このページの本文へ

イーサリアムにも携わった数学者ホスキンソン氏に聞く

仮想通貨、バブルが崩壊しないと本物になれない

2018年03月12日 09時00分更新

文● 編集部

  • この記事をはてなブックマークに追加
  • 本文印刷

二酸化炭素の排出量など、国際的な取り組みにも応用できる

── 政府中心に動いていたものが、分散してみんなで保証しあう仕組みに世の中が移ってくるということか。法整備なども必要になりそうだ。

ホスキンソン 世界では、TPPやNAFTAなど、海をまたいで共通のルール作りをしていく試みが進んでいる。こういう動きの中にブロックチェーン技術が入り込めば、紙で運用されているものが、コードベース=プログラムとして運用でき、効率化が図れる。1国が他国の損の上に利益を得ることも難しくなるはずだ。

 効率化と公平性を求めるという意味での応用もありうる。例えば、パリ協定では各国が二酸化炭素の排出量を削減すると約束している。しかしそれが実際に正しく行われているかを保証することは難しい。各国の二酸化炭素放出量を統計化できる仕組みを作り、これをブロックチェーンで管理すれば、各国の成果を透明性を持って知ることができる。

 われわれがシステムを構築する際の前提にしているのは、共通のゴールを持ち、共通の価値共有システムを作り、共通の基準をみんなで共有すること。それが一つの団体や国に依存してはいけない。その団体がつぶれる可能性があるし、その団体の管理が正当に行われない可能性や汚職の可能性もある。そのリスクを減らして、みんなで管理するにはどうするかをわれわれは得意としている。

ブロックチェーンはリソースを食いすぎる?

── ビットコインなどでは、ブロックチェーンを実現するためのリソースの不足が問題になっているが。応用範囲が広がると、機能しなくなることはないか?

ホスキンソン リソースは非常に興味深いトピックスだ。これは、どういうツールやプロトコルを使うのかに依存すると言っていい。中国の万里の長城は人の労働力だけで作られ、1/3の人が死んだと言われる。一切やり方を変えず、死体を壁の中に埋めて進み続けた。原始的なツールとやり方で進んだ土木工事だった。しかし新幹線はこれよりも多くの山を削り、土を動かしたと思うが、動いた人の数も死者の数も圧倒的に少なかったはずだ。

 この例えに沿って考えると、第1世代のブロックチェーン技術は機能はしている。しかし、そのためのコストやツールに関しては、初歩的で原始的なものだった。どのようにツールを開発すれば何百万人が使うツールとしてスケーラビリティを確保して、コストの削減ができるのかを考えないといけない。

 これが我々の仮想通貨カルダノを始めた際の大きなゴールだ。ビットコインのようなすでにうまく行っているシステムのうち、どの要素を達成できれば安全性が担保できるのか。次に最低限の安全性を保証しつつ、より賢く効率的に多くの人が使えるようにする方法を見つける。最終的には、ユーザーが増えれば増えるほどそのリソースが同様に増えて、スケーラビリティが確保できる方法はないかと考えている。

 2015年に書いた論文(GKL15)では、ビットコインのどの要素が安全性を保証するうえで絶対的に必要なのかを明記した。さらに2016~2017年の論文では、何を使えば、安全性を確保しつつ広くエネルギー消費を行わないプロトコルを運用できるのかについてまとめている。ビットコインのために必要な電気の量は、エクアドル1ヵ国以上と言われる。一方、カルダノの運用に必要な電気量は、この部屋を照らす蛍光灯と同じぐらいだ。

 ビットコインは「ホモジーニアスレプリケーションシステム」として設計された。生物的な比喩で「細胞はあなたのDNAを保持していて、ひとつの細胞からどの部分でも作り直せる」。ポイントは、全部のコンピューターが壊れても、1台フルノードで運用できていれば元に戻せる点だ。

 これは非常に耐久性があって、止めにくいし、破壊にもタフだ。ただしマキシマムサイズでもあり、このやりかたではすべてのデータをひとつのノードで管理するのが難しく限界が来る。グーグルやアマゾンのクラウドサービスのように、何百万人の顧客が使い始めると、何ペタバイトものデータの管理が必要になる。

 カルダノは、エンジン自体(プロトコル、Proof of Stake)の効率化の研究をして、どのように保管するか、どのように動かすかも研究を続けている、これによってリソースを多く持たずに、運用できるようになっている。

 その改善のために東工大で働いているベルナルド・デイビッドが貢献した。

 非常に複雑なもので、丁寧にデリケートに組み上げていく必要がある。そのために学術的な立場の人間が必要だ。いまは技術的に届かない部分の弱点が目立っているが、辛抱強く取り組んでいく必要がある。カルダノ・プロジェクトは長期に続けていくもので、直接契約している2015~2020年だけでなく、その後の貢献も続けていきたい。10年、20年先までプログラムが更新され向上していくことを前提に考えている。

 一方で、世の中にはいろいろな力=処理能力が存在している。例えば僕の携帯電話の中にもそれがある。これをどのようにすれば集められるか。これが解決できればそこに非常に強力なコンピュータが存在しうる。そのリソースを複製するのではなく、賢くリソース自体を共有していけば、改善ができる。これが研究課題だ。そして日本はGRID Computingなど、この分野のリーダーなのだ。

カテゴリートップへ

アスキー・ビジネスセレクション

ASCII.jp ビジネスヘッドライン

ピックアップ