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「老後の達人」に聞く、心臓病・早期退職・震災を乗り越えられた秘訣

文● ジャイアント佐藤(ダイヤモンド・オンライン

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人生100年時代が現実味を帯びている現代、お金や健康、生きがいなどに不安を抱く人は数多い。どうすれば生き生きと楽しい老後を送れるのか。その道の先達に秘訣を聞いてみた。

心疾患で早期退職を決意した
ビジネスマンの第二の人生

早期退職後に立ち上げた「やまうち農園」は大成功を収めた
「やまうち農園」の山内啓二さん、裕美さん夫妻。ストレスで心疾患を発症して早期退職――そこから再び人生を取り戻した姿は見事だ

 もしあなたが20代、30代で健康な方なら、老後についてほとんど考えることはないかもしれない。しかし、もしあなたが40代、50代と年を重ね老人として生きるリアリティが増してきた場合、大いに関心があるのではないだろうか?

 昨今は「人生100年」という言葉さえある。実際、今年3月には、国の取り組みとして、首相官邸にて「第6回人生100年時代構想会議」というものが開催されている。厚生労働省の発表による2016年の日本人の平均寿命は男性80.98歳、女性87.14歳だ。そして、平均寿命の推移を見ると右肩上がりで伸びている。

 これは「老人として生きる期間が伸びている」ことを意味する。そうなると老後を制することが人生の楽しさを制することになってくるかもしれない。では老後を楽しむ秘訣は何だろうか。

 今回お話を聞かせていただいたのは、宮城県山元町でいちじくを主に栽培する「やまうち農園」を営む山内啓二さん(64)。大手自動車メーカーで36年間、営業職として勤務をしていた。当時はバリバリ働くビジネスマンで支店長、部長と出世街道を駆け上がってきた。しかし、55歳で突然心臓を患い、手術後に早期退職を決心した。では、そこからどうやって人生を取り戻し、60代の現在を楽しんでいるのだろうか?

「ストレスが体を蝕んでいったのだと思います。長く働いて来ましたが、会社の経営陣が大きく変わったことがきっかけで、経営方針もガラリと変わってしまったのです。お客様の葬式に行くことも禁止されましたから。私はお客様とのつながりを大事にしていたので、辛かったですね」と山内さんは振り返る。

 心臓を患ったのはストレスが原因であったため、退職をしたらすぐに体調はよくなった。しかし1年ほどの間は、「次はどうやって生きていこうか」ということを妻・裕美さんと一緒に考える時間に充てたという。再就職してもまたストレスだらけでは意味がない。「趣味の延長のようにストレスなく楽しみながら仕事をしたい」というのが、山内さんには譲れない条件だった。

東日本大震災を乗り越えて
いちじく農園を立ち上げた

 会社員時代から自宅に畑を持ち、小さく農業をやっていた山内さん夫婦は、ジャングルのようになった土地を綺麗にしたいという気持ちもあり、「何とか農業を生業にできないか」と考えていた。

 そんな時、山内さんは感動するほど美味しいいちじくと出合ったという。宮城県ではいちじくの実は加工用に使われることがほとんどで、実が熟す前に収穫されてしまう。ある時、山内さんはニュージーランド産の完熟いちじくが孫娘と同じ「リサ」という名前で売られていたので食べてみたところ、「これだ!」と思ったという。

やまうち農園のいちじくの木
いちじくの木。木が倒れないようにロープでしっかりと固定する。いちじく栽培は隣に住む娘さん夫婦も手伝ってくれるという

 山内さんは早速、いちじくの苗木や農業に必要な重機などを方々から集めてきた。元々営業職としてバリバリ働いていた山内さんは、人に臆することなく自分をアピールして味方を増やしていくことは大得意だ。宮城県などの行政も味方につけて、どんどんいちじく栽培の準備は整っていった。

 しかし、またもそこで山内さんを災難が襲う。2011年3月11日――東日本大震災だ。山内さん夫婦が住む山元町でも2000棟以上の家屋が倒壊し、600人以上の死者が出た。裕美さんは偶然山側の道から帰宅したため無事だったが、よく通る海側の道から帰宅していたら、津波に呑み込まれていただろうという。

やまうち農園の完熟いちじくの加工品
完熟いちじくの加工品。グラッセやジュレの他にもドライタイプのものやお茶まである

 数ヵ月は何もできなかった。しかし山内さんは、いちじく栽培を決してあきらめなかった。「とにかく負けたくない!それだけでした。いちじく栽培の計画は、震災で亡くなった親戚たちにも話したりしていました。その震災で命を落とした親戚たちのためにも、絶対に負けたくなかった」(山内さん)。

 山内さんは「復興のさきがけ」として、いちじく栽培を開始した。無農薬で完熟のいちじくにこだわり、堆肥を入れる、牡蠣殻を入れるなど、思いつくアイデアは何でも試したという。宮城県も山元町も協力してくれた。また、加工工場の開設には、地元商工会からの支援も受けた。

 今では「やまうち農園」の完熟いちじくは、予約をしないと買えないほどの人気だ。宮城県内はもちろん、首都圏の飲食店からの引き合いもあるという。種類も以前は加工用、生食用合わせて18種類だったのだが20種類に増えた。今後は直売所もできる予定だ。

立派なことじゃなくていい
自分が本当にやりたいことは何か

 しかし山内さんは、あと2、3年したら、この農園は娘夫婦に譲ろうかと考えている。実は木工も大好きで、会社員時代からテーブルを作ったりしていた。また好きなことに挑戦したくなってきたのだ。

 今の40代、50代の人にアドバイスできることは?と聞くと、「ストレスは最も心身に悪い。とにかく好きなことをやるのが一番です」との答えが返ってきた。

 老後に備える、老後を豊かにする、楽しむといった情報を発信するWEBサイト「#老後を変える:メットライフ生命」の編集長・中村祐介さんは、山内さんについてこう分析する。

「#老後を変える:メットライフ生命」のトップ画面。「備える」「豊かになる」「楽しむ」などの項目別に、老後の参考になりそうな情報が掲載されている

「山内さんは、会社員時代に培った営業というスキルを、第2の人生でもうまく活用しています。同じ職種や業種でなくても、これまで培ってきたスキルが役立つ好例でしょう。また、現状に満足せず、将来やりたいことも思い描くことで“生きがい”を生み出しています。人生は一度しかありませんから、今、そして未来を常に楽しみ続けようとする山内さんの考え方や取り組みには、人生100年時代を生きるヒントが詰まっていますね」

 40代、50代の頃の趣味や、子どもの頃やりたかったことなどを、今一度見つめ直してもよいのかもしれない。一体自分が好きなものは何なのか。立派なものじゃなくていい。本当に好きなものは何か。

 そして、今の自分の仕事での得意分野は何だろうか。どんな分野でもよい。仕事として成り立っていなくても、「思いやりが強い」など、性格上の特長でもよいだろう。これらの組み合わせが意外なことであっても、老後の自分の人生を楽しくするものになる可能性が高いのだ。

(ジャイアント佐藤/5時から作家塾(R))


※本記事はダイヤモンド・オンラインからの転載です。転載元はこちら

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