が、有名コレクションやサブカルチャーの巡回展のときだけ客が殺到し、その他の時期は閑古鳥が鳴いている日本において、美術館が「公共の財産」「文化の殿堂」と認識されているとは言い難い。

 文化政策として税金が投入される以上、先進美術館構想は美術関係者だけで議論するべきものではない。一般市民が美術館の在り方を考える機会にすべきだろう。

(「週刊ダイヤモンド」委嘱記者 野村聖子)


※本記事はダイヤモンド・オンラインからの転載です。転載元はこちら

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