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孫正義が太っ腹に支援する「若き異能」発掘プロジェクトの中身

2018年02月27日 06時00分更新

文● 船木春仁(ダイヤモンド・オンライン

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2017年2月10日開催の孫正義育英財団イベント「未来を創る若者たちへ」で財団を設立した経緯などについて話す孫正義氏

孫正義が目を付ける若き才能とは

「2期生にはどんな子たちが応募してくるのだろうか」――。関係者だけでなく、その財団の存在を知る人たちからも関心が高まっている。「孫正義育英財団」の2期生応募の締め切りが明日2月28日に迫っているのだ。

 孫正義育英財団は、ソフトバンクグループ代表の孫正義氏が私財を投じて2016年12月に設立した育英財団で、「『高い志』と『異能』を持った若者に自らの才能を開花できる環境を提供し、人類の未来に貢献する」を目的として掲げている。

 要するに「若き“天才”を孫正義が支援するプロジェクト」と言っていいだろう。どんな才能に目を付け、どんな支援を行なっているのだろうか。

尖った異能を発掘し、太っ腹に支援する

 財団の代表理事には孫氏が就き、副代表理事には山中伸弥・京都大学iPS細胞研究所所長、理事には五神真・東京大学総長、佐藤康博・みずほフィナンシャルグループ取締役執行社長グループCEOなど、そうそうたるメンバーが並ぶ。

 財団の大きな特徴は、目的にも掲げる「異能の発掘」と「支援の太っ腹さ」にある。

 応募できるのは、応募時点の年齢が25歳以下で、国際大会や全国大会規模のコンテストで優秀な成績を収めたり、国際的に通用する資格を持っているなどのうち1つの要件を満たせばよい。

 選考を通過した若者たちはまず、初年度は「準財団生」となり、準財団生認定から1年後の認定委員会で「正財団生」になれるかどうかが決まる。

 準財団生になると支援金の給付や支援のための施設の無償利用、財団主催のイベントへの参加などの支援が受けられる。さらに財団生になると、準財団生の認定期間を含めて最大5年間は在席できる。5年間の満期を迎えた場合でも、延長認定審査を受ければ28歳まで在籍できる。

 各種の支援のなかでも、目を見張るのが支援金の給付額だ。例えば米ハーバード大学で学ぶには学費と寮費など最低でも年間700万円はかかる。4年間で3000万円だ。財団は、「学費と一般的な生活費、渡航費を全額援助する」(孫正義育英財団・源田泰之事務局長)。

 また、起業をめざしている人が各種の製造器具などの購入が必要となれば、「専門家から意見を聞くなどして妥当であれば支援金を給付する」(同)。支援金には一切返済義務はないし、将来、ソフトバンクグループで活躍してほしいなどといった制約もない。

 ほとんどの育英財団では、基金の運用益から支援金を捻出するので、「月額15万円まで」といった上限がある。運用益の多寡によっては支援金が減るケースもある。それに比べると、孫正義育英財団の支援の“太っ腹”ぶりは突出している。

 実は、財団は基金の額を公表していない。今後、年間30人程度と見込む財団生が増えてきて、その支援金額も増える一方になるが、源田事務局長は、「必要額が増えれば増えた分だけ孫代表理事が私財から供出する」という。

「異能を発掘する」というだけあって、その財団自身もまさに異能的だ。

「セミの飛翔研究」「みんなでドラえもんを実現する」等々、1期生96人の異能ぶり

 2017年7月に第1期生として選ばれた準財団生は、今年7月には財団生になれるかどうかの認否判断を受ける。

 1期生は、8歳から26歳までの96人。どんな異能たちなのか。これが実に多士済々なのである。

 最年少8歳の中森萌さんは、カナダ・バンクーバーでのギフテッドプログラム(いわゆる英才児教育)に参加している。

 13歳の榎峠鞍馬さんは、海外の学校で5年生(10歳)のときに、7年生から9年生までの数学を1ヵ月間で修了し、現在は11年生の上級コースを履修。「財団からの奨学金のサポートによって、リベラルアーツをしっかりと身につけたエンジニアになりたい」と言う。

 18歳の佐野めぐみさんは、国際脳科学オリンピック全英大会で優勝し、世界大会に出場した実績を持つ。18年秋にはスタンフォード大学に入学し、「脳神経の生理学的な解明だけでなく、人工知能の工学的な開発も学び、神経学を多様な角度から追究したい」と語る。

 同じく19歳の矢口太一さんは、10歳から「セミの飛翔」の研究に取り組み、16歳で応募した日本学生科学賞では内閣総理大臣賞を受賞した。「財団では、幅広い方面で活躍する会員の皆さんと切磋琢磨し、共に学びながら『人類の未来』に貢献できるよう頑張りたい」と言う。

