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コインチェックを買収、マネックス松本社長が秘める“3つの野望”

2018年04月09日 11時00分更新

文● 週刊ダイヤモンド編集部(ダイヤモンド・オンライン

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世間の大注目を浴びたネット証券、マネックスグループによる仮想通貨交換業者コインチェック買収の記者会見。その場では語られなかった、松本大・マネックス社長が胸に秘める“野望”の存在に着目した。(「週刊ダイヤモンド」編集部 竹田幸平)

4月6日、マネックスグループによる仮想通貨交換業者コインチェック買収の記者会見が行われた Photo by Kohei Takeda

 仮想通貨交換業者のコインチェック買収を発表したマネックスグループの松本大社長。4月6日夕刻に開いた記者会見では、コインチェックの仮想通貨交換業者の登録とサービス再開について「2ヵ月程度を目標」とする方針のほか、同社の仮想通貨による決済機能やマネックスが国内外に持つ証券会社としての機能を組み合わせることで「全く新しい時代の総合金融機関をつくっていきたい」などと説明した。

 コインチェックといえば、今年1月下旬に当時の交換レートで580億円相当に上る仮想通貨「NEM(ネム)」が外部流出した事件の当事者だけに大きな注目が集まったが、実は松本社長の腹の中には、この会見で語られた狙いの他にも“3つの野望”が渦巻いていたと考えられる。

 それは、「第二の創業」を掲げ、松本社長自らがマネックス証券社長に復帰した直後となる昨年11月上旬に、本誌編集部が行ったインタビューの内容からひも解くことができる。

金融庁と議論しながら新しい枠組み構築
マネックスブランドで投資家の裾野拡大

 1つ目の“野望”とは、仮想通貨について「金融庁と議論しながら規制や投資家保護の枠組みをつくっていきたい」ということだ。松本社長は昨年11月の取材時、「第二の創業」を掲げた理由と併せ、仮想通貨への思いをこのように語っていた。

「自分たちが主役となって、ブロックチェーンに限らずフィンテックと呼ばれる新しい技術がある中、いろんなサービスを作って提案していこうと思うに至りました。創業時はオンライン証券に関する法令がなかったので、我々が金融庁と一緒に考えてつくっていきました。それを創業時と同じような形でやっていきたい」

「今回も以前と同様、ないところから金融庁などと一緒に議論して、規制や投資家保護などの新しい枠組みを作っていくことになると思う。それも創業時と似ているし、そういう意味で第二の創業と言っています」

「例えば仮想通貨交換業は、現時点で資本規制もないし、レバレッジ規制もない。でもそれは他の金融取引との平仄で考えるとあり得なくて、資本規制やレバレッジ規制は当然考えるべきだと思う。それを一緒になって考えて、金融庁と一緒にどう在るべきかを議論していくべきだと思っています」

 これらの発言からは約20年前、共同経営者を続けていれば数十億円を得る間近だった株式上場直前のゴールドマン・サックス証券を飛び出し、マネックスの創業によって証券のインターネット取引の普及に尽力した松本氏の自負心が垣間見える。何よりネット証券の黎明期に法令や規制などを当事者として金融庁と議論しながら作り上げていったのと同様、仮想通貨に関しても自らイニシアチブを取ってルール整備を進めていきたいとの意向が示されている。

 2つ目は、一定の知名度があるマネックスブランドを活かして、仮想通貨売買の裾野を広げることだ。マネックスは2002年からネット証券大手の中でもいち早くFX(外国為替証拠金取引)のサービスを始めた。そして昨年のインタビューでは、「それまでFXは先物業者が先にやっていたのに流行らなかったが、当社が入ったことで一般化しました。仮想通貨も当社のような存在が入ることで一気に裾野を広げられる可能性があると思っています」と述べている。創業社長として長らく事業を展開してきたマネックスブランドへの強固な自信が映し出されているといえよう。

 ただし、これら2つの“野望”に関しては、この数ヵ月間の環境変化で軌道修正を迫られた可能性もある。1つ目に関しては、コインチェックによるNEMの大量流出を受け、金融庁が明らかに以前よりも「育成」から「規制」への姿勢を強めている影響が大きい。

