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グーグルがアジアの中小企業市場に熱視線、巨額投資する理由

2018年04月24日 06時00分更新

文● 週刊ダイヤモンド編集部(ダイヤモンド・オンライン

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Photo by Hiroyuki Oya

米IT大手グーグルの親会社アルファベットの2017年度の売上高は、ついに1000億ドルを突破した。次なる主戦場として熱視線を送るのは、膨大なユーザーが眠るAPAC(アジア太平洋地域)である。(「週刊ダイヤモンド」編集部 大矢博之)

「予算、場所、業種を設定するだけで後は自動です。たまに確認しますが、ほぼお任せです」

 4月12日、米IT大手グーグルのシンガポールオフィスで開催された発表会。大画面に映し出されたのは、ITにあまり強そうとはいえない日本の中小企業が、グーグルのオンライン広告サービスを利用する姿だった。

 映像の主役は愛媛県の老舗フェリー会社、宇和島運輸である。1884年創業で、四国と九州を結ぶフェリーを運航している。従来はテレビや紙媒体で宣伝してきたものの、地元の常連客の利用が中心で、観光客の獲得が悩みだった。

 そんな折、地元の伊予銀行で開催されたセミナーで、グーグルの広告サービスを知った。早速グーグルに連絡を取り、業種や予算などの設定をするだけで、ほぼ自動的にオンライン広告を出稿してくれるサービスの導入を決めた。

 検索キーワードの選定や予算などといった細かい調整は、機械学習で自動的にやってくれる。さほど手間が掛からないにもかかわらず、オンラインからの予約は2年前と比べ23%も増えた。今は地元の愛媛県以外の広告は、全てグーグルに一本化したという。

「われわれは地方の会社ですけれど、グーグルの技術に支えられているんだなと感じています」

 宇和島運輸の松岡宏社長の言葉からは、グーグルが次なる成長エンジンとして狙う市場が透けて見える。それはAPAC(アジア太平洋地域)の中小企業だ。

売上高は年29%増

 グーグルの親会社、アルファベットの2017年度の売上高は1108億ドルに達した。地域別では米国が最も多く売上高の4割を超え、APACは162億ドルと約15%にすぎない。

 ところが、売上高の伸びを見ると、APACは前年度比で29%もアップしており、23%増の米国など他地域を大きく上回って、最大の成長エンジンとなっている。

 APACの伸びが大きいのはもちろん膨大な人口のおかげである。

「世界のネットユーザーの約半数がアジアの人々だ。ところが、アジア人口の約半分にしか、まだインターネットは普及していない」(カリム・テムサマニ・グーグルAPAC地域担当社長)

 例えばインドネシアのスマートフォンの所有者の割合は、13年の14%から17年は60%まで伸びた。アジアのネットユーザーは年1億人ペースで増加しており、インドやインドネシアを中心に「ネクスト・ビリオン・ユーザー(次の10億人)」(テムサマニ担当社長)が誕生するからこそ、グーグルはAPACに本腰を入れるのだ。

 そして、アジアの企業の98%を占めるのが中小企業であり、「全ての大企業も、始まりは小さなビジネスだった。イノベーションは中小企業から生まれ、中小企業のビジネスの成功がグーグルの成長を支えている」とケビン・オケインAPACマネジングディレクターは強調する。

 2000年に誕生したグーグルの検索連動型広告に最初に出稿したのは、米国の小さなロブスター通販業者だった。

 APACでも香港ではティーポット、タイでは紳士服、日本ではリフォーム、シンガポールでは学生情報サイト、インドネシアでは自動車整備と、最初の顧客はいずれも中小企業だったという。

 中小企業にとっても、安価なコストでビジネスを世界に発信できるグーグルの広告は、渡りに船だ。こうした多種多様な中小企業のビジネスの積み重ねこそが、グーグルの売上高の86%を占める広告事業のさらなる成長の起爆剤となるのである。

 屋台骨である広告の中でも、最近広告主の人気を集めているのが動画配信サービス「ユーチューブ」上での動画広告だ。とりわけ、モバイル端末向けに開発された「バンパーアド」と呼ばれる6秒間の動画広告が増えているという。

