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ロードマップでわかる!当世プロセッサー事情 第447回

業界に痕跡を残して消えたメーカー NuBusと運命を共にしたVGAメーカーRasterOps

2018年02月26日 12時00分更新

文● 大原雄介(http://www.yusuke-ohara.com/) 編集●北村/ASCII.jp

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ビデオ編集事業を強化するため
TrueVisionを買収

 こうしたビデオカード製品とは別に、ビデオ編集分野の強化も図ろうとしたが、キャプチャーボードはともかくとして、その先に関してはRasterOpsはそれほどの技術も知見も持ち合わせていなかった。

 このため、RasterOpsは1991年にTrueVisionを買収する(買収完了は1992年)。TrueVisionはもともとAT&TのEPICenter(Electronic Photography and Imaging Center)という部門が独立してできた会社であり、TGA(Truevision Graphics Adapter)というファイルフォーマットを定めたことで記憶にある方も若干おられるかもしれない。

 このフォーマットをサポートしたビデオカードがTARGA(Truevision Advanced Raster Graphics Adapter)である。あいにくTARGAはそれほど普及しなかった。

 色数こそ最大32bitカラーまでサポートしたものの、ローエンドのTARGA 8は8bitグレースケール表示・512×480ドットで2295ドル、32bitカラーのTARGA 32は解像度は同じままで4495ドル(いずれも1986年3月の価格)で、さすがにこれを買えるユーザーはそう多くなかった。

 そうこうしているうちにEGAからVGAを経てSuperVGAが、ほぼ同等の性能をはるかに廉価で実現するようになってしまったからだ。それもあってTrueVisionはビデオカード業界への参入は早期に断念し、その代わりビデオ編集の分野に活路を見出す。

 これをRasterOpsに見初められての買収であるが、RasterOpsは買収後もTrueVisionの名前と開発チームをそのまま残しつつ、その技術を吸い上げる形を取った。

PCIへの移行に失敗
ビデオカードから撤退

 さて話をRasterOpsに戻すと、同社は引き続きNuBus向けのビデオカードを多数ラインナップしていったものの、1994年頃から売上が停滞し始め、これにともなうリストラなどが行なわれるようになる。1991年の第1四半期には1940万ドルだった売上は1994年第1四半期に5000万ドルを超えていたが、翌第2四半期は4260万ドル、第4四半期は1720万ドルまで下がった。

 とどめをさしたのはAppleで、Power Macintosh 9500を皮切りに内部バスをNuBusからPCIに切り替えたが、RasterOpsはPCIへの切り替えに失敗し、このあたりでビデオカードの分野から事実上撤退することになる。

 余談だが、1994年のCOMDEXで、RasterOpsはS3のチップを搭載した製品をサンプル展示しているが、実際に販売されることはなかった。この前年には、確かS3 911を3つ搭載したフルカラービデオカードをやはり参考展示している。

 S3 911そのものは8bitカラーのチップだが、これを3つ搭載してそれぞれR/G/Bプレーンを描画させればトータルとしてフルカラーになるという、トリッキーというか化け物に近い構成だったはずだ。こういう方向に進化する会社は往々にして長いことはない。

 幸いだったのはTrueVisionの部門は非常に景気が良かったことで、事実1995年第2四半期におけるRasterOpsとTrueVisionの合計の売上は6630万ドルに達している。

 さてこの後どうなったかというと、まずRasterOpsは1995年に社名をTrueVisionに変更する。そして旧RasterOpsのビデオカード製品一式のサポートをテキサスにあるCRA Systemsに委託、自身はビデオカードのビジネスから完全に脱却する。そしてRasterOpsの名前も1996年にZycom Corpに売却してしまう。

 これに先んじて1994年にはカラープリンターのビジネスをTektronix, Inc.に売却しており、なんのことはない、RasterOpsが完全に消えてTrueVisionがそのまま生き残った格好だ。ただそのTrueVisionも1999年にPinnacle Systemsに買収され、そのPinnacle Systemは2005年にAvid Technologyに買収された。

※お詫びと訂正:記事初出時、Apple Computerの製品名の一部に誤りがありました。記事を訂正してお詫びします。(2018年2月26日)

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