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KTUの自作キーボー道 第1回

人はなぜキーボードを自作するのか? “キーボー道”への誘い

2018年03月12日 12時00分更新

文● 加藤勝明 編集●北村/ASCII編集部

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メカニカル式

 高級キーボード、特にゲーミングキーボードで圧倒的に多いのが“メカニカル”。メンブレンや静電容量無接点式と違い、個々のキースイッチは小さなパッケージに格納されており、必要な数だけ並べて使用する。押下時の反発力やフィーリング、打鍵音などはキースイッチ内部のバネや軸などの構造で決まるため、さまざまなキースイッチが作られている。

 メカニカル式の欠点は物理接点に頼る構造ゆえ接触不良が起こると“チャタリング(1回の押下で何度も反応してしまうこと)”が発生すること、そして特別な対策をしない限り、打鍵時の音がメンブレンや静電容量無接点式よりも大きくなってしまうことだ。

中~高級キーボード、あるいは自作キーボード界での定番はメカニカル式のスイッチ。スイッチの回路が1つのボックスになっているうえに、スイッチの選択で打鍵感を変更できるため、自作キーボード界ではこれが主流

メカニカル式のスイッチの中身。キーキャップを保持する軸(Stem)、反発力を産むバネ、そして上下に分割できるケースに金属製の接点で構成される。押下時のフィーリングは主に軸形状とバネの重さ、接点の形状の3つで決まる

 メカニカル式のキースイッチは多数のメーカーで製造されており、仕様の差異のほかにメーカーごとのテイストの違いがキーボー道住人の心を惹きつける。メカニカル式で最もメジャーなのはドイツCherry社が設計している「Cherry MX」シリーズたが、同シリーズの特許切れに伴い、Gateron、Kailh、Outemu、Greetechといった“中華メーカーのクローン品”が多数出現している。

 RazerやEpig Gearなどのゲーミングデバイスメーカーも独自スイッチを擁しているが、基本的に中華メーカーのOEM品だ。

 このCherry MX互換キースイッチ最大のメリットは、Cherry MX対応キーキャップなら、メーカーを問わず装着できること。市販されているCherry MX対応のキーキャップは、キーキャップが他のキーと干渉するといった物理的な制約がない限り、どんなキーボードにも装着できる。

 また、静電容量無接点式キーボードでもCherry MXのキーキャップが使えるような機構を持つものであれば装着できるなど、「Cherry MX互換」というキーワードはキーキャップ界の共通規格と言ってもいいだろう。

 ゲーマー向けのカスタムキーキャップや、キャラや造形に凝ったキーキャップ(Artisan Keycapと呼ばれる)が存在するのも、このおかげだ。

Cherry MX互換のキースイッチは、上部が「+」字状になっている。WASDだけ手触りを変えるゲーマー向けキーキャップは、基本的にCherry MX互換スイッチを採用していればどのメーカーのキーボードにも装着できる(ただし大型キーは受け側の物理的制約を受ける)

Artisan Keycapsは量産が効かないものが多いため、広く流通しているわけではない。図は“PUBG”に登場する装備を造形したもの。これはベースで、自分でさらに塗装して完成する。著作権なにそれの魔境なので、すべて紹介できないのが残念

 Cherry MX以外にもメカニカル式スイッチはあるが、アルプス電子のスイッチ(AppleのExtended Keyboardなどの採用実績あり)は現在消滅し、台湾のTai-HaoやカナダのMatiasが互換スイッチを細々と出している程度(専用のキーキャップが必要)。

 またロジクール「Romer-G」、SteelSeries「QX2」など、ゲーミングデバイスメーカーが自らキースイッチを開発する流れも生まれている。

 今後もCherry MXと互換性のない独自キースイッチはこれから増えていくだろうが、汎用性の高いCherry MX互換勢力を超える勢いはない。

ロジクールのRomer-Gスイッチは、中央部にLEDが埋め込まれ、それを囲む壁でキーキャップを支えるため、Cherry MX用のキーキャップとは互換性がない。その分バックライトの光の透過性を高めているのだ(撮影:林祐樹氏)

その他

 メンブレン、静電容量無接点、メカニカルがキースイッチの3大勢力といえるが、その他にも古のIBM 101キーボードなどで採用された「バックリングスプリング」式、Zowie製ゲーミングキーボードに採用されているWooting製「Flaretech」スイッチなど、さまざまな機構・種類のスイッチがあるが、今回は割愛したい。

なぜ自作キーボードには
メカニカルが向いているのか?

 さて、こうしてキーボードに使われるスイッチを知ったところで、改めて自作キーボード沼からスイッチを眺めると、沼の住人達はCherry MXまたはCherry MX互換のメカニカルキースイッチを使う人が多い(最近はMXと互換性のないロープロファイルスイッチも徐々に増えてきた)。

 その理由はスイッチ機構が小さなボックスにまとまっているため、必要なキーの数だけ調達し、ケースを作って固定すればよいからだ。フィルムや基板製造が必須のメンブレンや静電容量無接点式はこう簡単にはいかない。

キースイッチの識別は主に軸の色で行なわれる。Cherry MXやGateron、Kailhの主要スイッチは色でおおよその特性が掴めるようになっているが、別に業界で規定されているわけではないので、さまざまなバリエーションがある

 さらにキースイッチの選択が豊富にあり、自分に合ったタッチのものを組み合わせることができる。そこで、代表的なCherry MX互換メカニカルキースイッチに関して、大ざっぱな特性をまとめておくことにしよう。

 Cherry MX互換のキースイッチは、基本的にメーカー名と「軸の色」で識別する。キーボードのスペック表に“中華赤軸使用”などと書かれていることがあるが、これは「Cherry MX 赤軸と特性が似てるけど、GateronやKailhなどの中華メーカーの同等品を使っている」という意味なのだ。

これらは同じCherry MX 赤軸のバリエーションなので重さは同じ。ハウジングが全部黒いスタンダードタイプ、上部ハウジングの透明なRGB LED対応タイプ(LEDの光がよく回り込む)、さらに軸に静音化加工を施した静音タイプの3種類がある

 今回は打鍵時のフィーリングを軸に、各社どんなスイッチがあるのかという観点からまとめてみた。次ページ以降のカッコ内の数値は、キーの重さ(アクチュエーションフォース)を示す数値で、これが大きいほど重く感じる。ただこの数値も誤差があるうえ、公式サイトと販売サイトで記載されている数値が違うこともあるので、目安として捉えていただきたい。

左側はKhailhの“Boxスイッチ”と呼ばれるもの。普通の軸よりも押下時にグラつきにくい。右側は自作キーボード界で最近注目を集める薄型のロープロファイルスイッチ。前者はCherry MX互換キーキャップが使えるが、後者は専用のキーキャップが必要となる

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