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月ならではのスポーツを探る「月面スポーツ VRハッカソン」レポート

2018年05月28日 19時00分更新

文● Mogura VR

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 5月19日、20日の2日間、東京・赤坂にある「TechShop Tokyo」にて、ハッカソンイベント「月面スポーツ VRハッカソン」が開催された。本イベントはグリーと宇宙航空研究開発機構(JAXA)、テックショップジャパンによる開催。参加者はJAXAが保有する月のデータを活用し、「月面を舞台にしたスポーツ」をテーマにVRコンテンツの開発を実施した。

 イベントの冒頭では、グリーの原田考多氏がハッカソンに関する企画趣旨や審査基準についての説明が実施された。月面で行なわれるスポーツをVRで開発する、というテーマへのアプローチとして、「既存スポーツを月で再現する」や「月の環境に合わせて既存スポーツのルールを変更する」、「新しいスポーツを開発する」などの例が挙げられた。本イベントではVRを活用し、月面で身体を動かす体の感覚や、五感の再現などがポイントとなるとのこと。

 審査基準は「月面」と「スポーツ」、そして「VR」の3点。月面で行う必然性や月のデータが使用されているかどうか、スポーツとして成立しているか、面白いか、そしてVRコンテンツの完成度の観点から評価されるものとなっている。

 JAXAの山本氏からは、ハッカソンで使用する月の環境とデータ内容の説明も実施された。月の重力は地球のおよそ6ぶんの1と小さく、昼夜の温度差が200度以上あることや「レゴリス」と呼ばれる砂の物質に覆われているといった特徴を紹介。これらの月面のデータをハッカソン用に提供する。過酷な環境や低重力、クレーターだらけの地形など、地球ではまず体験できない条件が出揃うため、参加者の想像力が問われることとなった。

 会場ではレノボの一体型VRヘッドセット「Mirage Solo」とグーグルのVRプラットフォーム「Daydream」に対応したスマホ「Zenfone」、そしてスマホ用VRヘッドセット「Daydream view」が提供された。さらにボールやラケット、ダンベル、ぶら下がり健康器など開発を手助けする備品なども準備されていた。

 1日目は説明が終わった午前11時ごろから開発がスタート。総勢55名14チームが参加し、2日目の午後4時の成果発表に向けてVRコンテンツ開発に着手した。

月ならではの体験や、ユニークな発想を活かしたコンテンツが飛び出す!

 2日目に行われた発表で最優秀賞に輝いたのはKOTTON CLUBの「LUNATHLETICS(ルナスレチクス)」。月では屋内で生活していると仮定し、月の特徴である「重力が小さいこと」や「でこぼこのクレーター」を体感できるアスレチックスポーツを作成した。

 プレイヤーは高低差のある足場をジャンプしながら、ゴールであるクレーターを目指す。両手には月の岩を見立てたボールを持つことができ、ボールを投げた際の反動を利用することでジャンプの距離を伸ばしたり、行き過ぎた際のブレーキに使用したりといった動作が可能。ボールは自重の0.5倍の重さとなっており、持たない場合はその分遠くへ飛べるようにもなっている。

 月では地球と比べ、行きたい所へ素早く移動することが難しい。そのもどかしさをスポーツに落とし込むことで面白さや奥深さが生まれている。コントローラーでのジャンプの勢いやボールでの飛距離を調節するのは楽しく、繰り返し挑戦したくなるコンテンツだと感じた。

 審査員からは「コンテンツとしての完成度も高く、今回のハッカソンで制作されたものの中で1番“月っぽさ”を感じた」「ずっとやっていたくなるようなゲームに仕上がっており、自分がうまくできないことがすごく悔しいと感じるようなゲーム。これは充実感や完成度の高さの裏返しだと思う。また素晴らしいものを作ってほしい」とのコメント。

 JAXA賞の「YARINAGE CRATOR」は、クレーターの上から振ってくるバルーンを射抜くコンテンツ。バルーンはクレーターの凹凸により不規則に跳ねるだけでなく、月の特性である「200度の温度差」でバルーン内の気体が膨張・収縮するといった、的の大きさが変化する仕組みも。遊びながら月の環境を学べるコンテンツとなっていた。

「月面けん玉」。月でのけん玉はボールがふわふわと浮く。月と地球の重力を切り替えるボタンも備えられており、重力の違いを体験できる。

「月流鏑馬(つきやぶさめ)。馬に乗りながら横に向きに射つ流鏑馬を月面で再現。VRを用いることで360度のシューティング感覚で楽しめる。体験は弓形のコントローラーを用いて実施する。

 地球で行われている競技や遊びを月面で体験するコンテンツも開発された。グリー賞の「月面けん玉」は、けん玉を地球よりも重力の軽い月で遊ぶことで一味違った楽しみ方ができる。日本の伝統文化である「流鏑馬(やぶさめ)」を月面を舞台に再現するチームもいた。

 月面を全身を使って楽しめるコンテンツも。「EVA-R」は、バブルボールを用いることで宇宙にいるような浮遊感を再現している。こちらのコンテンツは全身が揺れるため、行きたい方向に向かうのが難しい。宇宙における動きの訓練としても評価されていた。

 宇宙医学賞に選定されたチーム・クラッピー病のコンテンツは、ぶら下がり健康器とゴム紐などの装置を活用することにより、体が上へと引っ張られ、重力の小さい月で走っているかのような体験ができる。体験が終了し装置を外すと自分の体重が普段より重く感じられる。地球よりも重力が軽い月を、視覚だけでなく全身の感覚で体験できるのはほかにない発想だ。

 本ハッカソンはどのチームも月の特徴を上手く反映させており、VRで楽しみながら月面の環境を体験できるコンテンツが出揃った。今回は「スポーツ」をテーマにしていたが、色々なジャンルと組み合わせても面白いコンテンツが生まれそうだ。JAXAの審査員からは「別のテーマでもぜひ開催してみたい」とのコメントもあり、今後にも期待が高まるハッカソンとなった。

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