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ゴルフで「マウスピース」を使うと飛距離アップは本当か

2017年12月15日 06時00分更新

文● 森下真紀(ダイヤモンド・オンライン

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以前にゴルフの公式戦にマウスピースを使用して失格になったプロゴルファーがいた。マウスピースで「飛距離が伸びる」という理由がルールに抵触したからだ。マウスピースを使うとスポーツ競技のパフォーマンスが向上するのか。スポーツ時におけるマウスピースの有用性とは何か。筆者が歯科医師の立場で解説する。(歯科医師・歯学博士・日本歯科総合研究所代表取締役社長 森下真紀)

マウスピースを使用したプロゴルファーは
なぜ失格になってしまったのか

 数年前に遡るが、国内男子ゴルフ公式戦において、あるベテランのプロゴルファーが“あるもの”を使用していたとして失格となった。

 そのあるものとは、ラウンド中に装着していたとされる「マウスピース」。

 マウスピースの使用目的が、咬み合わせが悪いための治療、もしくは強い噛み締めから歯を守るため、といったものであれば、ゴルフの競技上マウスピースの使用は禁止されておらず、装着してラウンドを回っても何ら問題はない。

 では、なぜ、そのプロゴルファーは失格となったのか。その理由は、「マウスピースをつけると飛距離が伸びる」という、競技中に発せられた彼の一言である。

 ゴルフ規則には、「人工の機器と異常な携帯品、携帯品の異常使用」という項目があり、プレーする上でプレーヤーの援助になるようなものを使用することは禁止すると規定されている。そのため、彼のその一言によって、「器具、すなわちマウスピースを異常に使って飛距離を得ている」と裁定され、結果として失格処分が下されたのである。

 現在、日本国内では一部のスポーツにおいて、マウスピースの装着が義務化されている。例えば、ボクシングの試合で、ボクサーがラウンド開始時にマウスピースを装着する場面をよく見かけるが、ボクシング等の危険性の高いスポーツでは、マウスピース(マウスガードと同義)の装着が義務付けられている。

 その他にも、アメリカンフットボールやラグビー(高校生・ジュニア)、アイスホッケー(ジュニア)、ラクロス(女子)、などのコンタクトスポーツに参加する場合にもマウスピースの装着義務がある。

マウスピースは怪我を防ぐプロテクターだが
運動能力を向上させる可能性が噂されている

 マウスピースは、スポーツ中に起こりうる口や歯の怪我を未然に防ぐためのプロテクターだ。マウスピースを使用することにより、口の中の怪我や損傷に対する高い予防効果が得られることから、スポーツ用マウスピースの必要性が啓蒙されつつある。

 このように、日本でも普及し始めたスポーツ用マウスピースであるが、本来の機能としての外傷の予防とは裏腹に、運動能力を向上させる可能性が噂されている。

「スポーツをする際にマウスピースを装着したら今まで以上に力を入れやすくなった」、というようなことを耳にしたことはないだろうか。冒頭で述べた、プロゴルファーの失格事例がまさにそれを端的に表している。

 これまでに、「マウスピースの使用がスポーツパフォーマンスの向上に寄与するか」という命題に対してさまざまな議論が行われてきた。十分な科学的根拠はないものの、結論から言うと、「条件付き」でその可能性はありうる。

人が力を発揮する際
食いしばりは非常に重要

 人が力を発揮する際、「食いしばり(噛み締め)」は非常に重要である。

 食いしばりの効果に関する研究結果によると、「食いしばり」は全身の筋力を瞬間的に増強させるテクニックの一つであることがわかっている。この歯の食いしばり効果は、手足のどこか一部の筋力だけをアップさせるといような局所的なものではなく、手足、体幹といった全身のあらゆる筋力を同時に向上させる働きがある。從って、踏ん張るような運動動作や瞬間的に全身性に強く大きな筋力が必要とされるような場面においては、歯の食いしばりは絶大な効果を発揮する。

 しかし、虫歯や歯周病など何らかの原因により歯を失った状態のまま長期にわたり放置している場合や、出っ歯や受け口など矯正治療を必要とするような咬み合わせの場合、また片側だけを極端に強く噛んでおり左右均等に噛めない場合など、咬み合わせが不安定な場合には、咬み合わせが良好な場合と比較して食いしばり効果はどうしても減弱する。

 “条件付き”と述べたのは、まさにそこに理由がある。

 すなわち、何らかの原因で咬み合わせが不安定な場合においては、マウスピースによってその状況が補正、もしくは改善され緊密で良好な咬み合わせが得られた場合、より強い食いしばり効果が発揮されると考えられる。

 さらに、咬み合わせは身体の軸や重心、すなわちコアバランスの確立にも重要であることがわかっている。つまり、マウスピースによって良好な咬み合わせが構築されれば、不必要な身体動揺が抑制され、身体バランスの安定が得られるのだ。

 このような理由から、まさに体幹を維持しながら瞬間的に力を発揮するゴルフのようなスポーツにおいては、マウスピースの使用によって飛距離がアップする可能性は十分にあると考えられる。

 以上、マウスピースの使用によりスポーツパフォーマンスが向上する可能性について述べてきたが、基本的には口や歯の怪我の予防を目的として使用されるものであることは、十分に理解していただきたい。

ゴルフ選手やプロ野球選手にも
歯のためにはマウスピース使用を推奨したい

 近年、国全体が生活習慣病の予防や健康寿命の延伸をスローガンに掲げ、スポーツによる健康づくりを推進していることもあり、スポーツ人口は増加傾向にある。

 その一方で、スポーツによる事故も増加しており、スポーツを行う一人ひとりの危機管理意識が求められるようになってきた。特に、サッカーやラグビーなどをはじめとしたコンタクトスポーツをする子どもたちは常に危険にさらされており、子どもの頃に負った口の中の外傷は後々まで残ることもある。

 そうしたスポーツ時のリスク管理において、マウスピースは非常に有効である。そしてまた、ゴルフ選手やプロ野球選手のように瞬間的に百数十キロの噛み締める力が歯にかかる、瞬発的に大きな力を要するスポーツを行う場合にも、歯科医師の立場から見るとマウスピースの使用を推奨したい。

 その理由として、それだけ大きな力が長期にわたりかかり続けると、歯がすり減り、ひどい場合には歯が割れてしまう危険性があるからだ。

 基本的に、歯が折れた場合の予後は極めて悪い。マウスピースは、そうしたスポーツ時の強い食いしばりの力に対する緩衝材として機能し、歯が割れるリスクを軽減してくれるのである。

 このように、口や歯の怪我の予防の手助けとして、スポーツ用マウスピースは有用であると考えられる。

マウスピースは怪我の予防と
スポーツパフォーマンス向上の両側面を持つ

 以上のように、マウスピースの使用効果は、「口や歯の怪我の予防」と「スポーツパフォーマンス向上への可能性」という両側面を有している。

 そのため、「選手の安全性」を第一に考え、かつ「スポーツの結果の公平性」も損なわないよう、スポーツ時におけるマウスピースの使用については引き続き慎重な議論を続けていく必要があるだろう。それぞれのスポーツの特性に応じた、マウスピースの適切な利用方法が選択されていくことを望む。


※本記事はダイヤモンド・オンラインからの転載です。転載元はこちら

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