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東京海上の自動車保険で現金還元、保険業法違反の疑い濃厚

2018年01月15日 06時00分更新

文● 週刊ダイヤモンド編集部(ダイヤモンド・オンライン

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東京海上日動火災保険とパイオニアが共同開発した「ドライブレコーダー」の貸与サービスをめぐって、一部契約者に現金還元をしていることが判明し、業界に波紋が広がっている。(「週刊ダイヤモンド」編集部 中村正毅)

Photo by Akio Fujita

「国内大手損保で初めて個人のお客様向けにドライブレコーダーを活用したサービスを開発し、自動車保険の特約としてご提供することにいたしました」

 東京海上日動火災保険がそう大々的に打ち出し、2017年4月から提供を始めた新サービス「ドライブエージェントパーソナル」。パイオニアと共同開発したドライブレコーダーを自動車保険の契約者に貸与し、運転中の映像や音声を記録することで事故時の対応に活用したり、強い衝撃を検知した場合は提携する事故受付センターに自動発報し、担当者と通話できる個人向けの特約だ。

 その特約をめぐって、パイオニアの福利厚生子会社(パイオニアウェルフェアサービス)が、グループ社員向けに配った1枚のチラシが波紋を広げている。チラシには「モニター・紹介キャンペーン」と題し、パイオニアグループの社員(嘱託を含む)および同居家族が同特約を付帯すると、給与の支払い時に1万円キャッシュバックすると書かれていたからだ。

 同特約の保険料は月650円。1万円の現金還元があれば、1年以上にわたって保険料が実質的にタダになる計算となり、金融庁が法律(保険業法300条1項5号)で厳しく規制している「特別利益の提供(保険料の割引)」につながる恐れがある。

 特別利益の提供が固く禁じられていることは、保険会社の人間であれば誰しも知っているが、それに反したと疑われる行為をなぜ東京海上は行ったのか。

チラシにあるB賞の家族紹介キャンペーンには、モニターアンケートの記述がなく、規制違反がより疑われそうだ。 Photo by Masaki Nakamura
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 ポイントとなるのは、キャンペーンの原資とモニター制度だ。

 まず、保険代理店として同特約の募集をかけているウェルフェア社は、直近の通期決算で最終赤字を計上している、社員が50人以下の小規模な会社だ。それゆえ、従業員数が1万6000人を超えるパイオニアグループにおいて、国内社員を対象に大規模な現金還元を実施できるほどの体力はない。

 キャンペーンの原資を負担しているのは、あくまでドライブレコーダーを共同開発した親会社のパイオニアだ。原資の出し手が親会社であれば、グループ独自の福利厚生の取り組みなどとして、東京海上はしらを切ることができたかもしれない。

 だが、このチラシには東京海上が作成に携わり、リーガルチェックしたことを示す通し番号(募集文書番号)が記載されている。東京海上の営業部隊とパイオニアが一体となって実施したキャンペーンであることが明白だ。

 さらに言えば、東京海上は1万円の現金について、自社製品のモニターになってもらう見返りとして、親会社のパイオニアがグループ社員に提供しているだけであり、特約に対する特別利益の提供に当たらないと判断していたようだ。

 しかし、誰がどう見てもこのモニター制度と特約の募集(契約)は一体といえる。切り離して考えることの方がむしろ不自然で、特約の募集に当たって、1万円の現金還元という特別利益を提供したと見なされても仕方がない。

募文が示す組織的な規制違反

 東京海上にとって痛手なのは、パイオニアを担当する営業部隊が、職域募集で暴走しただけという言い訳すらできない点だ。

 チラシは、営業部隊とは別の募集文書管理室が複数回にわたってリーガルチェックした上で配布しており、部署をまたいだ組織的な規制違反の疑いすらあるからだ。

 現在ドライブレコーダーをめぐっては、東名高速でのあおり運転によって発生した死亡事故などをきっかけにして、足元で需要が急速に高まっている。東京海上としても、そうした需要の急拡大を追い風に特約の拡販を進めているが、付帯率はまだ1割を切る水準のようだ。

 付帯率の底上げを狙って、キャンペーンの原資こそ出さないものの、陰に陽にパイオニアに働き掛け、1万円還元という破格の条件を設定させることで、もし契約(業務上の地位を利用した圧力募集)を迫っていたとすれば、それもまた大問題となるだろう。

 折しも金融庁は、代理店への手数料体系やインセンティブ報酬の在り方、5000円の商品券などで見込み客を集めては募集人に数千~数万円で紹介販売するリーズ行為など、募集に伴う特別利益の提供に対し目を光らせ、一部で自粛を促している真っ最中だ。

 東京海上は「本キャンペーンは、もともとは開発社であるパイオニアが自社製品について社員およびその家族を対象にモニター制度を立ち上げたものと認識しているが、案内の仕方等に誤解を招くところがあったので、真摯に受け止め、適切に対応する」と説明するが、損保の雄らしからぬお粗末ぶりと言わざるを得ない。


※本記事はダイヤモンド・オンラインからの転載です。転載元はこちら

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