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半分が冷凍室の冷蔵庫…ニッチ家電がモノ余り時代でも売れる理由

2018年03月19日 06時00分更新

文● 夏目幸明(ダイヤモンド・オンライン

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家電業界では最近、中堅メーカーが躍進を遂げている。その理由は何なのか?なかでも冷蔵庫、洗濯機といったコモデティ化したはずの市場に、新商品を投入してヒットを連発しているツインバードに注目し、業績急伸の理由と、その開発手法を探った。(経済ジャーナリスト 夏目幸明)

冷凍室が大きい冷蔵庫や
1人分を10分で洗える洗濯機が大ヒット

安価な家電を販売するメーカーという印象はもう昔のもの。今や、“ありそうでなかった”ニッチ商品で攻める家電メーカーに生まれ変わった(写真は野水社長)

「ツインバード」という社名にどんなイメージをお持ちだろうか?アイロンやトースターなどの小物家電を、大手メーカーより安価で販売する企業――というのは今や昔。同社は2011年に父より事業承継した野水重明社長のもと、マーケティング主軸の企業に生まれ変わっているのだ。

「当社の従業員数は約300人、売上高は約140億円で、東証二部に上場しているとはいえ、家電メーカーとしては決して大規模ではありません。しかし、この規模だからこそ得意なことがあるんです。それは『小ロット多品種』生産。当社は大企業と違って生産設備が大規模ではありません。大手さんなら数万ロットからでなければ生産できないものも、当社なら数千ロットから商品化できるんです」(野水重明社長)

 この特徴が有利に働く。なぜなら現在は、すべての業種で「個食化」の影響が見られるからだ。個食化とは「1人で食事をとる機会が増える」ことを指し、最近、その影響が食品以外の業種にも広がりつつあるのだ。商品企画担当の岡田剛氏が話す。

「家電の業界でも、ユーザーの価値観や生活スタイルが多様化しているんです。だから当社は近年、『小ロット多品種』生産を活かし、“ありそうでなかった”、“私にピッタリ”な商品をつくっているんです」

 例えば、同社が17年11月に発売した『2ドア冷凍冷蔵庫 ハーフ&ハーフ』だ。

「この商品、スペースの半分が冷凍室なんです。現在、単身世帯が増加し続け、その多くで冷凍ニーズが高まっています。最近とみにおいしくなっている冷凍食品を活用する方や、特売で食品をまとめ買いし、大量に調理して凍らせておく方が増えているんです。すなわち“冷蔵スペースは余裕があるのに、冷凍スペースはパンパン”な方が多い。そこで我々は『ハーフ&ハーフ』でスーパーの買い物かご約2個分の冷凍食品を収納可能にしました」(岡田氏)

 また同社は同じ時期、洗濯機の市場にも、約1kg(およそ1日分の日常着)の洗濯物を、なんと10分で洗える「快速モード」を搭載した『全自動洗濯機 5.5kg 』を投入している。

「忙しい朝や、帰りが遅かった夜、気軽にお使いいただけます。また家族で使う場合、自分のものは自分で洗えますし、色柄ものだけ分けて洗うこともできます」(岡田氏)

 いずれも、ありそうでなかった商品だ。そして岡田氏によれば、売れ行きは上々。家電量販店のバイヤーから、発売前から「何台ほしい」と具体的な数字を示されるなど強い引き合いがあるという。

「発売後は、生産が追いつかず大変な思いをしました(笑)。当社では年間5000台くらい売れればヒットと言っていいのですが、現在、年間1万台ペースで推移しています」

みんなが欲しがる商品は
絶対につくってはいけない

 たしかに市場を見渡せば、ここ数年で、例えばバルミューダ、sirocaなど、小さなメーカーが特徴的な商品を出してヒットさせている。これは確実に「トレンド」なのだ。では、ツインバードはどのようにして「私にピッタリ」を見出すのだろう?

