ビッグデータとAIは顧客だけでなく
宿泊施設側にも恩恵がある
1日に150万泊以上の予約があるブッキング・ドットコムには、220の国と地域に約150万軒もの掲載施設がある。利用客に満足してもらうためには、パートナー(宿泊施設)数を増やしていくことが重要だという。
それには、パートナーである宿泊施設側にも良いツールを提供することが、ビジネスを進める上で不可欠であり、そのツールやプラットフォームの改善に多くの投資を続けているという。
そこで今度は、宿泊施設側をサポートする業務を担うCarlo Olejniczak (カルロ・オレジェンジャカ)氏に話を聞いてみた。
―――ビッグデータとAIは、利用客だけでなく宿泊施設側にもメリットがあるのですか?
【オレジェンジャカ】 はい。オンラインでは、業者にお願いして宿泊施設を予約するのではなく、自分で見つけて自分で予約したいという欲求が非常に顕著ですので、顧客と宿泊施設をつなぐツールは極めて重要です。
そこで、利用客がよく宿泊施設にする質問とその答えを43ヵ国語に翻訳して準備しています。たとえばロンドンのホテルを予約した日本人が、よくある質問を日本語でした場合は、自動的に英語に翻訳してそのホテルに送ります。ホテル側も英語で回答すれば、機械が自動的に日本語に翻訳して利用客に返します。
その次のステップとして、AIを用いたシステムを現在構築中です。「この宿泊施設はこの質問に対してはこう答える」というのをマシンラーニングで覚えさせ、利用客の質問に対して機械が即座に回答できるように準備を進めています。
利用客と宿泊施設をつなげる役割をブッキング・ドットコムがサポートすることによって、利用客の満足度を高め、宿泊施設側にはキャンセル率が下がるというメリットが生まれます。
―――クラウド型のアプリが充実しているそうですが、どのようなものがありますか?
【オレジェンジャカ】 宿泊施設側に「パルス アコモデーション アプリ」というスマホアプリを提供しています。このアプリがあればスマホ上でチェックインやチェックアウトを確認できたり、価格や空室状況のアップデートが行なえますので、宿泊施設のオーナーやマネージャーが、24時間フロントに張り付いている必要がなくなります。
さらに、「Booking Suite」という施設向けクラウドサービスがあります。このサービスには2つの機能があります。1つは、自社のウェブサイトや外国語対応のウェブサイトを持っていない宿泊施設に、ウェブサイトを提供する機能です。
もう1つの機能が「レートインテリジェンス」です。これは市場デマンドデータを使用して、適切なルーム価格の情報を提供します。したがって、宿泊施設が過去の統計を取ってエクセルでデータをまとめたり、競合施設の価格を調査しなくて済むのです。
―――なるほど、宿泊施設側の負担を軽減し、業務の時間短縮を図るわけですね。
【オレジェンジャカ】 そのとおりです。ブッキング・ドットコムとパートナー提携すれば、業務の負担が軽減できると宿泊施設側に感じてもらうことで、掲載施設の数を増やしていくのです。
我々は顧客を第一に考えていますが、そのためにはパートナーとなる宿泊施設の協力が不可欠です。ここでもビッグデータとAIが活かされているわけです。
―――ありがとうございました。
グローバル企業ならではの多様性が
新サービスと顧客の満足度に結びつく
デジタルプラットフォームにおいてはどこの会社にも負けない自信があるとCEOのダンズ氏は語る。これは、旅行会社ではなくIT企業が立ち上げたサイトだからこそ実現できる戦略だといえる。
実際、PCがなくても宿を予約できるよう早い段階でスマホアプリを開発するなど、同社は利用者のニーズに合わせて常にサービスを革新してきた。
国や人種によって、求めるサービスの質や優先順位が違うにもかかわらず、ブッキング・ドットコムがあらゆる国でサービスを展開し成功しているのは、顧客の多様性に抗うことなく、それぞれのニーズに合うようカスタマイズしてきたからだ。
いかに早く顧客が望むカスタマイズを実行して、顧客の満足度を獲得するか。これがシェア拡大につながると取材で確信できた。インターネットビジネスにおいては早さが重要というのを、それをまざまざと見せつけられたかたちだ。