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経営者こそ「ワンオペ育児問題」を知らないとヤバい理由

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共働き世帯が増えている昨今、「子育て」は社会全体で共有されるべき問題となっており、「ワンオペ育児」なるワードも注目を集めている。人手不足が進む中、特に会社の経営に関わる幹部クラスの人間こそ、ワンオペ育児の現状に目を向ける必要があるという。(清談社 金城よし子)

フルタイム勤務のワンオペ育児は
1日15時間のブラック労働

ワンオペ育児に疲弊して女性社員が辞めていくような企業は今後、人材確保の面で不利になるはず。ワンオペ育児を女性社員の問題と切って捨てるのではなく、会社も当事者意識を持たなければならない

 2017年の流行語対象にもノミネートされた「ワンオペ育児」。ネットを中心に広がっていったこの言葉は、特に子育て世帯の女性にはよく知られているワードである。

 ワンオペレーション(=ワンオペ)については14年、牛丼チェーン店のすき家の炎上騒動をきっかけに、多くの人に知られることとなった。従業員1人で店を回す過酷な労働環境を指す「ワンオペ」と「育児」を組み合わせた「ワンオペ育児」は、コトバンクでは「何らかの理由で1人で仕事、家事、育児の全てをこなさなければならない状態を指す言葉」と定義されている。会社の仕事に加え、家事と子育てを一手に引き受け、休む間もなく働くブラックな状況がダイレクトに伝わる造語である。

 昨年6月に『ワンオペ育児』(毎日新聞出版)を上梓した明治大学の藤田結子氏は、ワンオペ育児に追われる親の状況について「過酷そのもの」と話す。

「東京在住のある30代の女性は、フルタイムで働きながら1歳の息子を育てていますが、夫が単身赴任で家にいないためワンオペ育児に追われています。彼女は朝5時に起き、子どもを保育園にあずけた後ダッシュで職場に向かいます。夕方6時に仕事を終えたら、またもや大急ぎで保育園に迎えに行き、家に帰っても深夜まで家事育児や仕事の準備に追われる…そんなハードな日々を繰り返しているのです」

 彼女に限らず、フルタイム勤務にもかかわらず、1人で家事育児をこなすような環境だと、1日に15時間以上の労働になるという。これが会社だと“ブラック企業”と批判されるところだろう。

男性優位の労働慣行が
ワンオペ育児を助長させる要因に

 母親か父親のいずれか一方が家事育児の大半をこなしている状態を「ワンオペ育児」というが、やはりこの問題に悩まされるのは圧倒的に女性のほうが多いという。

「実際、6歳未満の子どもがいる父親が家事育児にかける時間を、世界各国で比較してみると、アメリカが2時間51分、フランスが2時間30分、スウェーデンが3時間21分となっています。ところが、日本の男性は1時間7分しか家事育児をしていない。その分、女性の負担が重くなっているのです」

 背景には「家事育児は女性がするべき」という、性別役割分担意識の問題もあるが、ワンオペ育児を助長させる要因はそれだけではない。

「日本では、1990年代半ばまで専業主婦世帯が多かったため、妻が家で家事育児をして夫が外で稼ぐ、というスタイルが一般的でした。その後、共働き世帯の数が専業主婦世帯を上回るのですが、共働き夫婦のための社会インフラが、まだ整ってないのです」

 たとえば、保育施設が充実しているフランスは、日本ほど待機児童の問題は深刻ではないという。また、アメリカやイギリスは、ベビーシッターやハウスキーパーを呼ぶなど、家事育児の外注システムが発達しているそうだ。

ワンオペ育児の一方で
昇進・昇格から遠のく女性たち

 一方で、家事育児の問題をすべて家庭内で解決するよう迫っているのが、日本社会の現状だ。そしてこれは企業の労働慣行についても同じことがいえるという。

「働き方改革が叫ばれる中、いまだ、長時間労働を前提とした男性優位の会社が存在していることも事実です。定時で帰宅するような社員を『やる気がない』と見なすような企業風土では、夫は子どもが生まれても、家事育児の時間を作ることができません」

 夫が仕事を優先すればするほど、家事育児の負担は妻にのしかかっていく。しかも、妻の方は、それでワンオペ育児となっても、その状況を会社に伝えないことがほとんどだという。

