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「野菜工場」で先行する日系企業を米中の新興勢力が猛追の行方

文● 週刊ダイヤモンド編集部(ダイヤモンド・オンライン

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プレンティの野菜工場では垂直の壁面でレタスなどを育てる。少ない水で生産できるのが特徴だ(右)。中科三安は自動化技術が課題 Photo by Hironobu Senbongi、Plenty
2018年、野菜工場の建設が国内外で相次ぐ。先行投資をして野菜工場の黒字化に道を開いた日系企業に、やっと“刈り入れの時期”が到来するわけだ。しかし、米中の新興勢力が巨額投資を行い、市場を席巻しようとしている。(「週刊ダイヤモンド」編集部 千本木啓文)

 10月に千葉・幕張で開催された農業展示会場に、日系の野菜工場メーカー幹部たちがひそかに訪れていたブースがあった。ブースでは中国人スタッフが、太陽光が届かない屋内でLEDの光でレタスなどを育てる野菜工場のシステムを説明する。目玉は日系メーカーより3割安い価格だ。

 ブースの出展社は、中国で野菜工場を運営し、プラントも販売する中科三安。中国国務院直属の中国科学院と大手LEDメーカーが共同出資した“国策企業”だ。

 野菜工場は、日本国内で破綻が相次いだことから採算性が疑問視されたが、栽培技術を確立した大規模工場では安定して利益が出るようになっている。

 実は、日系企業は野菜工場業界のトップランナーだ。国内外の野菜工場に詳しいシンクタンク、イノプレックスの藤本真狩代表理事は、「日本で成功した工場のレタスの生産費は1株80円ほどで世界一安い」と指摘する。

 藤本氏によれば、野菜工場のプラント市場は2020年に1560億円、30年には3460億円になる。こうした展望を持てるのも野菜工場の黒字化を成し遂げた日系企業の努力があってこそ。今後は待望の“稼ぎ時”といえる。

 実際、海外に打って出る動きもある。京都府で世界最大級の野菜工場を運営するスプレッドは10月17日、アラブ首長国連邦の財閥企業と提携し、日本の既存施設を上回る日産3万株の野菜工場を現地で建設すると発表した。18年に着工し、中東で20カ所に増やす。

 将来は海外を中心に全世界で100カ所の工場建設を目指す。このように海外に比重を移そうとする日系企業はまれだ。なぜなら数十カ所の工場を建てようとすると「百億円単位の投資になるが、資本力のある会社が少ない」(別の野菜工場の運営会社幹部)からだ。

 パナソニックなど大手メーカーもプラントを販売しているが、数ある新規事業の一つでしかない野菜工場に割けるリソースは限られ、大胆な成長戦略を描けない。

 むしろ、後発組の海外勢の方が、資金が潤沢でアグレッシブだ。

 新興勢力の有力企業は米国と中国に1社ずつあり、“米中の覇権争い”の様相を呈している。

 中国の代表は前出の中科三安だ。国策企業のご多分に漏れず、国を挙げた研究開発体制で競合を圧倒。現在、中国で2工場を運営するだけだが、80人もの研究者を擁する。

 売上高は16年で1000万元(1億7000万円)にとどまるが、18年にはその20倍に達する強気の目標を立てる。「17年末に米ラスベガスで大手スーパー向けにレタスを生産する1万平方メートルの自社工場を稼働させる」(易承甫・中科三安セールスマネジャー)からだ。

 中科三安は日本を含めて海外でのプラント販売を強化。20年には「生産システムの世界シェア3割を目指す」と鼻息が荒い。

ソフトバンクなど220億円出資の米企業も大勝負へ

 他方、IoT(モノのインターネット)の仕掛け人がこぞって投資するのが米国のプレンティだ。

 同社は7月、ソフトバンクグループの10兆円ファンドなどから2億ドル(約220億円)を調達。この資金調達には米アマゾンのジェフ・ベゾスCEOや米アルファベットのエリック・シュミット会長の投資会社も参加した。

 プレンティの野菜工場の強みはセンサーやカメラで集めた情報をAI(人工知能)が解析し、気温や照明などを自動制御する技術だ。

 ただ、同社が運営しているのはサンフランシスコの自社工場のみ。栽培面積も中科三安の工場の半分以下で実証の域を出ていない。

 18年からがプレンティの勝負どころとなる。既存施設の2倍の面積を有する工場を2カ所で立ち上げるからだ。

 最終目標は人口100万人以上の都市圏ごとに工場を建て、米国やサウジアラビアなど世界500カ所で野菜を生産すること。課題は拡大局面に入ってからも予想収量を実現し続けられるかだ。

 同社は工場当たり年間2250トンのレタスを生産できるとしており、その生産性は他社を凌駕する。だが、栽培面積を増やしたり、気候の違う国に展開したりしても安定的に生産できるかは未知数だ。

 これは中科三安を含む後発組に共通するリスクだ。

 迎え撃つスプレッドの稲田信二社長は10年以上の工場運営で得たトラブル対応のノウハウの重要性を強調し、「今後5年は先行者としての優位を保てる。その間に海外に進出する必要がある」と語る。

 一方、工場を運営しない日系の野菜工場メーカーは、機器の価格では中国に負け、技術面では米国に先行を許している。第2ステージに突入した野菜工場ブームに乗れなければ後発組に駆逐されかねない状況だ。


※本記事はダイヤモンド・オンラインからの転載です。転載元はこちら

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