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新国立競技場の迷走と秩父宮ラグビー場新構想の大きな差

2017年12月12日 06時00分更新

文● 週刊ダイヤモンド編集部(ダイヤモンド・オンライン

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「青山ラグビーパーク化」構想のイメージ図 ©JSRA

「ラグビーの“聖地”である秩父宮ラグビー場をより進化させたい」――。そんな思いから、今年4月に日本ラグビーフットボール協会特任理事に就任した池田純氏は、11月22日に「青山ラグビーパーク」化構想を打ち出した。池田氏本人はあくまで「ラグビーチームのサンウルブズとラグビー業界を盛り上げるためのイメージ図だ」と話す。だが、少し視点を変えて新国立競技場建設の経緯と比較してみると、“聖地”を守り進化させる重要な意味を持つ提言ではないかと思えてくる。(「週刊ダイヤモンド」委嘱記者 大根田康介)

築70年の秩父宮ラグビー場を
「青山ラグビーパーク」にする構想

 秩父宮ラグビー場がある神宮外苑地区は、新国立競技場が建設されており、その周辺では「神宮外苑地区まちづくりに係る基本覚書」に基づき再開発が着々と進行している(関連記事「東京五輪でうごめく慶應人脈 神宮外苑開発マップ」)。地権者は東京都及び明治神宮、日本スポーツ振興センター(JSC)、高度技術社会推進協会、伊藤忠商事、日本オラクル、三井不動産の7者だ。すでにJSCが入る高層ビルは完成し、三井不のホテルや日本体育協会や日本オリンピック委員会が入る岸記念体育会館の新会館も建設が進んでいる。

 周辺で建物が新築、高層化する中で、降って湧いたのが、築70年の秩父宮ラグビー場を「青山ラグビーパーク」にする構想だ。敷地内にパブを作るなどラグビーファン以外でも来場しやすくする。「単純にハコモノというハード面に頼ることなく、集客力を上げる方法はいくらでもある。大切なのは、そのスタジアムのコンセプト。試合とは関係なくても、たくさんの人がラグビー場に行くことが楽しいと思える場所に進化させたい」と池田氏は意気込む。

横浜DeNA初代球団社長で手腕
19年W杯後のラグビー人気を危惧

11月の記者会見で構想について話すJSRAの池田純氏 ©JSRA

 そんな池田氏は、住友商事、博報堂などを経て、2011年12月に横浜DeNAベイスターズの初代球団社長に就任した。当時の球団は赤字経営だったが、池田氏は横浜スタジアムの敷地内にビアガーデンを作るなど地域密着型の球場に作り替え、観客動員数を12~16年の5年間で110万人から194万人に躍進させるなど手腕を発揮した。そして今年4月、日本ラグビーフットボール協会特任理事に就任したのを機に、ラグビー業界へ飛び込む。11月には、ラグビーチームのヒト・コミュニケーションズサンウルブズの運営会社、一般社団法人ジャパンエスアール(JSRA)のCEO代理副社長兼CBO(チーフ・ブランド・オフィサー)に就任した。

 池田氏が危惧するのは、19年のラグビーワールドカップ(W杯)開催後のラグビー人気だ。「スポーツの勝敗は一時的な要因にすぎない。15年W杯で南アフリカ戦に勝ち、一瞬はブームになったがすぐに消え去り、W杯の前と後でラグビーの景色を変えることはできなかった」(池田氏)。ラグビーファンは来場するが、それ以外の人にとって現在の秩父宮ラグビー場は門構えからして敷居が高い。一方で、自身が経営に関わるサンウルブズというチームはまだ弱くて知名度も低く、売上高は10億円程度で1億円強の赤字。しかも、東京都・青山にあるラグビー場の存在を、当の青山の住民すらろくに知らない。こうした問題をクリアするために、ラグビーパーク化構想をぶち上げたのだ。

 この構想の肝は、民間活力で既存施設を十分に活用できる点にある。隣接する新国立競技場建設の無計画さとは大違いだ。

 11月13日、建設計画の始動から約5年の時を経て、ようやく新国立競技場の東京五輪後の利用方法が閣議決定された。陸上トラックをつぶして観客席を追加し、サッカー、ラグビーなどの球技専用にするという(関連記事「五輪後は陸上競技ができない?無駄だらけ新国立競技場の採算」)。これにより陸上競技の“聖地”が消え、ハードとしてのレガシー(遺産)はなくなる。それ以上に、五輪後の経営がどうなるのかいまだ不透明だ。

 そもそも、新国立競技場の建設は、計画そのものが稚拙だった。19年のラグビーW杯や20年の東京五輪を控え、「8万人規模の新しい競技場にして世界に誇れるスタジアムにしたい」というスポーツ業界や政治家の思惑が先行してしまい、ハードありきで議論が進められ、いかに稼ぐかという議論がほとんどなされなかったのだ。その結果、巨額の建設費がかかる当初の計画は頓挫、収支計画すらいまだめどがつかない体たらくだ。

民間活力により
レガシーを後世に

Photo by Kosuke Oneda

 赤字を見越してか、新国立競技場、秩父宮ラグビー場、国立代々木競技場の運営権を民間企業に一括売却する方針も検討されているものの、「いったい誰が赤字施設の運営権を買うのか」と関係者はいぶかる。ネーミングライツ(命名権)の売却も予定されているが、仮に大正天皇第二皇子でラグビー協会名誉総裁も務めた秩父宮雍仁親王の遺徳を偲んで冠された「秩父宮」の名が外されれば、元日本ラグビー協会会長でもある東京五輪組織委員会会長の森喜朗氏も快く思わないはずだ。

 わざわざ多額の税金を投じてハードの整備をすることなく、民間活力による既存施設の有効活用で稼げる施設が生み出せるなら、それに越したことはない。秩父宮ラグビー場も既存建て替えで済み、レガシーも後世に伝えられる。その意味で、今回の青山ラグビーパークのような構想が、ようやく民間、しかもスポーツ業界側から提示されたこと自体に大きな意味がある。


※本記事はダイヤモンド・オンラインからの転載です。転載元はこちら

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