「現在、働きながら家事育児をこなす女性を対象に聞き取り調査を行っています。その中で、『育休を取ったり、早く帰るのは当然』と強く主張する女性はごくわずかでした。多くは、会社に対して『迷惑をかけている』という意識が強く、肩身が狭い思いをしているため、ワンオペ育児で疲弊していたとしても、自分の現状を会社に伝えないことのほうがほとんどなのです」

 さらに、子育てをきっかけに時短勤務を申請したり残業に対応できなくなった女性が、昇進・昇格から遠ざかる「マミートラック」に乗せられるような現状についても、藤田氏は問題視している。

 少子高齢化に伴い労働力の不足が懸念される中、政府も2014年に「女性活躍推進法」を制定するなどして、女性の労働力を確保しようと躍起になっている。しかし現実では、多くの女性がワンオペ育児に追われ、その上、マミートラックに乗せられているのだ。これでは「女性が輝く」どころの話ではないだろう。

ワンオペ育児に無関心な企業は
人材が集まらず淘汰されていく?

 このような現状を放っておくと、企業側にとってもデメリットは大きい、と藤田氏は言う。

 藤田氏はこれまで、早慶、MARCH、日東駒専と難易度の異なる大学でそれぞれゼミを受け持った経験がある。その中でも、早慶レベルの女性はバリキャリ志向が強く、実際に有名企業への合格率も高い傾向にあったそうだ。

 博報堂生活総合研究所の調査(16年)では「専業主婦になりたい」と回答した20代女性の割合は32.3%。「専業主婦希望の若い女性が増えている」と報じるメディアもあるが、学歴が高く、希望の企業や職種に就ける可能性の高い優秀な学生に関しては、第一線で働きたいと考える女性が多いようだ。

「しかし、そうした優秀で勤勉な女性ですら、産後はワンオペ育児で疲弊し、マミートラックに乗せられることがある。その憂き目に遭った女性は、恐らく会社に見切りをつけてしまうことになるでしょう」

 しかも、企業の労働慣行に不満があったとしても、多くの女性は波風を立てないように、「育児に専念したいから」と、当たり障りのないような理由をつけて退職していくという。つまり、会社側が本当の理由を知る由もないまま、働き盛りの優秀な人材がどんどん辞めていくという、恐ろしい事態になりかねないのだ。

「女性は入社後伸びない」は
本当に正しい見方なのか?

 さらに、「仮に会社に居続けるとしても、マミートラックに乗せられた女性は心理的な葛藤を減らすために、自ら意欲を引き下げることもある」と藤田氏は言う。これでは、今までコストをかけて採用・育成してきた人材を、会社自らが潰してしまうことになりかねない。会社にとっては大きな損失だろう。

「かつて、一部上場企業の人事部の男性から『採用試験の時は女子学生の方が優秀だけど、女性は入社後に伸びない』と言われたことがあります。しかし、出産して『女の幸せ』に目覚めた女性は仕事に対してやる気を失ってしまう、という見方は正しいのでしょうか。それは本人たちの問題ではなく、企業や社会がそう仕向けていると、複数の調査から明らかになっています」

 少子高齢化にともなう労働力不足が深刻化する中、優秀な人材を確保できるかどうかは、企業にとっても死活問題だ。企業側にもワンオペ育児を強いるような労働慣行を見直し、育児中の女性を含め、あらゆる人材が能力を発揮できるような環境を作っていくことが求められているのである。

「ところが、自分の妻や母親が専業主婦で、それが世の中の風潮としても当たり前だった世代にとって、『ワンオペ育児』の問題は、なかなか理解できない部分があるようです。すでに時短勤務やテレワークの導入など、働き方の改革に乗り出している企業も増えていますから、今後はそうしたフレキシブルな環境で働ける会社に、人材が集まるのかもしれませんね」

 旧来の労働慣行を変えようとしない企業は、今後も人材確保の面で不利になる可能性がある。有効求人倍率がバブル期を上回る今、幹部クラスや経営者層の男性こそ、「ワンオペ育児」について、当事者意識を持つべきなのだ。


※本記事はダイヤモンド・オンラインからの転載です。転載元はこちら

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