「最初は15秒や30秒のテレビと同様の広告を配信していたが、モバイル向けの閲覧体験の質を高めるためにデザインした。効率性と成果の観点でも、広告の満足度が高い」とメル・シルバAPACマネジングディレクターは説明する。昨年9月に世界で人気のあったバンパーアドの上位20本のうち、9本がAPAC発。動画広告の活用にAPACの企業は積極的だ。

インフラに300億ドル

今年になって海底ケーブル4本の新設を発表したグーグル。世界をつなぐインフラ投資に積極的だ

 検索や動画など、10億人を超すユーザーが利用するサービスの利便性を高め、その“場”をビジネスチャンスと捉える企業をさらに増やすため、グーグルはインフラへの投資を惜しまない。

「海底ケーブルは数億ドルだから安いよ。君たちも引けばいいのに」

 ある日本のIT大手のCTO(最高技術責任者)は、グーグル幹部とのミーティングで気軽にこう言われ、絶句したという。

 グーグルは今年発表した計画だけでも、日本-グアム-オーストラリア、米国-チリ、米国-デンマーク-アイルランド、香港-グアムを結ぶ4本の海底ケーブルを新設。まるで通信事業者のごとく、グーグルが出資する海底ケーブルは12本にまで増える予定だ。

 それに加え、年内に香港など5カ所でデータセンターを新設。グーグルクラウドプラットホームのマウロ・サウコ・テクニカルディレクターは、「過去3年間のインフラ投資は300億ドル。世界のあらゆる場所で快適なユーザー体験を提供するためだ」と語る。

 ただ、こうしたインフラへの莫大な投資は、検索や広告など既存サービスの利便性向上のためだけではない。瞬時に大量のデータを通信・処理することが要求される、企業向けのクラウドサービス事業を伸ばす狙いがある。

 そしてこの市場では先行する米アマゾンが圧倒的な存在感を誇っており、グーグルはアマゾンや米マイクロソフトに次ぐ3番手で、出遅れているのが現状だ。

 グーグルクラウドの特徴は、実際にグーグルが社内で使っていることだ。そして、グーグルと同じ道具を使うことで、新たな革新を起こしたいと考える企業に売り込みを進めている。

クラウド事業も10億ドルに

 日本郵船、商船三井、川崎汽船の3社がコンテナ船事業を分離・統合させて誕生したオーシャン・ネットワーク・エクスプレス(ONE)もそうした会社の一つ。母体3社はいずれもグーグルとは違うシステムで、経営統合にありがちな、どのシステムに寄せるかという勢力争いが始まりそうだが、「多様な人とダイナミックにつながり、価値を創造する新会社の働き方を実現するために、グーグルに決めた」と和田浩介・ONEシニアバイスプレジデントは語る。

 ONEはクラウドの導入だけではなく、4月から本格稼働を始めたシンガポールの新オフィスも“グーグル仕様”に造り変えた。

ONEの新オフィスの会議室。中が見えるのも"グーグル流"だ

「新しい発想を取り入れ、コンテナ業界を変えていきたい。目指すは“コンテナ業界のアップル”だ」と和田氏は力を込める。

 ONEの他にも国内ではファミリーマートなどがグーグルのクラウドを導入しており、全世界で約400万社が利用。17年度はクラウド事業の四半期売上高が初めて10億ドルを超え、広告に次ぐ成長エンジンとして注目が集まっている。

 中小企業から大企業まで、APACの企業をのみ込んでいくグーグル。本来ならば莫大な投資が必要な機械学習やAIなどの最新サービスを、安価かつ簡便に使わせてくれるグーグルの技術は、効果的に導入すれば強力な武器になる。

 ただ、グーグルと共に成長する道を選ぶことは、料金改定や規約変更など、グーグルの気まぐれでビジネスの屋台骨が揺らぐリスクもはらんでいる。


※本記事はダイヤモンド・オンラインからの転載です。転載元はこちら

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