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米作りからレストラン経営まで「一貫体制」にこだわる日本酒蔵元の挑戦

2018年01月18日 06時00分更新

文● 加藤 力(ダイヤモンド・オンライン

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田んぼでの米作りから醸造まで
海老名の老舗酒蔵の挑戦

地元の農家や飲食店関係者、一般市民約200人が毎年田植えと稲刈りに参加。今や一大イベントに発展した

 農林水産省の資料によると、日本酒の国内出荷量は1973年の約170万キロリットルをピークに年々減少を続け、2015年の時点で60万キロリットルを割り込んでいる。若者の酒離れやワイン、焼酎、発泡酒、リキュール、ハイボールなど嗜好の多様化も進み、日本酒にとっては厳しい向かい風が吹いている。

 そんな中、“日本酒のドメーヌ”と呼ばれる独自の一貫体制と、地域との一体経営によって成長を続ける老舗酒蔵がある。安政4年創業、神奈川県海老名市で160年にわたり日本酒を生産し続ける「泉橋酒造」である。代表銘柄は「いづみ橋」「とんぼラベル」だ。

 ドメーヌとはブルゴーニュ地方において、ぶどう畑を所有し、ぶどうの栽培から醸造、熟成、瓶詰まですべて自分たちで行うワイン生産者のこと。泉橋酒造は、自社の田んぼでの米作りから精米、醸造まで一貫して取り組む栽培醸造蔵である。これが“日本酒のドメーヌ”と呼ばれる所以だ。さらに、同社は16年7月、地元に直営レストランをオープンし、田んぼからテーブルまでという全国でも稀有な一貫体制を確立した。

 こうした自社による一貫体制は、酒造りに対する並々ならぬ情熱とこだわりが生んだもの。それは6代目となる現当主、橋場友一社長が家業を継いだ1995年から始まった一大改革だった。その端緒は、全量純米酒への転換。純米酒とは、米と米麹だけで造られる日本古来の日本酒で、醸造用アルコールを混ぜる醸造酒とは根本的に異なる。

 折しもこの年、食糧管理法が廃止になり、農協を通さずとも自由に米の売買ができるようになった。これは、簡単に言うと米を作った人の顔が見える、安心・安全の酒造りが可能になったことを意味する。「私はこれを好機と捉え、良質の純米酒を造るために、安全で質の高い酒米を自分たちで生産しようと決意したのです」と、橋場氏は往時を振り返る。

 そして翌96年、地元農家と酒米作りを始めた。地元の農家や飲食関係者が集まり、一体となって田植えを行い、秋の稲刈りをする。参加者は回を重ねるごとに増えていき、今や一般市民も巻き込んで200人前後の人々が集まる一大イベントに発展した。日本酒の原料である米作りから地域が一体となって田植えを行い、そこで稲が育ち、米が収穫され、その米が日本酒になっていく。自ずとその酒に対する愛着も強くなるのである。

酒に合わせて料理を創る!
自社レストランも運営

蔵の周辺に広がる自社の田んぼ。この田園風景を守るのも泉橋酒造の使命と考えている

 自らの田んぼで米を育てる理由がもう1つある。泉橋酒造が立地する一帯は、海老名耕地と呼ばれる県内随一の穀倉地帯。豊かな水と肥沃な土壌に恵まれ、周囲には古墳や遺跡が散見され、弥生時代にはすでに稲作が盛んだったことが伝えられている。泉橋酒造は創業以来、この海老名耕地で酒造りと農業に勤しんできた。「この豊かな田園風景と緑を守るのは自分の使命」(橋場氏)と言うほど、この地に対する思いは強い。

 そして、その思いは田んぼからレストランまでつながった。海老名市内にオープンした直営レストラン「蔵元佳肴(くらもとかこう)」は、日本酒と共に料理を楽しむことを前提にしたレストラン。ただし、料理に酒を合わせるのではなく、日本酒に合わせて料理を創る。食材は地元・海老名をはじめ神奈川の農産物、相模湾の海産物にこだわった。個性あふれる泉橋酒造の純米酒、大吟醸にマッチした料理が供されている。

料理に酒を合わせるのではなく、日本酒に合った料理を供する。「日本酒をワインのような食中酒にしたい」(橋場氏)

 その独特のスタイルにも橋場氏が長年思い描いてきたこだわりが込められている。「日本酒は本来どんな料理でも合わせやすく、食中酒に適した酒です。日本の食文化の中心に、あたりまえのように日本酒がある。そんなシーンを現実にしたい。日本酒を欧州におけるワインのような存在にしたいのです」(橋場社長)。直営レストランはそのための第一歩といえよう。

 自社商品に対する徹底したこだわり、地元の関係者や一般市民を巻き込んだイベントによる共感の醸成、地域貢献への深い思いと実践、そして、食文化を見据えた新しい挑戦。泉橋酒造の活動を紐解くと、現代のマーケティングに求められる様々なエッセンスが垣間見える。多くの企業にとって参考になる点があるのではないだろうか。

(加藤 力/5時から作家塾(R))


※本記事はダイヤモンド・オンラインからの転載です。転載元はこちら

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