 25歳の大澤正彦さんは、慶應義塾大学理工学部を首席で卒業し、現在は「全脳アーキテクチャ若手の会」を中心に、「みんなでつくるドラえもん」プロジェクトに挑んでいる。人工知能だけでなく、他の学術領域や学術領域以外の人々との協調による「ドラえもん」実現に力を注いでいる。

 17年に東京大学大学院からブランダイス大学大学院物理博士課程に進学した早川大智さんは、「生き物のように振る舞う無機的なシステム」の開発研究に挑んでいる。これは、「壊れても自己修復するモノ、新しい環境に適応するモノ、進化するモノなど生物的な側面を持った新たなマテリアルの開発に貢献できる研究」と言われる。

 起業家もいる。25歳の諸澤正樹さんは、高校在学中に新型インフルエンザに対応した独自のアルゴリズムの数理モデルを構築して感染症の流行予測研究に取り組んでいた。その後、大学時代にクラウドファインディングのWircepを起業して現在に至る。

 凡夫には、一言では理解しがたいテーマが多い。さらに「異能とはなにか」を定義することも難しい。

 だが源田事務局長は、「各種の大会やコンテストなどの受賞実績、取り組みたい内容などは、数ヵ月の書類選考の間に専門家に精査してもらい、真に価値があると認められる研究や将来性があると認められる人物が選ばれている」と説明する。

シンギュラリティの到来にも、人は“考える葦”でなくてはならない

 東京・渋谷駅近くにあるクリエイティブ関係の企業が多く入居する「渋谷キャスト」。この2階に、財団生を支援する施設「INFINITY」がある。3DプリンターやVR・AR機器などの各種の最新テクロノジーが利用でき、書籍や論文も自由に読める。飲み物は無料で、自由に使える個人ブースやミーティングルームもある。

“異能同士”の交流の場になっている「深堀セッション」

 ここは異なるテーマに取り組む財団生たちの「創発」の場だ。例えば毎月、定例で開かれる「深掘りセッション」。3人の財団生が自分が取り組んでいることを他のメンバーにプレゼンし、質問や意見を交して内容を深掘りすることを目的に開かれている。また財団生が自ら企画する「ネットワーキングイベント」もある。

「財団の大きな目標の1つに、異能同士が交わることで従来にない“摩擦”が起き、新たな視点や発想を生みだすことがあります。INFINITYは、そのための場であり、『ここに来ると議論できる相手がいる』と言ってくれる財団生もいます」(源田事務局長)

 取材当日にも、ホワイトボードを持ち出し、「教科教育のレベルアップのためには、どんな方法があるか」という議論が展開されていた。「教育学の立場ではそうかもしれないが、生理学的な側面で考えれば、むしろこういう方法の方が成果が出やすい」といった議論の声が聞こえていた。

 実は1期生96人のうち約3割が海外にいる。このため現在、米ボストンでINFINITY同様の施設を設置するために物件を探しているという。

 そもそも財団は、かねてから構想を温めていた孫氏が、山中所長との対談で、「日本には、画一的だが高いレベルの教育体制があるものの、逆に突出した才能を持つ子どもたちや若者への支援体制がない」と意気投合して、一挙に設立に動いたものだった。

 元々孫氏は、社内外から「ソフトバンクグループの後継者を目指す人」を募集する「ソフトバンクアカデミア」を2010年から始めている。そうした若い世代との出会いが孫氏の「異能支援のための財団」というアイデアの根底にあるようだ。

 孫氏が財団設立の挨拶やシンポジウムで常に強調するのが「シンギュラリティ時代の人類の可能性」だ。大きな社会変革をもたらす技術の特異点(シンギュラリティ)の到来が迫るなかで、「人は完全に技術に支配されるのか、それとも“考える葦”としてさらに対応できる存在になるのか」という危機感だ。

 孫氏は、「暗記だけならば、コンピューターの方が優れている。しかし優れた知能や潜在能力を持っている人たちに、ぜひいろいろな意味で考えてほしいのだ。考えに考え、考え抜いて、我々人類の将来のために役立ってほしい。そのために財団をつくった」と訴える。

 異能たちが今後、どのような成果を生み出し、またリーダーとして日本や世界をリードしていくかは予測がつかない。

 しかし1つだけ言えるのは、昔も今も「誰もがすごいと認める人材」はおり、少なからずそうした人物が時代を切り拓いてきたということだ。

(ライター 船木春仁)


※本記事はダイヤモンド・オンラインからの転載です。転載元はこちら

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