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昭和電工、無謀と言われた買収が超有望事業に一変した逆転劇の真相

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電炉では、黒鉛電極はこのように使われる。上方にある2本の筒状の炭素で、日本の技術に強みがある。使う前の状態は、“チーズを刺したちくわ”のような外見である 写真提供:昭和電工

 手のひらを返すとは、まさにこのことだろう。

 市況が低迷していた1年前には、業界内で「無謀だ」と非難された海外M&Aだったが、市況が急激に好転した今日では「安い買い物になった」と買収に対する見方が180度ひっくり返ったのだ。

 10月2日、総合化学メーカーの昭和電工は、ドイツのSGLカーボンが持つ黒鉛電極事業の買収を完了し、同事業で世界トップに躍り出た。黒鉛電極とは、鉄スクラップを溶かす電気製鋼炉(電炉)で、大電流を流して炉内を加熱するために使われる電極棒(消耗品)のことだ。世界3位だった昭和電工は、世界2位のドイツ企業を買収して一気に勝負に出る。買収金額は、約156億円だった。

 年間の生産能力で見ると、1位は昭和電工+SGLカーボン(25万9000トン)、2位は米グラフテック・インターナショナル(19万1000トン)、3位はインドのグラファイト・インディア(9万8000トン)、4位が東海カーボン+SGLカーボンの米国事業(9万6000トン)、5位がインドのHEG(8万トン)という構図になる。

 昭和電工にとって誤算だったのは、SGLカーボンの全株式の取得に際して米国の規制当局から設備能力の削減を求められたことである。結果的に、米国におけるSGLカーボンの事業を同じ日系の競合である東海カーボンに譲渡した(東海カーボンは、これで念願の米国進出を果たすことになる)。

 だが、昭和電工の誤算は、2017年に入ってから、中国で鉄を生産する高炉メーカーや電炉メーカーに対する環境規制が厳格に適用されるようになって、嬉しい誤算へと劇的な変化を遂げる。これは、誰もが想定外の事態だった――。

 昭和電工が16年10月に今回の大型買収を電撃発表した時点では、中国ではまだ“際限なき過剰生産”が繰り返されていた。鉄の需給のバランスは崩れ、目安となる圧延鋼板の価格も低迷が続いていた。

 その結果、昭和電工の黒鉛電極事業は、2年続けて赤字(15年度は▲12億円、16年度は▲58億円)を出す体たらくだった(無機部門)。

 当時、「なぜ、赤字の事業なのに、海外M&Aでさらに赤字を増やすのか」と強く批判されたのは無理もない状況だったのである。

環境規制の強化が追い風

 ところが、実は16年というタイミングは――後から判明したことではあるが――中国の高炉メーカーによる過剰生産の影響で、これまで右肩下がりの状態が続いた電炉メーカーの生産量が底を打った(下げ止まった)年となった。

 加えて、世界の高炉メーカーで生産される圧延鋼板の価格も16年を境にして、上昇に転じたのである。そうした流れの中で、17年に入ってから、中国の国内で環境規制が強まったことで、高炉よりも二酸化炭素などの温室効果ガスの排出量が少ない電炉が注目された。そして、昭和電工のプレゼンスもまた、急激に上がったのである。

昭和電工の黒鉛電極事業で、中核を担っている大町事業所(長野県)。すでに輸出比率が80%を超えている。今後は世界中の拠点と連携し、効率的な生産体制を構築する 写真提供:昭和電工大町事業所

 今回の買収で、昭和電工の黒鉛電極事業は、東京、大町(長野県の主力工場)、米国、ドイツ、オーストリア、スペイン、マレーシアと一挙に拡大した。初めて欧州に拠点を得たばかりか、重要な市場は全てカバーする体制が整った。

 かねて昭和電工の森川宏平社長は、「グローバルでトップシェアを取れば、事業の収益力が高まる。その結果として、市況の変動にも耐性が付く」と繰り返してきた。

 2000年代前半より、中国の過剰生産に振り回されてきた東アジアの市況だったが、今後は中国で進む環境規制の強化による影響が出てくる。基準に満たない事業者は生産を継続できず、脱落していく。それも、かなりの業者が市場から退場すると見込まれているのだ。

 そうした中で、世界の“横綱”となった昭和電工は、荒れていた黒鉛電極の世界に(1)日本基準の品質、(2)きちんと利益が取れる価格、(3)納期を厳守する仕組み、(4)需給を考えるマインドなどの新しい価値観を持ち込む。

 中国勢の動きが止まる数年間のうちに、「全く新しい市場に塗り変える」(昭和電工の幹部)というのだ。それこそが、同社の業界再編計画の全貌だったのである。

 実は、1年前に買収計画を発表した時点より、昭和電工の経営幹部の考え方は、全く変わっていない。むしろ、事業環境の方が様変わりしたことが奏功し、当初の「自ら動いて業界再編を起こす」という意図が進めやすくなった。

 昭和電工のSGLカーボン買収劇は、ようやく幕が上がったばかり。今後は、買収後の事業展開で世界の観客を唸らせる必要がある。

(「週刊ダイヤモンド」編集部 池冨 仁)


※本記事はダイヤモンド・オンラインからの転載です。転載元はこちら

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