 岡田氏によれば、いくつかコツがあるという。

同社イベントの様子。顧客との接点を数多くつくっている。ありきたりのマーケティングデータからは、斬新な商品は生まれない

「まず“情報は自分の足で稼ぐこと”です。マーケティングデータで分かることは、他社も分かっています。それより、実際に様々なお客様と話し、現状のご不満を伺うほうが、自分の肌感覚が養われるんです」

 同社のホームページを見ると、どのページにも、画面右端に『家電のお困りごと募集中』というリンクが表示される。また、同社はSNSを利用して『夏フェス』等のイベントを実施したり、社員が積極的に家電量販店の店頭に立つなどして、社員とユーザーが触れ合う機会を設けている。

「なかでも私は、自分自身が単身赴任を経験し“土日に食材の買いだめや、料理のつくりだめができればいいのに”という思いを持っていました。そして、企画担当になってお客様相談室の声を聞いたり、イベントでお越しいただいたユーザーさんと触れ合ううちに、“これ、自分だけじゃないな”という手応えを持ったんです」

 そして、次なるコツは“発案は大胆に”だという。

「誤解を怖れず言えば “みんなが欲しがる商品”は絶対つくってはいけないと思います。みんなが欲しい商品の最大公約数は、既に売られている商品なんです。それより、9割の方が“へえ、珍しいね”で終わってしまうものの、残りの1割の方が“これ、超欲しい!”となる商品がいい」

 岡田氏曰く、「この企画が通るのが当社の良さ」なのだという。大人数の会議で多くの意見を聞くと、企画はまるまってしまいがち。一方、冒頭で紹介した2つの商品は、野水社長と岡田氏がシカゴの家電ショーに行く道中で相談し企画をまとめた。これなら「尖った感じ」がしっかり商品に反映される。

 企画に“ゴー”が出ると、岡田氏は単独世帯にターゲットを絞り、例えば「冷凍室にどれだけ入ればいいのか?」「ドア側の棚の大きさは?」といったことをコツコツ調べた。そして、棚板の位置やドアのポケットは、中身に合わせて細かく調整できるようにした。「私にピッタリ」を実現するには、売り手が「この大きさがベスト」と勝手に設定してはいけないと考えたからだ。

 そして、彼が最後のコツを口にする。

「“どうせやるなら、No.1を目指すこと”です。昔にさかのぼって調べたわけではないんですが、『ハーフ&ハーフ』の冷凍室の大きさはクラスNo.1、洗濯機も同じで、10分というスピードは私が知る限り業界No.1です。売場で家電量販店の方にご説明いただくときのインパクトが違います」

 もちろん、極端な方向に振れると、不安にもなると言う。社内では“こんなに大きな冷凍室、本当に必要なの?”という意見もあった。大型の家電は、製造設備も大きいため、投資額も膨らむ。しかし…。

「やっぱり、人の意見を聞きすぎると、いいところもなくなってしまうんです」

経済が成熟したモノ余り時代は
お客は「自分にピッタリ」を追求する

 野水社長は、市場環境をこう分析する。

「昭和の頃は“モノ”そのものがなく、ユーザーは『電子レンジがほしい』といった単純明快なニーズをお持ちでした。だから、最大公約数にあたる商品を大量につくるのが正解で、当社も『誰もが使える基本的な性能を持った商品を、良心的な価格で販売する』ビジネスモデルでした。しかし今は、経済が成熟し、モノが余っている時代です。するとユーザーは、自分のライフスタイルや価値観に合ったものが欲しくなります。ネットショッピングでも、用途、大きさなど『自分にピッタリのものはないかな?』と徹底的に探す方が増えましたよね」

 だから、商品の良さは一点集中させる。何かを「買いたい」と思った時、全員が「これ、3番目くらいに欲しいな」と思う商品は誰も買ってくれない。同じ家電を2台も3台も買う人間はいないからだ。さらに、野水社長曰く「スピード感を持って他社にない商品をつくり、小さな市場を寡占してしまうことが大事」とも話す。

「だから、私が事業承継したあと、当社はツインバード“だけ”の商品を多数発売しています。例えば、大手コンビニで人気の『ブランパン』が焼けるホームベーカリーです。小麦の外皮が主原料の、糖質が少ないパンを家庭で簡単に焼けるのは当社商品“だけ”。そのほか、頭の筋肉をほぐし、フェイスラインをすっきりさせるヘッドケア機『セレブリフト』など、話せばきりがありません。そして、どれもとてもご好評をいただき、業績に寄与してくれています」

 思えばエンターテインメントの業界も、現在は、スマホの「AbemaTV」や「Youtube」などを1人で楽しむ場面が増えた。様々な業界で、「平均的な商品は大手」、「尖った商品は小規模な企業のもので」と棲み分けが進んでいるのだ。

 野水社長は、「これからも他社にない商品を続々市場に投入していく」というから楽しみだ。


※本記事はダイヤモンド・オンラインからの転載です。転載元はこちら

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