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ロードマップでわかる!当世プロセッサー事情 第431回

Ryzen MobileはTDP 15Wの投入を最優先 AMD CPUロードマップ

2017年10月30日 12時00分更新

文● 大原雄介(http://www.yusuke-ohara.com/) 編集●北村/ASCII.jp

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2012年~2017年のAMDプロセッサー ロードマップ

セキュリティーを強化した
Ryzen Proを出荷

 また同じ9月1日(米国時間では8月31日)には、Ryzen Proの出荷も開始された。このRyzen Proのラインナップそのものは6月に発表されており、出荷開始を9月までずらした形だ。

Ryzen PROのラインナップ

 こちらの特徴はEPYCと同じようなセキュリティー機能、さらにシステムマネジメント機能を「有効化」させていることだ。AMDはこれをAMD Secure Technologyと称しているが、具体的には以下の機能がRyzen Proで利用できる。

AMD Secure Technologyの詳細
Transparent Secure Memory Encryption メモリーI/FにAES128の暗号化/復号化エンジンを搭載しており、メモリーへ暗号化した形でデータやコードを格納することで、秘匿性を高める。
Secure Boot Process いわゆるセキュアブートへの対応。Zenコアは内部にセキュアブート用のTPMを内蔵しており、これを利用してセキュアブートを実行できる。
Trusted Applications Zenコアは内部にARMのTrustZone付きCortex-A5コアを内蔵しており、TrustZoneを利用してのセキュアな実行をサポートする。
Secure Production Environment セキュアなアプリケーションの開発・配布を行なうための環境をAMDが提供する。
DASHへの対応 業界標準団体であるDMTFが策定するDASH(Desktop and mobile Architecture for System Hardware)というシステム管理の標準規格に準拠した管理ツールを提供する

 ちなみにチップセットはRyzenと同じくX370やB350、A320がそのまま利用できるが、これらのチップセットにはすでにRyzen Proに対応した機能が搭載されている。

 正確に言えば、こちらについても通常のデスクトップ製品向けのものではチップセット側のSecure Technology対応やDASH対応は無効化して出荷しているそうで、利用するためにはRyzen Proに対応したチップセットを搭載するマザーボードが必要となる。したがって、個人ユーザーでこれらの機能を使うのはやや敷居が高いだろう。

Ryzen MobileはTDP 15W枠の
モバイル向けを最初に投入

 さて、すでに出荷された製品の話はここまでで、ここからは今後の話となる。Raven Ridgeのコード名で知られていたRyzen Mobileだが、まず最初に投入されるのはTDP 15W枠のモバイル向けになることが明らかになった。

 こちらの投入は来年初頭になると思われるが、残念ながらこのタイミングではまだデスクトップ向けには投入されない。

 実際にデスクトップに投入されるのは、モバイル向けが一段落するタイミングと思われ、最低でも1四半期あとの4月あたり、ヘタをすると来年のCOMPUTEXの時期までずれ込むかもしれない。これはAMDの戦略が、これまで参入できなかった薄型軽量ノートの市場を最優先としているためだ。

 Kaveri/GodavariやCarrizo/Bristol RidgeなどのBulldozer系列コア+GCNという構成では、TDPそのものは15W以下(Configurable TDPを使うことで12Wまで落とせる製品もあった)に押さえ込んだものの、そのぶん性能も下がるため、インテルのCore iシリーズに比べると競争力が足りないということで採用事例がなかった。

 ところがRaven RidgeではCPU・GPU共に大幅に性能を引き上げたことで、15W枠の市場で高い競争力を持つと判断されており、これもあってまずはモバイル向けの15W枠を優先した形だ。

Ryzen Mobile

 もうひとつ、裏の事情で言えばRyzen 3の市場は平均販売価格が100ドル台のため、どうしても薄利多売にならざるを得ない。

 ところがMobileの15W枠では、たとえばCore i7-8650UやCore i7-8550Uはどちらも409ドルという価格を付けているわけで、これと競合するとなれば当然同程度の価格をつけられる。つまりはるかに利幅が大きいわけだ。

 Ryzenのおかげもあって大幅に財務状況が好転しつつあるとは言え、インテルと比べるとはるかに厳しい状態にあるAMDにとっては、利益を最優先するのは当然でもある。

 加えて言えば、今のところRyzenはGPUなしにもかかわらず売れているので、もうしばらくGPUなしのラインナップを継続しても、大きな影響はないと判断された可能性もある。

 どうしてもGPU内蔵タイプが必要、という向きにはそれこそBristol Ridgeでも良いわけで、実際内蔵GPU性能で言えばIntel HD Graphics 620やUHD Graphics 620を凌ぐ性能を誇るため、もうしばらくこれでカバーしよう、ということだろう。

 ちなみにRyzen Mobileのダイと、今後登場するであろうGPU内蔵のデスクトップ向けRyzenはまったく同一であり、異なるのは動作周波数とTDPということになる。したがって、Ryzen Mobileの性能からある程度GPU統合Ryzenの性能も推察できることになる。

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