 しかもマネックスは自社で仮想通貨交換業を始めることを念頭に、昨年12月に「マネックスクリプトバンク」という子会社を設立していたが、登録業者への認可に時間がかかるとの考えもあってか、事件の当事者であるコインチェックを傘下に収める戦略に打って出た。今後は金融庁との「対話」もさることながら、コインチェックが「実効性のある経営管理体制を築いていけるか」(金融庁)という視点で「監視」される側面の方が強くなると言えるだろう。

 2つ目に関しても、既存の大手グループの名を冠するまでもなく、仮想通貨投資は既に大きな広がりを見せている。というのも、コインチェックだけで口座数は170万にのぼり、これはマネックスが20年かけて築き上げてきた口座数とほぼ同規模だ。日本全体を見れば、円建てのビットコイン取引のシェアは、世界でも首位を争うほど多い。

 さらに言えば、SBIグループやGMOグループの子会社は、それぞれ登録の認可を既に昨年9月に受けており、マネックスは後発組に過ぎない。買収会見でもコインチェックについては「世界的な先駆者であり、世界的なブランドがある」として、サービス名などを変えない意向を示している。

全金融取引をブロックチェーン上で
世界的なコンソーシアム設立構想も?

 このように、当初の2つの目論見は変化した可能性も否定できないが、松本社長はさらに長い目で見た構想も口にしていた。6日の買収会見でも「新しい時代のお金との付き合い方をデザインする、というのが創業以来の理念」と語ったように、中長期的な目標はそう簡単に変わるものではないだろう。昨年11月のインタビューでは以下のような思いを吐露していた。それが3つ目の“野望”だ。

「やる以上は当社の金融取引がブロックチェーン上でできる、というだけでなく、日本や世界中の株式取引や債券、投資信託などの取引がブロックチェーン上で安全にできることに意味があります」

「そうした新しい世界を当社がリーダーとなって作るのは、夢というかビジョンではありますが、実際はそんな簡単なことではない。他の会社がそれを実現するかもしれないし、そこまで大きい話だと1社の問題でなく、世界的な証券会社のコンソーシアムみたいなものでブロックチェーンを作っていくことになるかもしれない」

「それは恐らく早くても2〜3年後のこと。しかもうち単独で実現はできないかもしれない。でもそれを待っているのではなく、どっかがやるから参加しようではなく、自分たちが主語となっていくイニシアチブを作りたいわけです」

 専門家の間でよく指摘されるのは、巨額流出事件を経てもなお、仮想通貨の基盤技術となるブロックチェーン自体に直接的な脆弱性が見つかったわけではない、ということだ。その上で、マネックスの証券取引サービスのみならず、世界中の証券取引がブロックチェーン上で行えるとの未来像や、世界的な証券会社のコンソーシアム(共同事業体)のような構想も念頭に置いていると話した。その実現には新参者が絶えず流転する世界の仮想通貨業界にあって、少しでも早く参入せねばとの焦りにも近い思いがあったかもしれない。

 そんな長期的な展望のみならず、マネックスの収益面の焦りも大きいとみられている。ネット証券大手5社の中で株式売買仲介のシェアが最も小さく、仮想通貨交換業への参入に関しては、自社で設立したクリプトバンクの登録申請の認可に時間がかかる見通しだった。コインチェックはそもそも、ヤフーや大和証券などの大手が訴訟リスクなどを読みきれず買収を断念した経緯がある。

 17年末時点でマネックスは1000億円近い現金資産を持つとはいえ、今回の36億円という買収額の中には「アーンアウト条項」と称される契約によって追加の買収費用が発生する可能性が高く、これまでのコインチェックの高収益が持続できるかにも疑問符がつく。

 コインチェック買収の報道や発表に対し、株式市場ではマネックス株が急騰劇を演じるなど、高い収益性に対する市場の期待は大きい。それだけ大きな要求に答えられないと、しっぺ返しを食らうのも必至だ。

 ゴールドマン・サックス時代にトレーダーとして巨額の利益を会社にもたらし、史上最年少でゼネラル・パートナーに上り詰めた松本社長。稀代の投資家の嗅覚でつかんだコインチェックの行く末には世界中から関心が集まっているが、金融庁は慎重に判断を下していく姿勢だけに、まずは「2ヵ月」と掲げた交換業者の登録とサービス再開が実際になされるかが今後の注目ポイントとなる。


※本記事はダイヤモンド・オンラインからの転載です。転載元はこちら

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